年末年始は、帰省先で過ごす方も多いことでしょう。久しぶりに会った高齢の家族と話していると「話が通じにくい」「話し方が以前と違う」と感じることがあります。例えば“親の言葉の変化”に気づいたとき、どんな点に注意すべきなのでしょうか。認知症で起こりやすい言葉の変化について解説します。

言葉に現れる“脳の変化”

  • ※画像はイメージです

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認知症では記憶だけでなく、言語機能にも影響が及びます。言語を担う脳の領域が障害されることで、言葉を理解する力や言葉を探す力が低下し、言葉が出にくくなるのです。

アルツハイマー型認知症では、まず近時記憶(数分〜数日の記憶)が低下し、判断力や注意力が落ちて作業のミスが増えるなどの変化が現れます。言語の症状はその後に目立つことが多いとされていますが、人によっては早い段階から現れることもあります。

ものの名前が出てこない

久しぶりに会う人の名前や、めったに使わない物の名前を思い出せないのは加齢でもよくあることです。しかし、日常的に使う物の名前が出てこない場合は「健忘失語」と呼ばれる状態で、認知症でよくみられる症状です。

「それ」「あれ」など代名詞が増えたり、言葉に詰まったりするのが特徴です。

人の話を聞かなくなる

会話した内容を忘れてしまい、同じ質問を繰り返すことがあります。また、言葉の理解そのものが低下するため、聞いているように見えても内容をつかめていないことも。

その結果、会話がかみ合わず、家族は「話を聞いていない」と感じてしまうことがあります。

「話の内容」より「話し方の変化」に注目を

認知症が進むと、本人が忘れていることを隠そうとしたり、取り繕ったりすることがあります。また、近い記憶ほど忘れやすいため、昔のことはしっかり覚えていることも。

「昔の話はできるから大丈夫」と判断するのではなく、
・言葉が出にくい
・説明が回りくどい
・会話が続かない
など“話し方の変化”に注目することが大切です。

認知症のサインかもしれない「会話の特徴」

会話をしていて次のようなことが多く見られたら、認知症のサインかもしれません。

代名詞(あれ・これ・それ)が増える

身近な物の名前を思い出せないため、「あれ」「それ」などの代名詞が増えます。「はさみ」を「切るやつ」と説明するなど、回りくどい言い方が見られることもあります。

同じ話題や質問を何度も繰り返す

記憶が保持できないため短時間に同じ話題を繰り返します。また、話の構成力が落ちて話題が戻ってしまう場合もあります。

話の途中で止まる、言葉に詰まる

話の内容を理解できずに会話が止まったり、言葉が思い出せず返答に時間がかかることがあります。

独り言が増える

認知症によって認知機能が低下していると、独り言が多くなることがあります。その場合「同じ単語を何度も繰り返す」「日中は静かでも夕方~夜間にかけて増える」「誰かと会話をしているように見える」「探し物をしながら話す」などの特徴がみられることがあります。

ただし個人差が大きく、必ずしも認知症患者の全員に起こるわけではありません。

文章の読み書きへの影響も

「話す」「聞く」だけでなく、「読む」「書く」能力が低下することもあります。漢字が書けない、文章が読みにくいなどの変化がみられる場合は、脳の言語に関わる領域の機能低下が疑われます。

異変に気付いたらどうする?

言葉の症状のみで気づかれる初期の認知症もあり、本人が不自由を感じていないケースもあります。周囲の人が症状に気づいたら、早めに自治体の相談窓口や医療機関に相談しましょう。

早期の診断で、適切な治療・支援が受けられる

アルツハイマー型認知症でも、早期に治療を開始することで進行を緩やかにできる可能性があります。また、言語機能の低下はリハビリにより改善が期待できることもあり、早く始めるほど効果が出やすいとされています。

また、脳腫瘍や慢性硬膜下血種など、治療によって改善できる病気が原因となっている場合もあります。早期発見により、治療方針の検討や生活の準備が早く進められます。

特に、急に「言葉が出ない」「会話が成り立たない」といった症状が現れた場合は、脳梗塞や脳出血など、緊急性の高い病気の可能性もあります。その場合は迷わず医療機関を受診しましょう。

スマホアプリで簡易チェックも可能に

話し方や声の特徴から認知機能の状態を推定するアプリや、電話で自動応答に答えるとAIが簡易的に評価するサービスも登場しています。ただし、あくまで「気づきのきっかけ」として活用し、診断は必ず医療機関で受けましょう。

気づく力が、家族を守る第一歩に

普段の会話から言葉の違和感に気づき、受診につながるケースは少なくありません。言葉の変化に最も気づけるのは、日常的に会話をしている家族です。小さな変化も見逃さず、早期発見のきっかけとして役立てましょう。

最後に認知症の言葉の変化に関して、神経内科の専門医に聞いてみました。

認知症は、記憶力だけでなく判断力、思考力、言語能力など複数の認知機能が障害され、経時的に進行することで日常生活や社会生活に支障を来す状態を指します。

言語障害は初期には一部の機能が選択的に障害されることがあり、アルツハイマー型認知症では言葉が思い出しにくくなり、「あれ」「これ」といった表現が増えることが特徴です。進行すると発話量の減少や言い間違いが目立ち、円滑なコミュニケーションが困難となります。

近年、アルツハイマー型認知症の早期段階では進行抑制を目的とする治療法も登場しています。本人の自覚が乏しくなるため、家族が日頃の変化に気付き、違和感があれば早めに医療機関へ相談することが重要です。また、身体活動や生活習慣病管理、社会参加など、WHOが推奨する生活習慣の改善は、認知機能低下の予防や進行抑制に有用と考えられます。

栗田 尚英(くりた なおひで)先生

一宮西病院 脳神経内科医長
資格:日本内科学会 総合内科専門医、日本神経学会 神経内科専門医