DeNAの二軍監督を務めた桑原義行氏(写真:編集部)

 それまで指導経験がなかった桑原義行氏は、横浜DeNAベイスターズのファーム監督として選手の育成に携わった。指揮官としての任期はわずか1年だったが、課題を乗り越える選手たちの姿を桑原氏は見てきている。みやざきフェニックス・リーグを終えた11月上旬、DeNAがファーム拠点を置く「DOCK OF BAYSTARS YOKOSUKA」で話を訊いた。(取材・文:石塚隆)【取材日:11月4日】

 

即戦力の育成「やはりこういう方法が正解なのかな」

 

 今シーズン、一軍では投手陣が苦戦を強いられたが、なかなかファームから活きのいい若手を送り込むことができなかった。その点について桑原義行氏はどのように考えているのだろうか。

 

 「正直、ベイスターズの本質的な課題は外国人投手依存の編成だと考えていて、そこに若手を食い込ませることができませんでした。特に先発投手である小園健太、吉野光樹、庄司陽斗といった次世代を担うべく投手を育てきれなかったのは反省です。これは数年後を見据えても根本的な課題だと考えています。

 

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 一方でルーキーの竹田祐のようにシーズン終盤に送り出し成功した例もあります。これは昨年の石田裕太郎と同様のパターンですが、やはりこういう方法が正解なのかなと確信をしました」

 

 大卒・社会人(大社)出身は、即戦力と見られがちだが、やはりそこはプロの環境に馴染むために慎重なプロセスを踏まなければいけないと桑原氏は考える。

 

 「大社で入ってくる選手はどうしても期待値が高い状況でスタートします。野手で言えば新人の加藤響などもそうですが、いきなり一軍の環境に入って、オープン戦から試合に出て、その中で身を削られてサイズダウンしてファームに戻ってくることがありました。

 

 そういう意味では目減りさせないためにも、来季以降の新人の起用については直感したものがありましたね。投手に関しては石田や竹田のようにじっくりゆっくり調整させ、一軍が苦しい6~7月に送り込めることができればいいのではないかと考えています」

高卒の育成は課題「駆け引きの部分への興味が希薄なような気がする」

 

 そして各球団、育成に苦労している高卒の選手たちだが、DeNAも例外ではない。高卒の育成は球団にとって普遍的なテーマであるが、そのあたりを組織としてはどのように考えているのだろうか。

 

 「あくまでも私の視点になるのですが、チームにはいろいろな世代の選手がいて、その価値観の差はかなりあるので、若い選手たちのマインドの部分をいかにチームにフィットさせるかというのは大きなテーマになっています。そこは我々指導者もレベルアップを図らなければなりません。

 

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 また現代の流れというか、今はいろいろな指導法などがあり、情報が先行しているきらいがあります。悪いことではありませんが、すべてが数値化され、可視化されてしまう。

 

 そういう意味で、投げる、打つ、というデータ的な分野や技術探求に選手たちは意欲的なのですが、結局のところ野球は駆け引きのスポーツだと思うんです。極論を言うと、若い選手たちは、その駆け引きの部分への興味が希薄なような気がするんです。

 

 野球は、ピッチャーならば相手をどのように抑えるか、バッターならばどう打つか、だと思うのですが、選手の意識が数値を上げることにいってしまって、駆け引きに目が向かない。そこを意識させ、課題に直面させることまで持って行くのが高卒の選手は難しいと感じています」

 

 数値を上げることはゲーム感覚に似たところがありモチベーションにはなるだろう。しかし勝負事である以上、駆け引きや人間の機微のようなものが最終的には重要になる。若さゆえ、人間的な部分の練り込みがまだ足りず、実戦でなかなか力を発揮することができない。

 

 「プロに入ってくる高卒の選手は、当然学生時代は主力でしたから、打席がまわってきたらとにかく打つ、マウンドに立ったらとにかく抑えるという役割を担っていました。しかしプロには人それぞれの特性を生かす必要がありますし、また試合の流れや心理的な駆け引きの部分で、感性が一概に欠けているような気がします。ですからコーチの方々には、試合後にゲームの流れを振り返って伝えてくださいとお願いしました」

 

