国内の港から港へ貨物を運ぶ「内航海運」は、日本社会を支える重要な輸送インフラだ。この内航海運業界が抱える課題が「人材不足」だ。

国土交通省では船員を志望する就職者と企業とのマッチングを図ることを目的に、企業説明会・就職面接会を全国で開催している。12月13日には、静岡県静岡市の清水マリンターミナルにて「めざせ! 海技者セミナー in 静岡」を実施した。その様子をレポートする。

性別を問わない船員採用の広がり

船員を目指して学ぶ学生などが、将来の就職に向けて「船の仕事」に関する情報収集を行う「めざせ! 海技者セミナー in 静岡」。以前は1月に開催されていたが、参加企業や学校のアンケート結果を受けて令和2年からは毎年12月に開催されている。

今年は地元・静岡市内に拠点を構える国立清水海上技術短期大学校の学生約110名をはじめ、静岡県立焼津水産高校、三重県立水産高校、愛知県立三谷水産高校の学生などが会場に訪れた。

人手不足などを受けて今年は100社以上から参加の応募があり、国交省中部運輸局の5県(愛知、静岡、岐阜、三重、福井)の事業者を優先的に参加するかたちで抽選を実施。参加企業数は54社(全51ブース)。

近年は性別を問わずに船員の採用を積極的に進める企業が増加。配乗予定船舶に女性専用の設備があるなど、女性船員の受け入れ体制を整備していることを示す「女性歓迎マーク」を掲示している企業は、男性船員も働きやすいという印象を持たれやすい。そのため、男子学生なども足を運びやすい傾向があるという。

例年本イベントに参加している名古屋の「由良機船」もそうした女性採用を進める企業のひとつ。「八十八由良丸」「綾音丸」「まなか丸」という749トン型の内航貨物船3隻の管理や配乗などをしており、現在は2名の女性船員が航海士として働いているそうだ。

乗組員数はいずれの船も5〜6名(甲板3名、機関2名)。貨物は建材用の木材や製紙の原料や発電の燃料となる木材チップで、呉市広港(広島)、南港(大阪)、名古屋港、鹿島港(茨城)といった物流拠点を結ぶ航路を主要航路としている。

早くから幅広い業務を経験でき、最初は覚えることも多くて大変な一方、やりがいも大きく、階級に応じて給与も上がりやすいという。男性の育児休暇なども法定通りに取得でき、乗船サイクルは3ヶ月乗船の1ヶ月休み。

ブースでは20代の男性船員も学生の対応を行い、実際の船内の雰囲気などを伝えていた。運航や荷役のスケジュール的にも比較的のんびり働きやすいそうで、ベテランも若手も快適な船内の雰囲気づくりのため、お互いに譲り合いながら働ける社風だという。

夜航海なし・日帰り中心の船での仕事も

内航貨物船を運航する泉汽船グループの「扶桑船舶」にも話を聞いた。石灰石専用船「八戸丸」とグループ会社「八戸船舶」のセメント専用船「第五すみせ丸」の2隻で相互配乗を行い、乗船機会の均等化、船員の能力開発、人事交流を行っている。

「八戸丸」は、八戸鉱山で採掘された製鉄の副原料となる石灰石を新日鐵住金の鹿島製鉄所向けにピストン輸送している。重量トン数は約2万トンと、内航船としては日本最大級の船腹だという。「第五すみせ丸」は、住友石灰セメント工場から各サービスステーションへの輸送を行う。

現在、女性船員1名を含めて18名の船員が働いており、来年度にも1名の女性船員が入社予定。船員の労働条件については労働協約を締結しており、乗船サイクルは基本的に3ヶ月乗船の1ヶ月休暇だが、乗船期間などは船員の希望に応じて、なるべく柔軟に対応しているそうだ。

「東海タンカー」は伊勢湾の港湾を中心に活動する、平水船(湖・川・港内などの穏やかな水域を航行する船)のバンカー船を運航している。バンカー船は船に燃料を供給する小型のタンカー。所属船舶(傭船)は15隻で、ガソリン・灯油・軽油といった白油を四日市や知多から名古屋や豊橋などへ運ぶ、製油所間の転送業務も行っているそうだ。

基本的に夜航海がなく、ほぼ日帰りで自宅から通いながら働けることが一般的な内航船との大きな違い。船員の働き方としては24時間の航海による不規則な働き方が負担やストレスとなる場合もあるが、係船・停泊して1日の仕事が終わるため、メリハリのある働き方をしやすいようだ。 加えて、名古屋港や四日市港といった国際拠点港湾を有する伊勢湾での事業ということもあり、業界での認知度は非常に高い。そのため長期の乗船に苦手意識を持つ若手船員などがこうした働き方に魅力を感じ、中途採用されるケースも多いという。

船員の約3割が30歳未満で、5級海技士の免状で全ての所属船舶に対応可能とのこと。近年は有資格者を優先的に採用する傾向が強いものの、入社時の資格的なハードルも低いようで、入社後に資格を取り、船長職をしている勤続約30年のベテランもいるそうだ。より働きやすく定着しやすい働き方を実現するため、給与・休暇制度などの拡充を現在も進めているという。

未経験者採用の積極化も各社で進む

「TSマリン」は沿岸水域を航行する沿海船と平水船を運航する横浜の会社だ。親会社である「鶴見サンマリン」との大きな違いは、鶴見サンマリンが「組合船」の会社であるのに対し、同社は「未組織船」の会社であること。

組合船は労働組合に組織された船員が乗船する船を指し、給与や労働条件が組合規約に基づいて一律に決められているが、「未組織船」は免状や実力次第で昇進も早く、若手のうちから給与面などのメリットを感じやすいと一般に言われているという。

3ヶ月乗船の1ヶ月休暇の沿海船は「東英丸」「飛菱」の2隻。「東英丸」は瀬戸内や九州エリアの製油所を行き来しているタンカー船で、冬期は山口県の製油所から福井、新潟や石川などの日本海側へ運ぶ航路などが増えるという。バンカー船の「飛菱」は、茨城や福島などの太平洋側を航行。早朝から稼働を始めて昼頃には1日の業務が終わるという働き方になることが多いようだ。

各船へのスターリンクの導入も検討中。海技士の免状を持たない未経験者なども積極的に採用しており、船員として働きたい人に向けて幅広い採用活動を展開しているという。

最後に訪れたブースは、溶融硫黄やLNGなど高圧ガスを運ぶ小型ガスタンカーの管理や配乗といった事業を展開するイイノガストランスポート。飯野海運の100%子会社で、メインは内航輸送だが、韓国・台湾を結ぶ内外併用船を持ち、主要航路の一部を担っていることも特徴のひとつだ。

同社は20年近く前から女性船員の受け入れをスタート。当初は試行錯誤も多かったそうだが、女性専用区画の整備などを進めてきた結果、現在は女性船員がいることが当たり前の労働環境になっており、国の取り組みに先駆けて産休・育休制度も自社で整備してきたそうだ。

乗船サイクルは3ヶ月(90〜100日弱)と1ヶ月の休暇がベースで、約10年勤続している女性船員も存在し、男性の育休取得率も100%とのこと。6級海技士や未経験者の採用なども拡大させ、船員として働く人の裾野を今後も広げていくことで業界の活性化に貢献したいという。

重要な輸送インフラを支える仕事でありながら、具体的な働き方や待遇のイメージが湧きにくい内航船や船員の世界。より多くの人に内航船の仕事への興味を持ってもらうための努力が個社単位でも進められているようだ。