「サブカルの聖地・高円寺が再開発?」……そうした話題が昨今、巷を騒がせている。東京都が幅広の道路「補助227号線」の整備と延伸を進めるにあたり、JR高円寺駅北口の純情商店街や庚申通り商店街が工事範囲に飲み込まれてしまうというのだ。地震や火災への対策を主眼とした再開発計画とは言うが、仮に現実となれば、商店街の商店や飲食店はことごとく立ち退かされ、街の風景は一変してしまうだろう。

  • 人気の街・高円寺の大看板「純情商店街」が再開発の工事範囲に? 噂の現場を歩いた

    高円寺のアイコン「純情商店街」の赤いアーチ

JR中央線沿いにはアートやサブカルチャー文化の盛んな街が東西に長く並んでいる。なかでも高円寺は非常に個性的な飲食店・古着屋・雑貨屋・古書店・ライブハウスなどが集まり、ディープな「中央線カルチャー」を代表する街として親しまれてきた。そのカオスぶりは過去に著名アーティスト・みうらじゅん氏が「日本のインド」と評したほどであり、『じゃあ、あんたが作ってみろよ』や『無能の鷹』といった人気ドラマや映画の舞台としても好まれている。

その高円寺は今後、どのような街になるのか。当記事では再開発の可能性に揺れるエリアを歩き、街の現在とこれからに想像をはせてみたい。

高円寺ビギナーには純情商店街&庚申通りがおすすめ

JR高円寺駅北口でも最も存在感を放っているのが、純情商店街の赤いアーチ。ねじめ正一の小説『高円寺純情商店街』で有名になり、TV番組の高円寺特集などでは街のシンボルとして度々登場するなど、高円寺の「顔」とも呼べる存在である。

  • 平日昼間でも人通りが絶えない純情商店街

    平日昼間でも人通りが絶えない純情商店街

一見するとアーチの向こうの通りのみが純情商店街のようにも見えるが、実際には縦横に小さい通りの交わるロータリー北側一帯が商店街の範囲にあたる。200以上の飲食店やショップが集まり、休日ともなれば銀座や原宿などにも負けないほどの大入りになる場所だ。

とはいえ観光地のような気配は薄く、周辺店舗の中にはコンビニや100均、居酒屋「晩杯屋」などチェーン店舗と、小規模な個人経営店舗が混在。アーチ手前のロータリーに面した場所で数多くの野菜を並べている「高野青果」や、年季の入った肉屋「竹下精肉店」など、昭和チックな生活感を匂わせる個人商店がまだまだ現役である。

  • いかにも地元感あふれる高野青果の店先

    いかにも地元感あふれる高野青果の店先

その純情商店街の西側に隣接し、JR高架近くの南端から早稲田通りの北端まで500m程伸びているのが庚申通り商店街。こちらも純情商店街と合わせて高円寺のメインストリートとして知られている。

庚申通りは純情商店街に比べてもさらに地域密着の店舗や、ディープで個性派なお店が多くなる。例えば精肉チェーン店「ジャンプ」の高円寺本店は行列のできる肉屋として知られ、平日の午前中から数人が並ぶ盛況ぶりだ。

  • 平日でも数人が並んでいる「ジャンプ」

    平日でも数人が並んでいる「ジャンプ」

落ち着いた雰囲気のドーナツ屋などもあり、こうした和洋・新旧・多ジャンルの店舗がほどよく混在しているのが庚申通りである。早稲田通りに近づくほど店舗は「粒揃い」な個人経営のものが増えていくので、散策する時は少し長めに歩いてみると良い。

高円寺の中でも純情商店街と庚申通りは、飲食店・居酒屋・古着屋・古書店・雑貨屋といった種類のお店を網羅している場所だ。「高円寺らしさ」を満喫したい人は、まず純情商店街や庚申通りを歩いて雰囲気に慣れてから、その後で古着や古書など、心の琴線に触れたモノに応じて他エリアへ行くと良いだろう。

