製造領域において派遣・人材紹介事業を手掛けるUTグループは、1月21日から23日まで東京ビッグサイトで開催された「製造業 人手不足対策EXPO」に出展した。

本記事では、UTグループ執行役員であり、UTエイム 代表取締役社長の筑井 信行氏が同EXPO内で行ったセミナー「応募データが語る採用戦略の転換期と事例」の内容を紹介する。

  • 製造業 人手不足対策EXPO内で行われたUTグループのセミナーに登壇する、UTグループ執行役員・UTエイム代表取締役社長の筑井 信行氏

    製造業 人手不足対策EXPO内で行われたUTグループのセミナーに登壇する、UTグループ執行役員・UTエイム代表取締役社長の筑井 信行氏

製造業界における環境の変化と現状

セミナー冒頭、筑井氏は製造業の現場で日常的に聞かれる声として、「コストを投下しても採用できない」「採用しても離職が多く、現場に負担がかかっている」「若年層・中堅層の空洞化が進んでいる」といった状況を挙げた。

筑井氏によると、2026年から2027年にかけて、製造業では労働の需要と供給が本格的に反転する見通しだという。これまでのように採用数を増やす努力だけでは、現場で必要とされる人材不足を埋めることが難しくなる。加えて、製造業の年齢構成を見ても、中堅層・若年層が薄い「逆ピラミッド構造」が進んでおり、将来の現場運営や技能継承に対する懸念が強まっている。

  • これからの労働需要の予測グラフ

    これからの労働需要の予測グラフ

採用コストにおいても、10年前と比べて採用単価が大きく高騰しているという。UTグループの事例によれば、住居の確保や待機期間までを含めると、1人を採用するための総コストが100万円前後まで膨らんでいる。さらに採用できたとしても3ヶ月以内に半数が離職してしまうといった実態があり、採用と定着の両面で採算構造の歪みが生じている点が、大きな問題であると説明した。

  • 製造業派遣における、採用数と採用コストの変化(UTグループの実例)

    製造業派遣における、採用数と採用コストの変化(UTグループの実例)

こうした採用コストの高騰や賃金の上昇、人材確保の困難を背景に、人材派遣会社の倒産件数はここ10年で最多となっている。筑井氏は「従来型の派遣モデルでは維持できない段階になっている」と述べ、人材派遣業界全体が大きな転換点を迎えているとの認識を示した。

UTグループ30万人の応募データから見えた、採用市場の実態

UTグループでは、求人メディアや人材紹介会社、オウンドメディアなどを通じ、直近2年間で約30万人の工場向け応募者を獲得してきた。筑井氏は、この膨大な応募データをもとに、現在の採用市場の実態を紹介した。

若年層の就労人口の減少により採用母集団は縮小し、製造業から他業界への転職も増加している。加えてスポットワーク市場の急成長により市場全体の広告費が高騰し、メーカーや同業他社との人材獲得競争は一層激化しているという。また、求職者志向の変化も指摘された。過去には当たり前とされていた転勤についても、現在は「地元で働きたい」「転勤はしたくない」といった考え方が強まっているという。

  • 求職者志向の変化

    求職者志向の変化

筑井氏はこうした市場の変化を背景に、UTグループの採用実績を紹介。直近2年でのUTグループの集計では、応募から入社に至った割合は8.9%にとどまっており、30万人の応募があっても、実際に入社に結びつくのは1割に満たなかったという。

アンマッチの理由として最も多いのは勤務地で、次いで給与条件、他社内定が挙げられた。求職者は平均で約30社の求人を閲覧し、9社に応募、面接を受けるのは3〜4社だという。また、離職中の求職者は「即日入社」を希望する傾向が強く、内定提示までのスピードが採用成否を大きく左右するという。内定が即日出た場合に比べ、数日待たせるだけで入社率が大きく低下するというデータも示された。

  • UTグループにおける応募入社実績とアンマッチ事由

    UTグループにおける応募入社実績とアンマッチ事由

売り手市場が大きく加速する中で、企業側がどこまでそれを認識し施策を講じるのか。筑井氏は「辞めない人を採用するのではなく、辞めない環境を作ることが重要です」と強調した。

UTグループの取り組み「求職者ファースト」での再設計

こうした厳しい環境を踏まえ、筑井氏は「以前の採用戦略を完全にリセットし、採用構造そのものの変革が必要だと考えています」と述べた。軸となるのは「求職者ファースト」での再設計だ。

筑井氏は、現在のような売り手市場においては、企業が求職者を選ぶから選ばれる立場へと変わる必要があると指摘する。その上で、求職者に選ばれる組織文化を浸透させていくことが重要だと説明した。

  • 「求職者ファースト」での採用構造の変革が必要だと語る、筑井氏

    「求職者ファースト」での採用構造の変革が必要だと語る、筑井氏

UTグループでは、職場環境、採用プロセス、人事制度、多様な人材を受け入れる文化までを求職者視点で見直し、人材ポートフォリオの最適化を進めている。正社員・期間社員・契約社員といった直接雇用の比率を高めると同時に、外国人材の活用も含めた再設計を提案している。

具体的な取り組みとして紹介されたのが、製造工場を支える「人材エコシステム」の構想だ。UTグループでは、約3万5,000人の派遣社員経験者を、メーカーの正社員や期間社員として紹介するほか、直近2年間で登録した約30万人のUT会員を直接雇用人材として紹介している。

また、ユニークな取り組みとして、大学の野球部やサッカー部などで競技に専念してきたアスリート新卒人材の紹介も開始した。競技に打ち込んできた人材の就職支援ルートを整備することで、製造現場に新たな人材供給の可能性を広げているという。

  • UTグループが取り組む、直接雇用採用推進サービスの概要

    UTグループが取り組む、直接雇用採用推進サービスの概要

こうした取り組みの結果、この10年間で同社の派遣社員からメーカーへ転籍した社員数は5,000人を突破している。

さらに、日本人の労働人口減少を補う手法として、日系ブラジル人の派遣にも力を入れている。日系ブラジル人は労働制限が少なく、世界でも最大規模の日系人口を抱えており、加えて定住意欲が高い。こういった点を強みとし、企業や地方自治体と連携しながら受け入れ環境の整備を進めている。

日本の治安の良さや賃金水準をメリットに、日本での定住を希望するブラジル人が多くいるという。家族を大切に思う国民性から、子供の教育環境という観点でも日本の環境を魅力に感じてもらえていると説明した。

  • UTグループで働く、日系ブラジル人の皆さん

    UTグループで働く、日系ブラジル人の皆さん

また、一風変わったユニークな取り組みとして、派遣社員と会社が一緒に成長することをコンセプトとした、働いた時間を株式で還元する「ポイントプログラム」も導入している。

最後に筑井氏は「これまでの延長線上で、いくらお金を投資しても実態は変わりません。求職者への働き方の選択肢を、企業がどれだけ用意できるか。それが、これから選ばれる条件になります」とまとめた。UTグループは、単なる人材派遣会社にとどまらず、採用構造を変えるこれからの雇用インフラを目指していくとしている。