写真:産経新聞社

プロ野球 最新情報

 7月31日、昨季まで中日ドラゴンズの守護神だったライデル・マルティネスから、同点ツーランを放った細川成也。7月には6本ものホームランを放つなど、見事な活躍ぶりを見せた。苦難を乗り越え、覚醒した打棒でチームを上位へと導けるか。竜の4番打者の後半戦の活躍に、期待が高まる。(文・チャッピー加藤)

一瞬笑みすら浮かべたマルティネス

 

 「おおお! ライデルからまた打った!」――7月31日、バンテリンドームナゴヤで行われた中日ドラゴンズ対読売ジャイアンツ戦。2−4とドラゴンズが2点ビハインドの9回裏、巨人は昨季までドラゴンズの絶対的守護神だったクローザー、ライデル・マルティネスをマウンドに送り出した。

 

 しかし、簡単には諦めないのが今年のドラゴンズだ。先頭のジェイソン・ボスラーが二塁打で出塁すると、ここで登場したのが、4番・細川成也。カウント2−2から、マルティネスが投じた真ん中高めのストレートをフルスイングすると、打球はグングン伸び、左中間スタンド手前にギリギリで入る起死回生の9号同点ツーランに! 試合を振り出しに戻したドラゴンズは、延長10回、ボスラーのサヨナラ犠飛で劇的な逆転勝利を収め、このカード勝ち越しを決めた。思わず祝杯を挙げた竜党の方も多いだろう。

 

 

 打球がスタンドインすると「ありえない」といった表情で、一瞬笑みすら浮かべたマルティネス。元同僚の底知れぬパワーに、もう笑うしかなかったのだろう。細川は7月9日、福島で行われた巨人戦でも、0−2と完封負け寸前の9回にマルティネスから起死回生の5号逆転3ランを放っている。その前日、山形の試合で9回、2点差をひっくり返されサヨナラ負けするという屈辱を味わっただけに、連敗寸前の場面で巨人に“やり返した”この一発は実に痛快だった。そしてこの試合から怒濤の7連勝が始まったのである。チームを救い、沈滞したムードを変える一発を放つ。これぞ“4番の仕事”だ。

 

 ドラゴンズ移籍3年目の今季、細川は5月に右ハムストリングを痛め、1ヵ月半ほど戦線離脱を余儀なくされた。ただでさえ点が取れないドラゴンズ打線にとって、細川の不在は痛いどころではなかった。6月19日、オリックス・バファローズとの交流戦で久々に復帰、即マルチヒットを放ったときは「細川大明神、待ってました!」とつい拝んだほどだ。

 

「3年連続2ケタ本塁打」をあっさりマーク

 

 だが細川に期待したいのは、やはり「ホームラン」だ。復帰3戦目、6月21日の北海道日本ハムファイターズ戦で今季3号を放つと、以後も順調にホームランを量産。8月2日の広島東洋カープ戦ではマツダスタジアムの左中間深くに特大の10号ソロアーチを放った。故障で離脱する前、細川は30試合に出場。放ったホームランはわずか2本だった。ところが、復帰後の30試合で細川は8本のアーチを放ち「3年連続2ケタ本塁打」をあっさりマークしてみせたのである。

 

 

 移籍1年目の2023年は24本、昨季(2024年)は23本のホームランを放った細川。12球団の本拠地でホームランが最も出にくいバンテリンドームをホームにしながらこの数字である。7月だけで6本も打っているのだ。残り2ヵ月で10本=3年連続20本超えは決して難しいことじゃないだろう。もし達成すれば、数字以上に価値のある記録だと思う。

 

 もともと、茨城の明秀日立高校3年生のときに岐阜・長良川球場で推定140メートルの場外弾を放つなど、高校生離れしたパワーで定評のあった細川。2016年のドラフト会議で横浜DeNAベイスターズから5位指名を受けプロ入りした。

 

 当時、DeNAの指揮官だったアレックス・ラミレス監督が、かつて西武ライオンズほかで大砲として活躍した「(アレックス・)カブレラのようだ」と評したほどで、プロ1年目の2017年、シーズン終盤に初の一軍出場を果たしている。DeNAはこのときすでに3位でCS(クライマックスシリーズ)進出を決めており、この起用はポストシーズンで細川が戦力として使えるどうかというテストも兼ねていた。

プロ初打席でプロ初ホームラン

 

 このチャンスに、細川はみごと結果を出した。なんとプロ初打席でプロ初ホームランをかっ飛ばしてみせたのである。しかもその一発が決勝アーチになった。なんで克明に覚えているかというと、その試合はドラゴンズ戦だったからだ(笑)。打たれたピッチャーは笠原祥太郞。奇しくもその5年後、2022年の現役ドラフトの結果、細川と笠原はチームを入れ替わることになる。

 

 で、細川のデビュー戦は家で観ていた私だが、翌日の試合は横浜スタジアムに観に行った。細川はこの試合、「5番・右翼」で先発出場。消化試合とはいえラミレス監督の期待の高さが窺えた。驚いたのは、細川はこの試合でも2試合連続の2号ホームランをスタンドに叩き込み、それが再び決勝弾になったのだ。目の覚めるような弾道と勝負強さ。「ベイはまた凄い逸材を獲ってきたなぁ」と私は舌を巻いた。そのときはまさか、彼が6年後にドラゴンズの4番を打つことになるなんて思いもしなかったけれど。

 

 

 この2試合連続アーチで、ラミレス監督は細川をCSメンバーとしてベンチ入りさせることに決めた。下位指名の高卒ルーキーとしては異例の大抜擢だ。DeNAはこの年のCSで、2位・阪神タイガースと王者・広島を撃破する下剋上を演じ、日本シリーズに進出。パ・リーグ王者・福岡ソフトバンクホークスには2勝4敗で屈したが、細川はCS・日本シリーズの両方でヒットと打点を記録している。これってなにげに凄くないだろうか?

