つまずいて転んで、腰を打ったり頭をぶつけたりすることは誰にでもあります。若い方なら、急いで駆け出した瞬間に転んでしまう、ということもあるでしょう。多くの場合は適切に手当てをすれば問題なく回復します。しかし高齢者では状況が大きく異なり、時には転倒が命に関わることがあります。ここでは、「転んだことがきっかけで亡くなる=転倒死」について解説します。

転倒で命を落とす人が少なくない

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死亡者数は交通事故死の約4倍

厚生労働省「人口動態調査」のデータをみてみましょう。

まず、2023年の転倒・転落・墜落による死亡者数は1万1,784人でした。一方、交通事故死は近年 2,600人前後で推移しており、交通事故死のおよそ4倍にのぼります。日常的なアクシデントが、非常に大きな死亡要因になっていることがわかります。

転倒死の9割以上は高齢者/冬に多発

より詳細な年齢区分が見られる2021年の同調査では、転倒死が1万202人で、そのうち65歳以上が9,509人(93.2%)。つまり、ほとんど高齢者で占められています。これには、加齢とともにバランス機能や足の筋力の衰えなどが進み、転倒死を招く「転倒」というアクシデントが増えるためと考えられます。

このような転倒は、季節では12月から2月という寒い時期、時間帯では午前10時から午前11時に多いという報告もあります。

起き上がる時はとくに要注意

転倒死の原因となった転倒は、どのような場面で発生するのでしょうか。

2021年の調査をみると、転倒死のうち8,376人(82.1%)が「スリップ、つまずき、よろめきによる同一平面上での転倒」でした。つまり、段差や階段だけでなく、ごく普通の生活動作の中での転倒が大半を占めています。

急に立ち上がると血圧が急降下しやすい

死亡には至らない転倒も含め、寝ている姿勢から急に起き上がる時や、椅子から立ち上がる時に多く発生します。

これは、立ち上がることで重力によって頭部への血流が急に低下し、特に自律神経の働きが弱っていると「起立性低血圧」が起きやすくなるためです。その結果、ふらつきやめまいが生じ、転倒につながります。

寒暖差でも血圧が急変し、ふらつき・失神の原因に

転倒が冬に多い理由は、雪や氷だけではありません。冬季は室内外の気温差が大きく、寒さで血管が収縮して脳血流が低下したり、急激な血圧変動が起きやすくなるため、ふらつきや失神のリスクが高まります。

転倒が命に関わる“負の連鎖”

転倒による影響は、けがの瞬間だけにとどまりません。とくに高齢者では、転倒後にさまざまな健康問題が重なり合い、命に関わる状態へ進んでしまうことがあります。

転倒 → 骨折 → 寝たきり → 肺炎・血栓症 → 死亡の流れが多い

転倒によるダメージが顕著な場合、例えば脳の血管が破れてしまった場合などには、比較的短期間のうちに死に至ることがあります。しかしそれとは別に、転倒直後は命に別状はなくても次第次第に死が近づいてくることもあります。とくに、転倒時に足を折ってしまった場合に起こりがちです。

特に高齢者では、転倒による代表的な骨折である「大腿骨近位部骨折」が起きると、長期間の安静が必要となり、筋力の低下(廃用症候群)や骨粗鬆症の進行が加速します。

「大腿骨近位部骨折」という、骨粗鬆症患者さんに多い足の付け根の骨折が起きると、一人での移動が困難になり、治るまで長い間、ベッドの上での生活を強いられることが少なくありません。すると、動かないために骨粗鬆症がより進行するばかりでなく、筋肉などが衰えていく廃用症候群が進行します。

その結果、骨折が治った後も寝たきりのままになってしまうことも。寝たきりでは誤嚥による肺炎、血行不良による血栓症などが起きやすくなります。それらの負のスパイラルの結果としての死亡も、直接的な意味での転倒死ではないものの「転倒に関連した死亡」と言えるでしょう。

転倒を予防し、転倒しても骨折しにくくするために

では、転倒そのものを防ぎ、もし転んでも重いけがを避けるためにはどのような対策があるのでしょうか。生活環境と体の両面から予防策を考えていきます。

転倒しにくい環境を整える

前述のように、転倒死の8割以上は「同一平面上での転倒」が原因です。わずかな凹凸が転倒の原因となるので、家屋内の段差を極力減らしたり、手すりを付けたりしてください。

また、暗さのために視覚情報が少なくなるとバランス機能が極端に低下するので、移動し始める前に照明を点灯できるようにスイッチの位置を工夫しましょう。

寒暖差によるふらつきを防ぐため、寝室や居間だけでなくトイレや廊下も含め、家屋全体を一定に保ちましょう。

そして、立ち上がる時には時間をかけるようにしましょう。例えば、いったん上半身を起こし、少したったら椅子に腰かけ、それから手すりにつかまり立ち上がるようにしてください。また、足腰を鍛えるトレーニングや、バランス機能を高める運動、例えば安全を確保したうえでの片足立ちなども続けましょう。

■転倒対策
・小さな段差をなくす
・手すりをつける
・暗い場所を作らない(照明位置を工夫)
・家全体の温度差を小さくする
・立ち上がる動作をゆっくり行う
・片足立ちなどのバランストレーニング

転倒しても骨折しない体づくりを

転倒による骨折の多くは骨粗鬆症の患者さんに起こります。ですから、骨量検査などを受け、骨粗鬆症と診断された場合は、しっかり治療を継続することがとても大切です。必要に応じて、ヒッププロテクターなどの装具を使用したり、家屋の床の素材を骨折リスクの低いタイプに変えたりすることも検討してください。

転ばぬ先の杖――転倒は“偶然”ではなく“予防できる事故”

高齢の方は転倒しやすいことは確かです。しかし、転倒や転倒による骨折は、加齢のせいばかりでありません。体の変化や環境の影響がそれらのリスクを高めます。骨粗鬆症であれば治療を欠かさないことがなにより大切です。そして、立ち上がるときの動作などを少し工夫することが、あなたの命を守ることにつながります。

最後に転倒死に関して、整形外科の専門医に聞いてみました。

高齢者の転倒は、単なる「足元の不注意」ではなく、加齢に伴う身体機能の変化が背景にある“医学的に予測可能な事故”です。特に見落とされやすいのが、立ち上がり時に起こる血圧低下や自律神経機能の低下で、本人に自覚がなくても突然ふらつき、転倒につながることがあります。

年末年始は寒暖差や生活リズムの乱れ、脱水などが重なり、こうしたリスクが一段と高まります。ご家族には「ゆっくり立つ」「室内の温度差を減らす」「夜間に足元を照らす」といった声かけと環境調整をぜひ意識してほしいと思います。

また、転倒後の骨折が寝たきりや肺炎へとつながる例を日常診療で数多く経験します。骨粗鬆症の治療継続や下肢筋力の維持は、将来の命を守る医療行為でもあります。

近藤 陽(こんどう あきら)先生

一宮西病院 整形外科 医長/四肢・骨盤骨折治療センター長
資格:日本専門医機構認定 整形外科専門医