11月は、学校や家庭だけでなく、地域や社会全体で子どもを支える仕組みづくりが議論される時期です。文部科学省の調査では、不登校児童生徒は過去最多となり、その背景には“家庭だけでは抱えきれない迷い”があることも指摘されています。子どもの不安と同じように、親もまた「何が正解かわからない」という揺らぎの中にいます。いま必要なのは、“頑張るか、諦めるか”の二択ではなく、親がひとりで背負い込まずに済む視点や支援のあり方です。
「このままで大丈夫だろうか」「うちの子もいつか変わる日が来るのか」
不安の出口が見えない時期は、親自身の心もすり減っていきます。でも、視点が少し変わるだけで、子どもだけでなく“親の気持ち”も軽くなる。その瞬間の積み重ねを、現場で見続けてきたのが、無料オンラインフリースクール「コンコン」を運営し、『不登校をチャンスに変える一生モノの自信の育て方』(KADOKAWA)を著した福田遼さんです。
前編に続き、後編となる本記事では、「行動の表面」ではなく「その奥にある目的を見る」という視点が、どのように親子の変化につながっていくのか。そして、支援する立場でありながら“実は大人自身も救われていく”という気づきについて、具体的なエピソードとともに伺います。
“行動を叱る”のではなく、“その奥の目的”を見るという視点
――「行動そのものではなく、その奥にある“機能"を見る」という視点は、家庭でもとても役に立つ考え方だと感じました。親が日々の関わりの中でこの視点を実践するには、どのようなポイントを意識するとよいのでしょうか?
福田 子どもが困っていたり、いわゆる“問題行動"と呼ばれるような行動をしているとき、まず大切なのは「この子が悪いわけではない」と捉え直すことだと思います。また、「自分(親)が嫌われているからこうなった」と考えてしまう必要もありません。行動そのものを責めるのではなく、「この行動にはどんな目的があるのだろう?」と見ることが大切です。「わかってほしい」「こうしたい」と訴えたい目的があるのです。
そのとき、かんしゃくのたびに要求を通してしまうと、「泣けば伝わる」という学習が積み重なり、行動は減りません。でも、代わりになる伝え方を一緒に練習し、「言葉で伝えられたら聞くよ」と関わることで、少しずつ行動が落ち着いていきます。親が自分を責めるのでも、子どもを変えようと無理をするのでもなく、「どう対応を変えられるか」「どんな環境ならうまくいくか」に目を向ける。それが、家庭の中で最も実践的で、やさしい行動の見方だと思います。
“できていないこと”ではなく、“すでにある力”を見るときに起きる変化
――支援の現場で、お子さんが大きく変わる瞬間に立ち会うことも多いと思います。特に心に残っている“変化の物語”があれば、その子との関わりの中で何が力になったのか、具体的にお聞きしたいです。
福田 お子さんは、宿題もせず、運動もせず、朝も起きられないという状況で、保護者の方は「どうしたらいいのか」と悩み、できていない部分ばかりに目が向いてしまい、「なんでできないの?」という声かけが続いていたそうです。
そこで、「できていないところ」ではなく「すでにできているところ」に目を向けて、小さなことでも言葉にして伝えていきましょう、と一緒に取り組みました。「本を読んだんだね」「午前中に起きられたね」「お手伝いしてくれたね」──そんなふうに声をかけ続けていくうちに、ある日、子どもが自分から「今日、うれしかったことがあったんだ」と話してくれたと嬉しそうに報告してくれました。
その日を境に、少しずつ朝も早く起きられるようになり、できることがひとつずつ増えていきました。「ダメなところを直そう」とする関わりから、「すでにある良さを見つける」関わりへと変わったとき、親子の関係が驚くほど柔らかく、前向きなものになっていったのです。後日、保護者の方から「悪循環が好循環に変わりました」と感謝の言葉をいただいたとき、「見方が変わるだけで、こんなにも人は変わるんだ」と、感動しました。
支援しているつもりが、実は「子どもに教えられている」こと
――支援する立場でありながら、逆に子どもたちから励まされたり、学びをもらったりすることもあるのではないでしょうか。ひとりの大人として、大切な気づきを受け取った印象的な瞬間があれば教えてください。
福田 ある子が「どうして国語の勉強ってしなきゃいけないの?」と真剣に考えていたことがありました。その問いに対して、子どもたち同士で話し合いが始まり、「文章を読むと語彙力が増えて、自分の気持ちを豊かに表せるようになるよね」「読解力がつくと、人の気持ちを考えられるようになるよね」等と国語の学びの意味を一生懸命探していました。
そしてその子は、「じゃあ、少し国語の教科書を読んでみようかな」と自分から動き始めました。その姿を見たとき、自分が子どもの頃は、点数を取りたい、褒められたいという“評価"のために頑張っていたのに、その子は「なぜそれを学ぶのか」という“意義"から行動していたのに気づき、感動しました。子どもたちは、誰かに教えられなくても、自分の中で価値を見出し、行動に移す力をもっているのだと、勇気をもらいました。
「学校に行けない」ではなく、「別の場所から学び直す」ためのオンライン
――子どもたちの「内なる力」を見てこられた福田さんですが、そうした力を発揮できる“場”として、オンラインの取り組みを始められていますよね。これを立ち上げた背景にはどんな課題意識があり、立ち上げ当初にはどんな出来事が印象に残っていますか?
福田 学校以外の選択肢はあるものの、学費が高い、自分の住む地域にない、心理的ハードルがあり家から出られない等の理由でフリースクールに入学できないご家庭が多くあることに気づきました。そこで、無料でオンラインでどこからでも繋がることができて、一人ひとりに合った学びの環境をつくれるメタバースを活用した学びの選択肢を作ることが必要だと考えました。
最初の頃、カメラもマイクもオフで「やる気ない」ように見えていた子が、数ヶ月後に「今日は自分の顔を見せて、自分の声で話したい」と言ってくれた瞬間を今でも覚えています。どの子も、心の奥では、頑張りたい気持ちがあるのだなと確信した瞬間でした。
“いま悩んでいる親”にいちばん伝えたいこと
――最後に、いままさに悩んでいる保護者の方々へ、いちばん伝えたいメッセージを伺えますか? 不安のなかにいる読者に向けて、ひと言お願いします。
福田 いま、不登校という言葉には、まだネガティブな印象がつきまとっているかもしれません。しかし、私は、不登校をきっかけに“自分の好きなこと”“得意なこと”“やりたいこと”を見つけ、驚くほどのエネルギーで動き出した子どもたちをたくさん見てきました。また、親子関係が深まり、「不登校になって良かった」と語る保護者の方にも出会いました。
不登校は、決して“終わり”ではなく、“始まり”です。立ち止まる時間の中でこそ、子どもも親も、本当に大切なものを見つけていくことができます。この経験は、きっとこれからの人生にとってかけがえのない学びになります。不登校はチャンスに変えられます。子どもたちとともに、これからも一歩ずつ、前へ進んでいきましょう。
福田 遼(ふくだ はるか):1995年福岡県生まれ。九州大学教育学部卒業後、5年間の小学校教諭を経て退職。その後8カ月にわたり世界各地の教育施設を訪問。2023年4月に学生時代からの旧友である秋山仁志とともに始めた「子育てのラジオ『Teacher Teacher』」ではMCを務める。2024年に株式会社Teacher Teacherを組織し、無料オンラインフリースクール「コンコン」をスタート。著書に、秋山仁志との共著『先生、どうする!? 子どものお悩み110番』(PHP研究所)がある。