 その効果は、シーズンが深まるほど出てきたという。

フェニックス・リーグで優勝。指揮官が見た若手の成長

 

 「各コーチが口を揃えて言うのですから、若い選手たちも意識してくれるようになって、シーズン終盤は点の取り方が明らかに変わりました。凡打や内野安打などで1点ずつボディーブローのように得点し、最後は勝っている、といったような。先発ピッチャーも後半は篠木健太郎や若松尚樹を起用するなど編成を変えたのですが、とにかくゾーンで勝負しなさいと伝え、ゲームを作ってくれました。

 

 打線との噛み合いも見せ、終盤は順位が上位のチームとも互角に戦えるようになりましたし、その副産物として『みやざきフェニックス・リーグ』で優勝することができました」

 

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 序盤こそ苦しいスタートで方向転換を余儀なくされたファームだが、若き星たちはプロとしての意識を育んでいくことで、今年着実に成長した。

 

 桑原氏は、監督の仕事を「難しさよりも面白さの方が勝っていた」と言う。

 

 「実感したのは、その選手のことをよく知らないと起用に上手く反映できないということです。気がつくとコーチの方々と選手の話ばかりしているんです。思うのは、人間の本質が見えるのは野球以外のところ。仕草や姿勢、例えば挨拶ができなかったり。

 

 技術的なところは耳にタコができるほど伝えているのに、伸びていかないのは、そういった部分に問題があるのではないかと。私生活も含め社会人としてどうなのか。結局、ファームは人間教育の場でもあるのだとコーチたちとはよく話しました。とことん野球を通じて、それを教えていかなければいけないし、逆に我々も選手に後ろ指を刺されないように自分に厳しくすることができたと思います」

桑原義行氏から村田修一氏へつながるバトン「役目は果たせたのではないかと」

 

 桑原氏は今季でファーム監督を退き、これからは育成ディレクターとして、バックオフィスから再び選手をサポートしていく。そして後任のファーム監督には大学の先輩でもある村田修一氏が就任した。

 

 「この1年間は、選手たちにマインドセットや、ベイスターズという組織や風土、文化みたいなものを現場で伝えるのが一番大きなミッションでもありました。シーズン終盤の選手たちの行動や発言を見るかぎり、その役目は果たせたのではないかと考えています。そのエッセンスを消すことなく、今度は村田監督を中心とした指導陣の方々に、戦術的な考え方や勝つための心得など、味付けをしていってもらえたらいいですね」

 

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 課題は山積みではあるものの、明るい未来は絶対にあると桑原氏は信じている。

 

 「とにかく選手たちは、一瞬のチャンスであっても逃さないで欲しい。フェニックス・リーグを戦っていたとき、他球団の監督さんから『いい若手が多くてベイスターズはいいな』と、結構声を掛けてもらったんです。

 

 彼らの行く先には佐野恵太や宮﨑敏郎、筒香嘉智といった錚々たる選手が立ちはだかっていますが、そこを乗り越えられるように。そして松尾汐恩や度会隆輝、石上泰輝、石田裕太郎、竹田祐、入江大生といった次世代メンバーと一緒に主力になってくれれば、それこそDeNAベイスターズの第2章が始まるような気がします」

 

 小さく頷きながら桑原氏は言った。1年かぎりのファーム監督ではあったが、自分が課された仕事はできた。2004年のドラフト会議で入団し、このチームを主にファーム施設のある横須賀から20年以上見つづけてきた存在。今後は、選手たちはもちろん指導者たちの熱をさらに活かすための組織作りに、現場で培った知見を交え桑原氏は奔走する。

 

 (取材・文:石塚隆)

 

 

【著者プロフィール】

石塚 隆 (いしづか・たかし)

1972年、神奈川県出身。フリーランスライター。プロ野球などのスポーツを中心に、社会モノやサブカルチャーなど多ジャンルにわたり執筆。web Sportiva/週刊プレイボーイ/週刊ベースボール/集英社オンライン/文春野球/ベースボールチャンネル/etc...。現在Number Webにて横浜DeNAベイスターズコラム『ハマ街ダイアリー』連載中。趣味はサーフィン&トレイルランニング。鎌倉市在住

 

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【了】