東京23区の新築マンションの平均価格が1億5,000万円を超えるなど、都心部を中心に住宅価格の高騰が続いています。こうした状況に対応するため、政府は長期固定型住宅ローン「フラット35」の融資限度額を、現行の最大8,000万円から1億2,000万円へ引き上げることを決めました。

本記事では、「フラット35」の見直しなどの制度改正のポイントを整理しながら、限度額の1億2,000万円まで借りるにはどれくらいの年収が必要なのかを、FPの視点で解説します。

フラット35の制度改正

「フラット35」は、住宅金融支援機構が民間金融機関と連携して提供する全期間固定金利型の住宅ローンです。足下の物価高に伴う住宅価格の上昇で、特に都市部では、従来の融資上限額では購入資金が不足するケースが増えていました。そこで、「フラット35」の制度を拡充し、2026年4月以降の資金実行分から、融資限度額を8,000万円から1億2,000万円へ引き上げます。

●融資限度額の引き上げ(2026年4月以降)
融資限度額8,000万円→1億2,000万円

<その他の主な改正>
●一戸建て住宅における床面積の基準を緩和(2026年4月以降)
一戸建て住宅の床面積70㎡以上→50㎡以上

●フラット35の借換融資で「フラット35子育てプラス」が利用可能(2026年3月以降)
子育て世帯の支援のため、借換融資でも「フラット35子育てプラス」が利用できるようになります。

「フラット35子育てプラス」とは、子育て世帯または若年夫婦世帯に対して、子どもの人数などに応じてフラット35の借入金利を一定期間引き下げる制度です。

残価設定型住宅ローン保険の創設

令和7年度補正予算に基づく住宅ローン支援策として、フラット35の見直しに加え、残価設定型住宅ローン保険の創設も行われます。

●残価設定型住宅ローン保険の創設(2026年3月以降)
残価設定型住宅ローンは、将来の住宅価値(残価)を差し引いた金額を返済する仕組みで、月々の負担を抑えられる住宅ローンです。

このローンを民間金融機関が提供しやすくするため、残価が想定を下回った場合の損失を補填する保険制度を創設します。住宅金融支援機構(JHF)が未回収リスクを引き受け、民間金融機関の供給拡大を後押しするものです。

限度額1億2,000万円借りられる年収はいくら?

フラット35の制度拡充によって、融資限度額が1億2,000万円まで引き上げられますが、この金額を借りられる年収はいくらなのかを導き出してみましょう。

住宅ローンの借入可能額を考える際は、主に次の2つの指標が使われます。

●年収倍率
借入額は一般的に年収の5~7倍程度が目安と言われます。住宅金融支援機構のフラット35利用者調査によると、新築マンションで7倍、土地付注文住宅では7.5倍となっており、新築物件では概ね7倍が平均的な年収倍率となっています。

この目安から逆算すると、借入額1億2,000万円の場合、7倍で年収1,700万円、8倍で年収1,500万円になります。

ただし、年収倍率は借入可能な額を大まかに求める指標であり、将来のリスクを想定しながら無理のない返済額を求めるには、返済負担率をもとに計算した方が安全です。

●返済負担率
返済負担率とは、年収に占める年間返済額の割合のことです。「年間返済額÷年収」で算出します。

フラット35では、
・年収400万円未満: 30%以下
・年収400万円以上: 35%以下
という基準があります。

これは返済負担率の上限なので、一般的には25%前後が適正と言われています。

金融機関の基準: 30~35%
理想の返済比率: 20~25%

返済負担率から必要年収を逆算する

実際に計算してみましょう。

<条件>

  • 借入額: 1億2,000万円
  • 金利: 年2.260%(2026年2月のフラット35最頻金利)
  • 返済期間: 35年
  • 返済方法: 元利均等返済

毎月返済額: 約41.4 万円 年間返済額: 約497万円

<必要年収の目安>

返済負担率35%の場合
497万円÷0.35=1,420万円

返済負担率25%の場合
497万円÷0.25=1,988万円

年収1,400万円前後が制度上ギリギリ借入可能な水準であり、安心して返済するには年収2,000万円近い水準が必要でしょう。

制度上の上限: 年収1,400万円前後
現実的な目安: 年収2,000万円前後

返済負担率は手取り年収で考える

ここで押さえておきたいのは、返済負担率を考える際の年収は手取りベースで捉える必要があるという点です。「いくらなら無理なく返せるか」といった家計の安全性を見るための指標であるため、生活費には入らない税金や社会保険料は省く必要があります。

一方で、金融機関の審査で使われる年収は税引き前の年収(額面)であることがほとんどです。これは、「いくらまで貸せるか」を判断するための指標だからです。金融機関としては、担保不動産や団信などの保証があるので、家計の安全までは見る必要がなく、できるだけ多く借りてほしいのが本音でしょう。

借りる側は審査基準ではなく、家計基準で考えることが重要です。

そのように考えると、手取り年収2,000万円は額面年収3,000万円前後になります。国税庁の民間給与実態統計調査によると、年収2,500万円超の給与所得者は0.3%しかいません。共働きでも、お互いが年収1,000万円を超えるレベルでないと難しいでしょう。

限度額1億2,000万円は高所得層向けの設計

限度額の1億2,000万円を借り入れた場合、今回の試算では総返済額は約1億7,380万円となり、利息だけでも約5,380万円にのぼります。

政府は住宅価格高騰への対応として、融資限度額の引き上げを決めましたが、一部の高所得層に向けられたものであって、多くの世帯にとっては関係のない話になっています。

一方で、固定金利ローンの利用促進という点では、「フラット35子育てプラス」の拡充は期待できる制度改正と言えるでしょう。

住宅ローンは長期にわたって家計に影響を与える重要な選択です。後悔しないためにも、借入可能額ではなく、将来まで見据えた返済可能額を基準に、無理のない住宅ローン選びを心がけましょう。