 

 2017年の日本シリーズ第1戦、細川は9回に代打で登場。ソフトバンク・寺原隼人からセンター前にヒットを放った。いいですか、彼は前の年まで高校生だったんですよ。普通のルーキーならバットもまともに振れないぐらいガチガチになるだろうに、何なの、この強心臓ぶりは? これを見たラミレス監督は続く第2戦、細川を「8番・DH」でスタメン起用。チームは敗れたが、細川はシリーズ通算で7打数3安打1打点としっかり爪痕を残した。ちなみに高卒の新人野手が日本シリーズに出場したのは、セ・リーグでは1988年の立浪和義以来、実に29年ぶりの快挙だった。

「二軍では打つが、一軍に上がると打てない」の繰り返し

 

 だが、ポストシーズンで活躍しながら、その後の細川は「二軍では打つが、一軍に上がると打てない」の繰り返しで伸び悩んだ。打線が強力なDeNAでは、一軍で相当打たない限りレギュラーの座は望めない。高いポテンシャルを持ちながら、なぜかくすぶってしまった結果、細川はプロ6年目のシーズンを終えた2022年オフ、現役ドラフトのリストに載ることになった。竜党からすると「ベイスターズさん、よくぞ載せてくださった!」だけれど。

 

 細川はドラゴンズ移籍にあたって「これがラストチャンス」という覚悟を持って名古屋に来たはずだ。最初につけた背番号「0」がその決意を物語っている(現在は「55」)。そして幸運な出逢いもあった。和田一浩・前一軍打撃コーチに春季キャンプ中マンツーマンで指導を受け、「間の取り方」を学んだことで才能が開花。移籍1年目の2023年、開幕一軍の座をつかみ代打でいきなり結果を出すと、立浪前監督は細川をレギュラーで起用、中軸を任すようになった。その後の活躍はご存じの通りだ。

 

 

 しかし恩師・和田コーチが去った移籍3年目の今季は、細川にとって苦難のスタートになった。3月29日、開幕2戦目のDeNA戦で自打球を当てて2試合スタメンを外れ、その影響もあってか春先は精彩を欠いた。今季1号アーチは、開幕9試合目の東京ヤクルトスワローズ戦で奥川恭伸から放った同点弾だった。実はそれが今季チーム第1号で、ドラゴンズは前日まで12球団で唯一ホームランが出ていなかった。そんなことも余計なプレッシャーになっていたのだろう。その後も打率1割台となかなか調子は戻らず、5月5日のDeNA戦で全力疾走した際、ついに右太もも裏が悲鳴を上げた。たぶん、いろいろな無理が重なっていたのだと思う。

 

 責任感の強い彼のこと、自分が抜けた間、得点力不足に苦しむチームを見ていて「一刻も早く戻りたい」とジリジリする思いだったろう。だからといって無理をしては元も子もない。この1ヵ月半に及ぶ離脱期間は、細川にとって満身創痍の体を休め、自分のバッティングを見つめ直すいい機会になった。

 

あんなに豪快なホームランを打ってるのに?

 

 復帰後、細川が放ったアーチを見ていると、もう完全に本来の調子に戻ったように思えるが、本人によると「まだまだ100%ではない」とのこと。エ? あんなに豪快なホームランを打ってるのに? ならばますます期待が高まるというものだ。

 

 幸いなことに(と言っていいのかわからないが)交流戦でパに負けすぎた結果、8月3日現在、セ・リーグは2位以下がすべて勝率5割未満。ドラゴンズは借金8なのに2位・巨人に3ゲーム差の4位につけている。エース・髙橋宏斗が本来のピッチングを取り戻した今、主砲・細川の打棒がさらに上向けば、優勝は難しいとしても、ドラゴンズが2位に浮上することだって十分可能だ。そのとき、ポストシーズンを経験している細川の存在が活きてくる。

 

 

 さらに来季・2026年はWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)が開催される。今年、シーズン開幕前に行われた強化試合で侍ジャパンのメンバーに初めて選出された細川。当然、本番にも出場して大谷翔平らメジャーリーガーと共に戦いたいだろう。その夢を叶えるためには、これからの戦いで結果を出すしかない。

 

 細川が秘めた才能は、まだまだこんなものじゃない。チームが苦境に陥ったとき、重たい空気を吹き飛ばす豪快なアーチ。13年ぶりのCS進出は、夢を運び、ロマンを演出できる細川のバットに懸かっている。

 

 

【了】