20年以上1社に勤め続けるーー昭和なら当たり前だったキャリアモデルも、今は崩壊して久しい。しかし、20代・30代に比べて40代は採用条件もシビア。だからこそ、40代の悩みは深い。カオナビ エンタープライズビジネス本部 本部長の福田智規氏が、直近の同社40代転職経験者へのインタビューとともにその悩みに応えてくれた。
40代で転職を考える理由とリアルな不安
Q.現在の会社に勤続してすでに20年が経ち、気がつけば年齢も40代になってしまいました。自分の市場価値を高めていくためにも転職を考えているのですが、もう遅いでしょうか?(40代前半男性)
A. 福田氏の回答
「40代でも決して遅くはない」というのが私の意見です。ただ、転職活動を成功させるためには「40代は転職するには遅すぎる」と考えてしまうご自身の不安と「転職が必要だ」と考える理由を明確にできている方が良いかもしれません。
私の働くカオナビには、同じような不安を抱きながらも40代で初めて転職をしてきた方がいます。せっかくなので、このIさんから話を聞いてみました。
福田: Iさんこんにちは。Iさんはなぜ転職活動を始めようと考えたのでしょうか?
Iさん: 「今のポジションにしがみついていて良いのだろうか」という思いがふと湧いてきたからです。40歳という年齢は、折り返し地点。60歳を見据えた時、現状維持を続けることに漠然とした不安を感じ始めたのだと思います。
福田: 前職の職場環境や待遇に何か不満があったのでしょうか。
Iさん: いえ、職場環境は安定していて、職位や給与にも一定の満足感がありました。しかし、成果はあげていたものの、それは自分の能力というよりは「長年築き上げてきた社内での関係性によるものなのではないか」という気がしてきていたのです。
「これは本当に自分のやりたい仕事なのか」「本当に自分は成長できているのだろうか」という疑問も生じてきて、それらに突き動かされて転職活動を始めたという所です。
福田: 40代からの転職活動を始めることに、不安はなかったのでしょうか。
Iさん: もちろんありました。新たな環境にトライする上でのハードルの高さ、求人の少なさ、現場で求められるスキルの変化など、40代転職の難しさを伝える情報がたくさん入ってきました。正直なところ、自分を必要としてくれる会社などあるのか、不安でたまりませんでした。
福田: それでも転職活動に踏み切ったのはなぜですか?
Iさん: このもやもやを抱えたままでいるより、転職活動に飛び込んで現実と向き合って、自分の思いや社会からの評価をハッキリさせた方が良いと考えたからです。仮にうまくいかなくても、またチャレンジすればいいわけですから。
40代の転職活動をどのように始めたか
福田: ご家族には事前に相談しましたか?
Iさん: いえ、家族には内定をもらうまでは家族に話していませんでした。「もしも全部落ちたらカッコ悪い」と思ってしまったのです。内定後に打ち明けたところ背中を押してはもらえたのですが、やはり家族にはきちんと話しておくべきだったなと後悔しています。ちなみに、私の家族が心配するポイントは「生活スタイルが大きく変化しないか」でした。心配するポイントがクリアになっていれば、応援してもらえるものだと思います。
福田: 会社の同僚や友人の方などに相談したのでしょうか?
Iさん: はい。企業によっては内定前にリファレンスチェックを求められるケースがあるため、依頼できる人を見つけておくことは大事だと思います。
福田: どのようなところから転職活動を始めるか悩む人も多いと思っています。Iさんはどのような一手目を選んだのでしょうか。
Iさん: まずはプロの意見をもらうことだと思い、複数社の転職エージェントを頼るところからスタートしました。実際の市場についてなど、一番よく知っていますから。ECサイト構築企業から、SaaS業界への挑戦を希望していることを伝えたところ、反応はエージェントによってさまざまでした。
「未経験だと厳しい。経歴的には別職種が良いのでは」「年収、ポジションなどは年齢と比べてバランスがとれないかもしれない」などの率直な意見もある一方で、「1社で20年勤続した経験は間違いなく強みになる」「転職活動で大事にしたい軸が明確であれば、希望業界内でマッチする企業はある」という心強い言葉をくださる方もいました。
結果として、相性の良さを感じた3社のお力を借りながら転職活動を進めることにしました。
福田: Iさんにとって、大事にしたい軸はどんなものでしたか?
Iさん: 本当にやりたいことを仕事にすることです。そのためには、年収やポジションがそれまでより下がることは覚悟しました。あとは、転職活動を間延びさせること。期限を3カ月と定めて集中して行いました。
厳しいと言われる40代の転職、現実はどうだったのか
福田: 40代の転職については、30代の頃よりも「厳しい」とよく語られます。実際そのあたりはいかがでしたか?
Iさん: 厳しさを感じたこともありました。1社20年の経歴から「なぜ今辞めるの?」と勘ぐられたり、「柔軟性がないのでは?」と疑われる場面も現実にありましたし、思うような役職に空きがないケースも多かったのは事実です。
福田: では、40代の転職活動を経て、Iさんが得たものとは一体どのようなものですか?
Iさん: 「自信」だと思います。半信半疑だった自分の経験の価値を信じることができるようになりましたし、自らの市場価値をハッキリと確かめることができました。これは実際に転職活動を経なければ決して掴めなかったことだと感じています。
自分自身のやりたいことが明確になった上で、意中の企業4社から内定という「評価」いただけたことも、確かな自信につながりました。チャレンジする価値は、十分にあったと思いますよ。
次回後編で、転職活動後、新たな会社に実際に入ってからについてお話を伺います。
