日本財団「海と日本プロジェクト」と中国地方海運組合連合会(中海連)などがコラボしたイベント「練習船「弓削丸」に乗って海の仕事を体験しよう!」(練習船弓削丸体験乗船イベント)が、11月8〜9日の2日間にわたって開催された。

弓削商船高等専門学校(弓削商船高専)の練習船「弓削丸」の乗船体験や造船ドッグの見学などを通じ、海や国内の海運事業・海事産業について親子で理解を深めてもらうために開催された本イベント。

広島県内の小学校5年~中学3年の19名が、広島県・尾道港発着の練習船「弓削丸」に乗船し、一泊二日の船中泊などを体験した。

瀬戸内から広がる海の学び「瀬戸内プロジェクトin広島」

「海と日本プロジェクト」と、海技人材の確保に取り組む中海連・日本内航海運組合総連合会(内航総連)の「内航船員確保対策事業」の一環として開催された今回のイベント。

「海と日本プロジェクト」は、海や船の魅力に親しんでもらうため、国土交通省の旗振りのもと日本財団が全国で推進しているプロジェクトで、20回目の「海の日」を記念して2015年に始まっている。

本イベントを主催した「瀬戸内プロジェクトin広島」(海と日本プロジェクトin広島)は、瀬戸内エリアでの「海と日本プロジェクト」推進のため設立された一般社団法人。その運営主体は広島県を放送対象地域とする放送事業者「中国放送」(RCC)で、官民のネットワークを拡大させながら、同地域で各種イベント事業などを展開している。

「瀬戸内プロジェクトin広島」では、2023年度から船員養成に活用され端木練習船を小中学生の学びの場として活用するイベントを企画。広島港発着の船中泊イベントを日本唯一の民間練習帆船「みらいへ」で初開催した。

昨年は商船高専の練習船での船中泊イベントを広島港発着で予定していたが、悪天候のため中止に。広島県東部からも参加しやすい尾道港発着の建て付けで、改めて商船高専の練習船を活用した船中泊イベントが企画され、今年初めて実施される運びとなった。

弓削商船高専を含め、3校の商船高専が存在する瀬戸内エリア。RCCのTV・ラジオ・Webコンテンツや自治体の広報などを通じて参加者を募った結果、本イベントには実際に商船高専への進学を検討する中学生なども参加した。

「今回のイベントには一昨年の帆船「みらいへ」での船中泊イベントに参加していた女の子も参加してくれており、非常に嬉しく思います。船や海への興味の受け皿となるようなイベントを今後も継続的に開催し、親子で新しい発見ができる機会をつくり続けたいです」(RCC・吉富克利氏)

練習船「弓削丸」を見学、舵取りも体験

「弓削丸」は45億円を掛けて2024年3月に竣工した弓削商船高専の29年ぶり・4代目の新造練習船。弓削商戦高専の学生たちはこの練習船で、船での団体生活や船員の仕事のイロハを学んでいる。

出港前には保護者向けの簡単な船内見学会も行われ、船橋の航海設備や火災などの緊急時の安全設備、シャワールームや食堂、居室などを見学した。

保護者らが下船した後、参加者の子どもたちを乗せた弓削丸は尾道港を出航。弓削商船高専へゆっくりと航海しながら、参加者たちは2班に分かれて、同船の船橋(ブリッジ)と機関室(エンジンルーム)を交代で見学する。

筆者が同行した班が最初に案内されたのはエンジンルーム。エンジンや発電機などの状態を監視・操作する制御室、整備作業などを行う工作室などが併設された機関士たちの職場だ。弓削丸のメインエンジンは2000馬力、排気量約8万CCのディーゼルエンジンで、軽油を燃料に直径3メートル60センチのスクリュープロペラを回転させる。

「弓削丸」の機関室は実習のために通常の同規模の船よりも広いスペースが設けられており、「アイランドモニター」などの実習用設備を備えている。

安全な航海に不可欠な動力管理のほか、船内の給電の仕組みを学ぶための訓練用配電盤などもあり、発電機が故障・停電した状況で予備発電機に切り替え、復旧させる実習なども行われているという。

