自分自身が、または家族が忘れっぽいと、「歳のせいかな……いや、もしかして」と少し不安になることがあります。

65歳以上の3人にひとりが認知症か軽度認知障害がある※といわれる現代。歳をとると忘れやすくなるのは誰でもあることですが、物忘れが多くなると心配になりますね。今回は、単なる物忘れと認知症の見分け方や受診のタイミングを解説します。

※厚生労働省「認知症及び軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」より

物忘れと認知症はどう違う?

  • ※画像はイメージです

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加齢やストレスによって起こる物忘れと、さまざまな病気が原因で認知機能に障害が出て生活に支障をきたす認知症。どう見分ければいいのでしょうか。

物忘れは「体験の一部」、認知症は「体験そのもの」を忘れる

大きな違いは、忘れるのが「体験の一部」なのか、「体験そのもの」かという点です。夕食で例えると、昨晩何を食べたのか、食べたものを思い出せないのは物忘れ。そもそも「昨晩食事をしたこと自体」を思い出せないのが、認知症の症状になります。

物忘れはヒントがあれば思い出すが、認知症は思い出せない

加齢による物忘れであれば、体験したことは覚えているため、ヒントがあれば思い出すことができます。認知症では体験そのものを記憶できていないため、ヒントがあっても思い出すことが難しくなります。

物忘れは自覚があるが、認知症は自覚しにくくなる

物忘れでは本人に「忘れている」という自覚があります。一方、認知症が進行してくると、本人が自分の物忘れに気づきにくくなることが多くなります。ただし、初期には「最近物忘れが増えた」と自覚している人も少なくありません。

認知症では記憶力以外に判断力・理解力も低下する

認知症は物忘れがひどくなるだけではありません。テレビの内容がわからない、話についていけない、簡単な作業でミスが増えるなど、判断力や理解力も低下します。

さらに、人柄が変わったように見えることもあります。怒りっぽくなる、一人になることを怖がったり寂しがったりする、といった変化が見られる場合もあります。意欲も低下して何もしたがらない、好きだったことや趣味に興味を示さない、身だしなみに構わなくなるといった様子も認知症のサインになり得ます。

認知症になる前に軽度認知障害の段階がある

認知症になる前段階として、軽度認知障害があります。この段階では認知機能に問題はあるものの、日常生活に大きな支障はありません。多くの人は突然認知症になるのではなく、軽度認知障害を経て認知症へ進行していくと考えられています。

軽度認知障害の人が必ず認知症になるわけではありませんが、この段階で発見して原因となる病気や背景を調べ、治療や対策を始めることが重要といわれています。

年齢による物忘れの特徴

では、加齢による物忘れの特徴を詳しく見ていきましょう。

「人の名前が出てこない」「ど忘れ」は誰にでもある

「人の顔は覚えているけれど名前が思い出せない」「名前の漢字が思い出せない」というのは、加齢で起こる物忘れの代表例です。「とっさに言葉が出てこない」「物を置き忘れる」「立ち上がったのに用事を忘れる」といった“ど忘れ”も同様です。

きっかけがあれば思い出せる

単なる物忘れであれば、ちょっとしたきっかけやヒントで思い出すことができます。名前を忘れても1分くらいで思い出したり、後からふと思い出したりすることが多いでしょう。

日常生活に大きな支障がないのが特徴

何かを忘れてしまっても、本人に「忘れた」という自覚があり、後から思い出すこともできるので、日常生活に大きな支障はありません。物の置き場所を忘れても、自分の行動を振り返って探し、見つけることができます。

注意したい認知症の初期症状

次のような忘れ方は、認知症のサインかもしれません。

同じ話・質問を何度も繰り返す

話をしたこと、聞いたことを忘れている、情報の整理が難しくなっている、といった理由から、同じ話題や質問を何度も繰り返すことがあります。繰り返すことで安心しようとしている場合もあります。

財布や鍵などをしまった場所が思い出せない

しまった場所や、しまったという行為そのものを思い出せないため、探し物が多くなり、なかなか見つけることができません。自分が失くしたとは考えず、「誰かに盗まれた」と周囲を疑うこともあります。

料理・買い物・お金の管理などにミスが増える

問題なくできていた家事や買い物、お金の管理、計算でミスが目立つようになります。例えば、料理の味つけがわからなくなる、煮物を焦がす、同じ物を何度も買ってしまう、引き落としの日や残高が把握できない、財布が小銭でいっぱいになる、といった様子が見られます。

時間や場所の感覚があいまいになる

見当識障害といって、時間や季節、今いる場所、人がわからなくなることも認知症の症状です。時間や季節がわからなくなると、今日の年月日が言えない、時間や季節を間違えるといったことが起こります。そのため、季節に合った服装を選べなくなったり、外出の準備ができなくなったりします。

場所がわからなくなると、通い慣れた場所にも一人で行けなくなったり、外出先から自宅へ戻れなくなったりします。進行すると、人の顔がわからなくなり、家族を認識できなくなることもあります。

受診すべきタイミング

認知症が疑われるとき、どんなタイミングで医療機関を受診してもらえばよいのでしょうか。その答えは、「おかしいと思ったらなるべく早く」です。

上記の症状が複数見られ、徐々に進行しているように感じる場合は、できるだけ早く脳神経内科やもの忘れ外来を受診しましょう。まずは、かかりつけの内科で相談してみてもよいでしょう。

認知症の原因となる病気はさまざまで、代表的なものがアルツハイマー病です。この病気は、早期に薬物療法などを始めることで進行を遅らせることが期待できます。ほかの病気でも、早期発見によって進行を止めたり遅らせたりできる可能性があることは変わりません。

早めに気づくために家族ができること

加齢による物忘れと認知症の初期は、見分けがつきにくい場合もあります。一見ただの物忘れに見えても、その後の変化や進行の有無に注意して、さりげなく様子を見守ることが大切です。

本人が病院に行きたがらないことも多いですが、「早く見つかるほど治療の選択肢が増える」「これからの生活の準備がしやすくなる」といった早期発見のメリットを伝えながら、なるべく早い段階で医療機関に相談してみてください。

最後に物忘れと認知症違いに関して、神経内科の専門医に聞いてみました。

物忘れと認知症を見分けるうえでは、加齢による「体験の一部を忘れる」物忘れか、「体験そのものを忘れる」「同じ質問を繰り返す」「日常的に行っていた家事や手続きが困難になる」といった変化がみられるかを、家族が日常生活の中で観察することが重要です。

認知症の前段階として軽度認知機能障害(MCI)があり、認知機能の低下は認められるものの、基本的な日常生活は自立して行えます。MCIは一部が正常に回復する一方、年間約5~15%が認知症へ移行すると報告されています。物忘れに気づいた段階で早期に医療機関を受診することで、可逆的な原因の除外や適切な評価・介入が可能となります。

近年、アルツハイマー型認知症の早期段階では進行抑制を目的とした治療選択肢も登場しており、早期受診の意義は高まっています。さらに、運動習慣、社会的交流、生活習慣病管理などを家族が支援することは、発症予防や進行抑制に寄与すると考えられています。

栗田 尚英(くりた なおひで)先生

一宮西病院 脳神経内科医長
資格:日本内科学会 総合内科専門医、日本神経学会 神経内科専門医