PinkPantheress初来日公演レポート──同じビートで揺れた、その夜だけの仲間たち

2026年2月19日、豊洲PIT。PinkPantheress(ピンクパンサレス)の初来日公演は、約90分間、ほとんど息をつく間もなく走り抜けた。それはライブというよりも、完璧に設計された”パーティー”のようだった。

観客はただ鑑賞するのではなく、踊り、歌い、肩を組み、ライブの一部になる。ネット発の匿名的な存在という初期のイメージは、この夜、鮮やかに更新されていた。彼女はもう「インターネットの妖精」ではない。自信に満ちたポップスターだった。

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オープニングは映像演出から。強烈な生ドラムが鳴り響き、ステージ奥の一段高い台へと登場するPinkPantheress。コートをまとい、2人のダンサーとともに現れた瞬間、黄色い歓声が会場を包む。女性ファンの比率の高さも印象的だ。「Stateside」ではダンサーと完璧にシンクロしながら、まるでプロのアイドルのようにエネルギッシュに踊り切る。〈hot hot boy〉のラインでは観客が沸き、歌い、彼女の「Japan!」の一言で歓声が爆発。楽曲はライブ仕様にアレンジされ、生ドラムがビートをさらに攻撃的にする。続く「Noises」ではドラムンベースと生ドラムの衝突がクラブのような高揚を生み出す。「今回が初めての日本公演。ここに来れて嬉しい」と微笑みながら語る彼女は心から楽しそうだった。挨拶を終えてスムーズに始まった「Nice to Know You」では再びステージに現れ、VJ映像とシンクロした動きで観客を導く。フロアはまるでナイトアウトの延長線上。チェック柄や赤色を取り入れたコーディネートのファンが目立つのも象徴的だ。

「Close to You」で一度クールダウン。ダンサーが傘を持って現れ、「I Must Apologise」では雨の演出が加わる。生ドラムが入ることで盛り上がるポイントも変わり、原曲とは違う表情に。「Last Valentines」、激しいジャングル・ビートの「Break It Off」へと流れ込むと、観客の熱はさらに上昇する。「Take Me Home」では「みんな知ってる?」と問いかけ、会場全体が合唱。幸福な瞬間を一瞬で駆け抜ける。中盤のDJ Interludeでは、Stray KidsのHyunjinとともに参加したTroye Sivan「RUSH」などがミックスされ、クラブさながらの盛り上がりに。単なる着替えタイムではなく、ライブの一部として成立しているのは、彼女自身がDJとしても活動しているからこその構成力だろう。

Photo by Yaona Sui

コートを脱ぎ、赤黒チェックのセットアップ姿で登場すると、「The Aisle」から「Capable of Love」へ。ドリーミーな空気に包まれた後、「Another Life」では再びダンサーと激しく踊る。MCではTikTokで見かけたという観客を指差し、「朝8時から並んでるのね。さっきみんなと(ツアーメンバーと)相当時間があるんだねって話してたところだったんだよ(笑)」と英国人らしいジョークを交えて、茶目っ気たっぷりに語る。「True Romance」では「みんな手のひらを見せて!」と呼びかけ、誕生日の観客に「おめでとう」と祝福。オートチューン越しでも温度は伝わる。まるで友人のように話しかけるカジュアルな距離感だ。「Attracted to You」では観客のうちわを受け取り、そのまま歌唱。「Pain」では先ほどのファンに向けて「これは朝8時から並んでくれていた、あなたのための曲だよ」と言い、〈Its eight oclock in the morning〉のフレーズが自然に会場へ広がる。後半、再びDJリミックスが挟まれる。LE SSERAFIMとのコラボレーション曲「CRAZY (feat. PinkPantheress)」が流れ、会場の温度が一気に上がる。「Girl Like Me」から再び衣装チェンジ。ブラックのセットアップ姿で登場すると〈Let it all go?〉の掛け声とともに観客は跳ね上がる。「Tonight」「Stars」と力強い四つ打ち曲が続き、体力のことなど忘れさせるほどだ。

Photo by Yaona Sui

Photo by Yaona Sui

「Angel」では初めて空気が静まり、スタンドマイクでロマンチックに歌い上げる。そこからメランコリックな「Mosquito」、メロウで壮大にアレンジされた「Just for Me」へ。「カップルで来てる人いる? キュートだね」と観客とシチュエーションを結びつけるファンとのコミュニケーションの巧みさも光る。

そして終盤。「Passion」で熱をさらに上げると、「Boys a liar Pt.2」からのラストスパートは完全な多幸感ゾーンへ。歌詞がVJに映し出され、Ice Spiceのヴァースも観客が歌う。「Romeo」ではダンサーが懐中電灯を手に踊る。新旧織り交ぜながらもスムーズで飽きることのない構成でポップスターとしてのショーを完成させる。「Picture in My Mind」でエモーショナルに締めに向かい、彼女はこう語った。「初めての日本でのショーに来てくれてありがとう。もう明日にはイギリスに帰らなきゃならないの。今日はしゃべらないで音楽に集中してくれてる人も多いよね。音楽を尊重してくれてありがとう」。ラストは「Illegal」。ストロボがきらめき、会場はこの日最大の熱狂に包まれる。ダンサーとともに丁寧にお辞儀をし、ステージを後にした。

体感としては一瞬だった。足の疲れを感じる前には終わってしまった。だがそれは物足りなさではなく、理想的なパーティーそのもののようでもあった。初期にPinkPantheressに対して感じていた”ネット上の匿名性”は、この夜、完全に溶けたようだった。そこにいたのは、自信に満ちたアーティスト。そして、家でひとりで踊っていたはずの人たちが一つの会場に集まり、同じビートで揺れる光景。帰り道、一人で来ていた観客が多いことに気づいた。寒さの中、足早に帰路に着く彼らは、きっとそれぞれの部屋で彼女の曲を聴いていた仲間たちだ。その夜だけは、全員が同じパーティーにいた。

Photo by Yaona Sui