「自分にもしものことがあったら、ペットをどう守ればいいのか......」高齢者や単身者の中にはそういった不安を抱える人も少なくはないはず。

飼い主の身に何かあったとき、ペットを守るための切り札になるのが「ペット後見」という手段。

自分にもしものことがあったら......

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今回は、「飼い主の入院や死亡により犬猫が飼育放棄されないようにしたい」をテーマにペット後見について解説する『自分の死後も愛犬・愛猫を幸せにする方法』(ワニブックス)の内容の一部をご紹介。

ペット後見とは、最後まで飼育の責任を果たす取り組みの総称です。飼い主が入院や死亡などにより、ペットを飼えなくなる事態に備え、飼育費用、飼育場所、支援者をあらかじめコーディネートしておくことを指します。(同書より抜粋)

同書の著者である獣医師の奥田 順之氏が設立し、ペット後見に取り組むNPO法人「人と動物の共生センター」を実際に利用した人の事例をお届けします。

11歳の猫「フクちゃん」との「終活」

「この子をお願いできる場所を探してるんです」

2024年7月、1本の電話が当団体(※)に入りました。電話の主は、80歳になる植松さん。岐阜県某市で、2匹の猫と一緒に暮らしていました。1匹は子猫時代から育ててきた11歳になるオス猫の「フクちゃん」。もう1匹は近所で保護したメス猫でしたが、相談をいただいてからほどなくして静かに旅立ち、今はフクちゃんだけが植松さんのそばに残されていました。

息子さんは2人。上の息子さんは東京で保護犬と暮らし、下の息子さんは沖縄。息子さんの妻は動物が苦手だそうで、家族に頼るのは難しいご事情がありました。「猫を手放すつもりはないんです。でも、もしものことがあったらこの子が行き場をなくしてしまう。保健所には連れていきたくはありません……」

インターネットは使えず、情報源はもっぱら新聞だけ。当団体のことは、新聞記事でたまたま見つけ、その後、保健所でも当団体のことを教えてもらい電話をくださったとのこと。必死に「この子を守れる場所」を探して、たどり着いてくださったのでした。

2025年1月。年始に不運な骨折で入院することになった植松さん。当初はご友人にフクちゃんのお世話をお願いしていましたが、毎日、猫の世話をするのは簡単なことではありません。そこで、退院の目途が立つまでの間、当団体の猫ホテルで一時的に預かることになりました。

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植松さんは、入院中も「フクちゃんは元気ですか?」「寒くはないですか?」と、何度もお電話をくださいました。はじめは退院までというお約束でしたが、1カ月ほど経ったころに、「なかなか退院の目途が立たないこともあり、この子のためにも、正式に、この子をお願いしたいと思っています」とのお話をいただき、当団体への所有権移転を行い、新しい飼い主を探すこととなりました。

新しい飼い主探しは、そんなに簡単なことではありません。SNSやチラシを使って、新しい飼い主さんや、預かりボランティアさんを募集する日々を重ねるうち、数カ月が経過しました。その間、はじめは怖がっていた、私やスタッフにも馴れ、スタッフたちの膝の上を渡り歩くようになってきました。

そんな折、植松さんは退院され、ご自宅に戻ることができたのです。当団体スタッフがフクちゃんの状態のご報告と、植松さんのお見舞いに、ご自宅に伺いました。「フクちゃんはまだ当団体にいます。もしよければ、フクちゃんの預かりボランティアとして、フクちゃんともう一度暮らしてみませんか? もしものことがあれば、当団体に所有権がありますから、いつでも保護させていただくことができます」、そう提案させていただいたところ、「もし、そうできるなら、ぜひ」と、お返事をいただくことができました。

とはいえ、リハビリの生活はまだ続いており、すぐに以前のようにお世話をするのは難しい状態。特に屈んだ姿勢でトイレ掃除をするのに自信がないとのこと。そこで、トイレ用の台を設置して、トイレを少し高い位置にして、屈まなくても掃除ができる工夫を提案しました。当団体スタッフが特注トイレを設置させていただくと、「これなら掃除ができる」と納得いただいたご様子。お世話に問題がないことを確認し、フクちゃんを植松さんのご自宅にお届けして、いよいよ、植松さんとフクちゃんとの第二の人生がスタートしました。

フクちゃんの所有権は当団体にあります。飼い主さんは、高齢で、また、飼育が難しい状態になるリスクはもちろんあります。でも、預かりボランティアという形でフクちゃんと一緒に暮らすことができます。

一度はお別れを決意し、正式に手放したはずのフクちゃん。けれど、植松さんにとってはただの「猫」ではなく、人生の一部であり、心の支えでした。そして、フクちゃんもまた、ずっと植松さんの帰りを待っていたように見えました。

人と動物がともに生きるということ。それは、所有権の有無に縛られるものではありません。ともに暮らす形は多様でよいのだと、あらためて実感させてもらいました。

※「当団体」とは、著者が代表を務める「人と動物の共生センター」のことです。

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著者:奥田 順之
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