20年以上1社に勤め続けるーー昭和なら当たり前だったキャリアモデルも、今は崩壊して久しい。しかし、20代・30代に比べて40代は採用条件もシビア。だからこそ、40代の悩みは深い。カオナビ エンタープライズビジネス本部 本部長の福田智規氏が、直近の同社40代転職経験者へのインタビューとともにその悩みに応えてくれた。
→前編「【40代転職のリアル】決意から転職先決定まで」

転職活動で晴れて内定を得られたとして、新たな環境に適応できるのかーー。

後編では、急速に転職が一般化する日本社会で、悩みを抱える40代の方々に「転職後の適応」についての実例をご紹介します。カオナビの40代転職経験者・Iさんが語る適応のポイントとは、一体どのようなものなのでしょうか。

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40代で「新入り」になる戸惑いーー入社後の試練をどう乗り越えるか

福田: Iさんは希望通りの転職に成功したわけですが、入社後、新たな環境への戸惑いはありませんでしたか?

Iさん: 正直戸惑いだらけでした(笑)。事前に分かっていたことですが、前職とは会社のカルチャーが全く違い、現職は自分の今やるべきことを自ら見つけて動くことが前提の組織でしたから。

テレワークベースで、毎日出社の義務はなし。オフィスはフリーアドレスのため、その日の業務内容や気分に応じて場所を選ぶ必要があります。当初は「どこに座れば良いんだろう」と毎回困っていました。

福田: 入社直後、特に大変だったのはどのような点ですか?

Iさん: 大勢の社員の方々とそれぞれの役割を把握することが大変でした。前職でもそうでしたが、社内のネットワークは仕事で成果を出す上で不可欠です。転職後はそこを新たに構築しなければならないわけですが、テレワーク&フリーアドレスでは、自然な関係構築は望めません。ここが私の苦労したポイントですね。

福田: その試練を突破するための鍵は何だったのでしょう?

Iさん これも前職にはなかった要素ーー自社開発のタレントマネジメントシステムが鍵でした。これを社員の顔と名前、担当業務、過去のキャリアなど情報を調べることのできる辞書として活用し、「この分野はあの人に相談してみよう」と、個々に話しかけていきました。

福田: なるほど。システムを使ってテレワークやフリーアドレスに順応していったのですね。

Iさん: いや、実は私は入社から三ヶ月、毎日出社していたので順応したとは言いがたいですね(笑)。

やはり私自身慣れているのもあって、出社の方が業務に集中出来ました。なにより、早く周囲からカジュアルに話しかけてもらえる環境を作りたかったので、そちらの方がやはり好都合だと思ったからです。

社内イベント参加、1on1、ランチ、飲みなど、直接のコミュニケーションをたくさんとったおかげで、チャットツール上でも自然に声をかけてもらえるようになったことで「あ、この会社でもやっていけるかも」という感覚を持つことが出来ました。

前職20年の経験は、新天地での業務に活かせるか

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福田: 率直な感想を伺いたいのですが、前職で培ってきた知識や経験は、転職後の業務で通用したと感じますか?

Iさん: そのまま通用はしませんでしたね。ですが、異なる業界の会社への転職でしたので、これは当たり前のことだろうと受け止めました。実際、用語、常識、プロダクトについてなど、本当にわからないことだらけでしたから。

仕事の進め方についても、これまで当たり前だと思っていた方法が通じないことも多くあり、20年の経験があったとしても、転職すれば「新人」になることに変わりないのだと痛感しましたね。

福田: 40代で新人になるにあたって、必要なスタンスはどのようなものだと思いますか?

Iさん: 「学ぶ姿勢」です。わからないことは、レベルが低い質問だと思っても素直に聞く。この会社ではどう動くべきか、仕様の背景はどのようなものがあるのか、一つひとつ謙虚に確認していくことが大切だと私は思います。

教える側の立場ばかりの前職時代から一転して、完全に学ぶ側になるーーこれは私にとって、とても新鮮で楽しいものでした。「学ぶ姿勢」を取り戻せたことが、転職で得られた大きな価値だと思っています。

福田: Iさんにとっては20年の経験は、業務上の武器にはならなかったという感覚なのでしょうか?

Iさん: そんなことはありません。新たな関係を構築し、従事する業務への学びを深める過程で、徐々に私の持つ「前職の視点」を活かすこともできるようになってきました。

例えば、私の目からみた組織の課題をまとめ、部門長に改善の提案もしました。受け入れてもらえるか不安だったのですが「それ、実は課題だと感じていた」と真摯に受け止めてもらうことができました。日常業務においても、「前職ではどうでした?」「Iさんの視点で見るとどうですか?」と聞かれる場面が確実に増えてきています。

福田: 会社にとっては、やはり別の会社のベテランの視点を取り入れることも大事だということですね。他にも具体的に役立っていると感じる力はありますか?

Iさん: 判断力や周囲を巻き込む力ですね。このあたりは確かに役立っている実感があります。以前は「他社では通用しないのでは」という疑念がどこかにあったのですが、今では「自分の武器」と認識し、心から自信を持てるようになりました。

これからの時代の働き方ー適応し続けるという新たな安定

福田: 今回の転職経験を振り返り、40代の転職を考えている方へのアドバイスをお願いします。

Iさん: 40代での転職は、決して簡単に決断できるものではないと思います。ただ、転職を経験した私としては、キャリアとして非常に得るものが大きく、これからの社会を生き抜く上で重要な経験になったという点は強調してお伝えしたいです。

変化の激しい時代ですから、組織も個人も「選ばれる存在」であることが求められます。だからこそ、転職などを通じて変化への適応力を磨き続けることが重要で、それこそが私達会社員が望む「安定」を得る方法なのかもしれないと、私は最近考えるようになりました。

福田: その意味では、やはり「40代での転職が遅すぎる」ということはないのでしょうね。Iさん、ありがとうございました。ご質問者さんも、とても難しい選択ですがIさんのお話をヒントにして、ぜひ納得の行く決断をしていただけたらと思います。