人気タレントと被害女性の間のトラブル対応を誤ったことから、ほとんどのスポンサーが撤退するという民放始まって以来の異常事態に見舞われたフジテレビ。問題発覚後のテレビカメラを入れない「クローズド会見」から、きょう17日で1年が経過した。

この事案が発生して以降、社内外で対話を重ねながらリスクを可視化し、相談窓口の実効性確保やハラスメント対策など、企業風土の刷新に邁進してきたのが、「再生・改革プロジェクト本部」の立ち上げから中枢に関わり、現在はコンプライアンス推進局長として改革を担う吉田優子氏。これまでの経緯から現在地など、“終わりのない”取り組みについて話を聞いた――。

  • フジテレビの吉田優子コンプライアンス推進局長

    フジテレビの吉田優子コンプライアンス推進局長

第三者委員会調査結果を待たずに始めた「対話」

一連の事案が発生した当時、総務部長だった吉田氏。清水賢治社長を本部長とする「再生・改革プロジェクト本部」が25年2月6日に立ち上がると、副本部長の大野貢執行役員(当時、現・取締役)の補佐として関わった。

当時は、外部弁護士による第三者委員会による調査が行われていたため、社員へのヒアリングが調査妨害になってしまうおそれがあった。それでも、「第三者委員会の調査結果を待つだけでなく、会社として打てる対策は打つべきというのが喫緊の課題としてありましたので、課題の把握をするために、外部の専門家同席のもと社員をはじめとする社内外のステークホルダーとの“対話”を行うことになりました」(吉田氏、以下同)と、プロジェクトとして能動的に進めることになった。

2月後半から3月後半の1カ月間に、全ての局・室の20代から50代の社員、社外関係者のべ111人と約40回にわたって実施したこの「対話」の狙いは、会社の中に潜むリスクを見つけ出すこと。「“それはどういうことですか?”と詰める場ではなく、“これから会社がどうあるべきか、どうしていきたいかを自由に話してほしい”と、前向きに話してもらえるように設定しました」という。

実施形態は「心理的安全性」を最優先。多くても1回5~6人の少人数とし、職場でのセクハラやパワハラといった話題が出ることも踏まえ、話しやすいように基本的に同年代かつ他部署同士で組み、参加者が周囲から「対話」の対象となっていることも分からないように、都度セッティングを調整した。外部の弁護士に同席してもらいながら、吉田氏はそのほとんどに参加、時には本部長である清水社長や副本部長の大野執行役員(当時)らが入ることもあったという。

「対話」で抽出した課題を可視化したのが、3月31日に公表した「人権リスクマップ」。発生可能性と深刻度の高さから特に対策が求められる項目として、「通報・相談窓口の実効性確保」や「ハラスメントの防止」という声が顕在化された。

これを公表することは、「社としては恥ずかしいこと」のように感じたが、「リスク管理の観点から公表は重要とされることから、専門家の指導のもと、まずは組織として自己認識することが大事だということで実施しました」と強調する。

  • 25年3月31日に公表した「人権リスクマップ」

    25年3月31日に公表した「人権リスクマップ」

焦点の一つは「相談窓口の信頼性をどう担保するか」

同プロジェクト本部では、「人権リスクマップ」を作るのと同時に、「対話」で出た課題を整理し、必要な規程・手続き・仕組みを洗い出した。焦点の一つは「ハラスメントの被害などを訴える相談窓口の信頼性をどう担保するか」。社内・社外の相談窓口にアスセスしやすくしたり、社外の窓口については、連絡すると弁護士が直接受けてくれるようにしたり、透明性を確保したりと、運用体制の強化を「再生・改革に向けたプラン」(3月31日公表)に盛り込んだ。

第三者委員会の調査報告書で指摘・提言された課題や対策は、「人権リスクマップ」「再生・改革に向けたプラン」の内容に「ほとんど入っているものでした」と相当な範囲を網羅。しかし、第三者委員会の報告書は人気タレントの性加害や、複数の幹部によるハラスメントの実態が明らかになるなど、社会的なインパクトがあまりにも大きく、同日にフジが出したプラン自体に焦点を当てて報じられることはほとんどなかった。

そこで、社外に向けた発信を強める必要性が高まり、4月末の総務省への報告も見据えながら「再生・改革に向けた8つの強化策」として整理。以降、毎月下旬にこの進捗状況を公表している。