パル商店街とあづま通りで「古着」「古書」の高円寺カルチャーを探す

  • 店舗シャッターに貼られた演劇・ライブのチラシがサブカル感マシマシ

    店舗シャッターに貼られた演劇・ライブのチラシがサブカル感マシマシ

高円寺は他地域ほど再整備が進まなかったため、地価や賃料の安い古い木造家屋(いわゆる看板建築)が多数残り、その安さゆえ1960~1970年代にかけて個人経営店が集まった街だ。これら店舗の多くが「サブカル」「アングラ」といった文化・思想をバックボーンに持ち、それに惹かれて学生・演劇人・ミュージシャン・作家なども次々流入。こうして高円寺は独特の「濃い」エリアになったのだという。

  • 高円寺に数多いライブハウス

    高円寺に数多いライブハウス

中でも地域文化の牽引役とされているのが音楽だ。高円寺は数多のミュージシャンが集う場所として度々話題にもなり、ライブハウス・レコードショップ・スタジオ・楽器店など、音楽関連の店舗・施設が充実している。吉田拓郎の『高円寺』や筋肉少女帯の『高円寺心中』など、この街をモチーフとした楽曲も少なくない。

  • 年末~新年の装いで華やぐパル商店街

    年末~新年の装いで華やぐパル商店街

ミュージシャンをはじめカウンターカルチャーの担い手達が好むものと言えば「古着」である。「高円寺と言えば古着の街」というイメージを持っている人も多いだろう。純情商店街など駅周辺には複数の古着屋があるが、特に密集しているのは駅南側の「高円寺パル商店街」である。

ここでは高価な輸入品やヴィンテージ物から安価なリサイクル品まで、価格帯もテイストも様々な古着屋が合計36店舗も営業中。頭上がアーケードに覆われているため、雨の日でも安心である。高円寺の古着屋は店主ごとのセレクトや感性が目立っており、流行を追いかけないアーティストやマニアに「刺さる」一着を見つけるには最適だ。

  • 商店街を代表する古着屋「スラット」の店舗

    商店街を代表する古着屋「スラット」の店舗

また、サブカル的な生活には、それを彩る「書籍・雑誌」や「雑貨・美術」も添えたくなるもの。高円寺駅の北口ロータリーに面していた有名書店「文禄堂」は惜しまれつつ2025年6月に閉店してしまったが、現在も高円寺界隈には多くの書店・古書店・雑貨店が営業している。

とりわけ注目が純情商店街東側の「あづま通り」である。道幅が狭く物静かな通りだが、よく観察すれば、あちこちに魅力的な古書店やショップが点在していることに気づくだろう。

  • こうしたクセ強な古書店にも出会える

    こうしたクセ強な古書店にも出会える

古い看板建築をナチュラルテイストにリノベーションした店舗が多く、喧騒感から離れてゆったり散策したい時に丁度よい。看板建築の多くは戦後すぐに建てられたものと考えられるが、それらが平成後期〜令和のリノベスタイルでどう生まれ変わっているかも注目点だ。

あづま通りから近い「西部古書組合」では、定期的に古書の即売会を実施。高円寺らしいサブカルチャーや思想・批評に関する書籍や、貴重な昭和のマンガや雑誌、なかには江戸時代の古文書まで見つけられるので、本好きならば一度訪れておきたいところだ。

  • イマジナスはギャラリーや電源付きカフェもあり、小休憩や軽作業にもおすすめ

    イマジナスはギャラリーや電源付きカフェもあり、小休憩や軽作業にもおすすめ

なお、ここから少し離れた場所には廃校になった小学校をリノベした「イマジナス」という科学体験施設もある。高円寺は過去の歴史から科学や未来まで、様々なことを学べる街なのだ。

高円寺ストリート&中通りに並ぶ「通」好みの居酒屋

高円寺は飲食店、特に居酒屋の充実ぶりでも知られる。とりわけ駅西側ガード下の「高円寺ストリート」とその周辺には、非常に渋めの居酒屋や飲食店が現在も営業中である。

  • 高円寺ストリートは高架下というより地下通路のような雰囲気もある

    高円寺ストリートは高架下というより地下通路のような雰囲気もある

高円寺ストリート内はあちこちの壁面にステッカーがベタベタと貼られており、昼間でも薄暗い異様な雰囲気だ。ドリンク1杯につき餃子1皿0円という「餃子処 たちばな」をはじめ、メニューや店舗の外観・内装に独特のコンセプトが滲んだ店舗が多く、純情商店街などである程度飲み慣れた人も飽きさせない。