その後は昼食を挟んで航海士たちが働く船橋へ。参加者の子どもたちは1人ずつ交代で、船長が指示した物標や方位へ舵を取る操舵手の仕事を体験した。自転車や自動車と違い、船はハンドルを切ってから舵板が動いて針路が変わるまでにタイムラグがあるようで難しそうだ。惰性による回頭時の横滑りを防ぎ、目標とする針路や姿勢を維持・微調整する「当て舵」(回頭方向や進行方向と逆方向に少し舵を切り、針路を微調整・維持する)も、身をもって体験していた。

練習船での学生生活と内航船での働き方

弓削島(愛媛県)に所在する弓削商船高専の専用桟橋に到着すると、一行は下船して同校でさまざまな体験プロブラムを受けた。

120年以上の歴史を持つ同校には商船学科・情報工学科・電子機械工学科3学科が存在し、商船学科のプログラムでは操船シミュレーターを使って、来島海峡を航行する船の操船シミュレーションが実施された。

商船学科の操船シミュレーターは10年ほど前に約1億円で導入されたもの。円筒形のスクリーンに6台のプロジェクターで映像を映す。操船シミュレーターによる実習には、燃料費などのコストを掛けず、気象・海象などを変えながらさまざまな海域での操船を学べるといったメリットがあるという。

船員を目指す学生の勉強内容や生活が体験できることも本イベントの大きな特色。弓削商船高専から帰船し、弓削丸の司厨長による夕食を済ませた子どもたちは、各自の居室でベッドメイキングなども自分たちで行なった。

1日目の最後に用意された夜のプログラムでは、内航船員の働き方や内航船での生活についての説明も。

練習船の学生の居室は二段ベッドが備え付けられた4人部屋で風呂・トイレも共同だが、現在の内航船はほぼ全て個室化され、水回りが個室に備え付けられている場合も少なくないとのこと。乗船中の光熱費や食費は会社負担で貯金もしやすいそうだ。

業界では3ヶ月乗船・1ヶ月休みの勤務サイクルが主流。近年はより短期の乗船サイクルを採用する事業者や船が増加傾向にある一方、日本の一般企業ではまずあり得ない“まとまった休み”が定期的に取れることも魅力のひとつとも言える。

国内有数の船舶修繕拠点を支える職人と円形タグボート

翌朝は朝食や清掃などを済ませ、出港から2時間ほど掛けて9時半頃に尾道港へ到着。保護者たちと合流し、尾道の造船・海運業を代表する企業のひとつである向島ドックを親子で見学した。

1929年創業の向島ドックは、船の検査・修理を専門とする“船を造っていない造船所”。貨物船を中心に年間300〜400隻の検査・修理を行う、国内トップクラスの船舶修繕企業だ。内航船の5〜7割は向島ドックをはじめとする瀬戸内地域のドックで検査・修理されているとのことで、船舶修繕業は造船と並んで地域の大切な産業となっている。

同社には海に面する陸地に設けられたプール型の「乾ドック」3本と、海上に設けられた「浮きドック」(バラストタンクで船を引き入れる際などに浮き沈みさせるドック)2本があり、最大9隻の船を同時に修理できるという。

大きな船をドックに出し入れする際に活躍するのがタグボートだが、向島ドックでは世界唯一という円形タグボートが活躍している。ジョイスティックを操作し、360度どこからでも船を押して誘導できるという優れもので、「シップ・オブ・ザ・イヤー2016」作業船部門の受賞歴も持つ。小型船舶の免許で操船できる規格になっている点もポイントだ。

エンジンなど船の中の機械を敷地内の修理工場へと運び出すジムクレーン、高所作業車といった巨大な機械設備が目立つが、その仕事の多くは職人の手仕事や高い技術に支えられていることなども説明された。ドックに入った船は約1週間ですべての作業工程が完了するという。

2日間にわたる日程で、盛りだくさんの内容となった今回の練習船弓削丸体験乗船イベント。濃密で貴重な体験の数々を通して、参加者たちはそれぞれに刺激を受けたようだ。

なお、YouTube「海と日本プロジェクト」のチャンネルでは、この体験乗船イベントの様子の動画を公開している。