高円寺ストリートの外側にも大変渋い雰囲気のお店が並び、屋外まで座席が張り出した店も多い。すぐ背後を車が横切るオープンエア席というのが、どことなく東南アジアの騒がしいナイトマーケットなども連想させる。

  • 訪れた時は寒風が吹く中とあってか、屋外席に人影は見られなかった

    訪れた時は寒風が吹く中とあってか、屋外席に人影は見られなかった

同じく通好みで渋めの酒処が多いのが中通り商店街である。ここも昼間は高円寺ストリートと同様に人通りは少なめだが、夕方から夜には居酒屋街としてもう一つの顔を覗かせる。

沖縄料理店やペルシャ料理店、特大つくねで有名な焼き鳥屋など、個性的な人気店が少なくない。中には芸能人行きつけと思しき店舗もあり、高円寺ストリートとも合わせて上級者向けの雰囲気ながら、呑兵衛にとっては強い魅力を持った通りである。

  • エスニック料理店のなかでもレアなペルシャ料理店

    エスニック料理店のなかでもレアなペルシャ料理店

このように、飲食や文化で多種多彩な特色を持ったエリアが、純情商店街や庚申通りを軸にひしめいているのが、高円寺という街である。一言で「こういう街」とは説明しづらいが、特に目的が無くとも行って散策するだけでも楽しめるのは、この街が長年かけて培ってきた文化的多様性による所が大きい。

この賑やかさは、高円寺駅周辺の区域が大きな道路で分割されていないため、徒歩だけで四方に動き回れるという移動面の自由さにも支えられている。商店街から商店街へ、通りから通りへ。道が一本違うだけでもまた違う文化があり、一日かけてあちこち歩き回って楽しめる、回遊性の高い街なのだ。

高円寺を揺るがす「再開発」と「地震リスク」

  • 庚申通りの出口(写真左)と早稲田通り(右)

    庚申通りの出口(写真左)と早稲田通り(右)

庚申通り商店街を北に向けて歩いていくと早稲田通りに突き当たる。その向こうにあるのは歩道と車道を合わせて道幅が16mもある「補助227号線」だ。

喧騒感と生活感に満ちてバラエティ豊かな高円寺の商店街と、均質・無機質で閑静な補助227号線沿いの風景。早稲田通りを境として雰囲気が正反対となる、そのコントラストに軽く驚いた。

  • 補助227号線の殺風景な道路が、高円寺のすぐ手前まで迫っている

    補助227号線の殺風景な道路が、高円寺のすぐ手前まで迫っている

高円寺の再開発計画は、2016年に都・区がまとめた「東京における都市計画道路の整備方針(第四次事業化計画)」で、純情商店街と庚申通り商店街あたりが補助227号線の一部として優先整備路線に指定されたことに端を発する。10年が経過した2026年の第五次事業化計画でも方針が維持される場合、この補助227号線が高円寺駅の直近まで通される可能性があるのだ。

  • 補助227号線の整備目的を説明する看板

    補助227号線の整備目的を説明する看板

計画が実現すれば、純情商店街や庚申通り商店街で愛されてきた数多くの小規模店が姿を消すことは間違いない。

こうした再開発は将来の大地震を想定し、道路による市街地延焼の遮断や、避難路および緊急車両通行路の確保などを目指すものだ。地震リスクへの防災力強化については、能登半島地震(2024年)など近年の地震関連ニュースを通じ、多くの人が必要性を強く感じていることだろう。ましてや古い木造家屋が立ち並ぶ高円寺は、地震や火災にもひどく脆弱である。

  • 古い看板建築はレトロ建築マニアに好まれる反面、地震・火災リスクも高い

    古い看板建築はレトロ建築マニアに好まれる反面、地震・火災リスクも高い

東京都都市整備局が令和4年9月に公表した「地震に関する地域危険度測定調査(第9回)」によると、杉並区高円寺北3丁目は、都内5192町丁目のうち火災危険度が59位、建物倒壊も含めて総合危険度が54位。ほぼ最高位であり、高円寺駅周辺は地震災害、とりわけ火災のリスクがかなり高いと言わざるを得ない。

高円寺の今後を考えるうえで、早急かつ強固な災害対策が求められていることは確かである。だがそれは、今まで築き上げられてきた地域の文化・賑わい・コミュニティ自体を跡形もなく解体することでしか成し得ないのだろうか。

高円寺の「文化」「地域力」を活かせる街作り&防災力強化を

高円寺の主軸とも呼べる純情商店街&庚申通り商店街が丸ごと解体されて幅広の道路になれば、取り壊しを免れた商店街や区域にも大きな影響が及ぶだろう。例えば、高円寺駅の北側エリアが補助227号線で2つに分断されれば、その東西の行き来を遮って街の回遊性を損なう懸念もある。

  • 【写真】「高円寺らしさを守れ」店舗シャッターには再開発反対の声も

    既に高円寺の店舗からも「再開発反対!!」の声が上がりつつある

また、再開発によって高円寺周辺の地価が上昇すれば、連鎖的に物件の固定資産税や賃料の上昇にもつながる。賃料≒参入コストの低さゆえにニッチ趣味な個人店も出しやすいという、高円寺の強みを土台から揺るがしかねないのだ。最悪の場合、現在のような店舗群とともに流も活気も失われ、高円寺は「ありがちなチェーン店だけ並ぶ、用事が無ければ行かない無個性な街」となってしまうだろう。

防災力強化と都市改善のためには、本当に街全体を断ち割るような道路延伸・拡張しかないのか。答えを出すのは容易ではないが、防災リスクや商業面の影響をより厳密に把握したうえで、住民・店舗側と行政側がスムーズな対話・共同による新しい街作りが求められる。

こうした事態に、高円寺が長年蓄えてきた「地域力」にヒントがあるかも知れない。現在の高円寺では、住民・店舗主体で街を一層盛り上げようという動きが一層盛んとなっている。

  • 小杉湯の風呂につかりながら考えた

    小杉湯の風呂につかりながら考えた

例えば庚申通り近くの有名銭湯「小杉湯」は単なる銭湯経営の枠を越え、多くのイベント実施や賃貸物件紹介、コワーキングスペース「小杉湯となり」の設置など、街のコミュニティ振興のため多くの取り組みを行っている。現在の高円寺に多くの外部客が訪れる要因ともなっている有名スポットだ。

また、高円寺ストリートの一部は一足先に再開発されて「高円寺マシタ」となったが、ここの広場スペースでは古着・古物の即売会や展示イベント、トークショーなども開催されている。高円寺の歴史や文化を掘り起こして情報発信していく取り組みが、最も盛んな場所のひとつと言える。

  • 広場スペースでのイベントは週3~4回とかなり頻繁に行われている

    広場スペースでのイベントは週3~4回とかなり頻繁に行われている

高円寺駅の北口バスロータリーに囲まれた「高円寺北口広場」も、実は小杉湯や高円寺マシタと同じく主要な文化拠点だ。高円寺では一年を通じて様々なアート・文化イベントが街全体で開催されるが、その主要会場の一つとして、この広場には大勢の人々が詰めかける。

  • 訪れた時は夜風が冷たく、さすがにバンドマンの姿はなかった

    訪れた時は夜風が冷たく、さすがにバンドマンの姿はなかった

気候のいい休日や夜間などには、この広場にはさらに別種の人々が集まる。路上でアート作品を販売する人、ギターを担いだ路上シンガーなどが度々出没し、それをギャラリーが囲んでミニイベントのようになることも少なくない。お世辞にも清潔で万人向けとは言えない環境だが、ある意味では騒がしさと賑やかさ、音楽と文化に彩られた「高円寺らしさ」が最も色濃い場所とも呼べるだろう。

こうした「来るもの拒まず」「清濁合わせ飲む」「サブカル・アングラ」などの文化はこれからも受け継がれていくのか。高円寺のこれからに目が離せない。