ヤクルト・高津監督 (C)Kyodo News

◆ 白球つれづれ2025・第22回

 6月は野球界にとっても「衣替えの季節」だ。

 同一リーグの戦いから、セ・パが激突する交流戦がスタート。

 一方で、球団としては株主総会がやって来る。昨年は最下位に低迷していた西武が松井稼頭央監督を更迭。一部には「株主総会での糾弾を恐れた経営陣の責任逃れ」と言う辛辣な声まで聞かれた。

 今年、昨年の西武と似た状況に置かれているチームがある。ヤクルトだ。

 交流戦前、最後のDeNA戦にも敗れて5連敗で借金は17まで膨れ上がった。

 しかも、直近の12試合はすべて2得点以下。これはNPBのワースト記録に並ぶ貧打ぶりだから、まさに泥沼状態と言っていいだろう。

 14勝31敗2分けが2日現在(以下同じ)のチーム成績である。チーム打率(.220)はリーグ5位で、同防御率(3.68)は12球団最下位。首位の阪神から13.5ゲーム差、5位の中日からも7ゲーム差離されている。

「出来るとしたら打順を入れ替えるとかしかない」

「今いる戦力でやるしかない。一つでも先の塁に進む。基本的なことだが、それが1点を取る近道」

 試合後の高津臣吾監督のコメントには“打つ手なし”のニュアンスまで感じ取れる。そこまで追い詰められている、と言うことか。

 前年の5位から巻き返しを狙った今季。球団は積極的な補強策を行っている。

 弱体と言われる投手陣にはドラフト1位で即戦力候補の中村優斗(愛知工業大)現役ドラフトでは広島から150キロ腕の矢崎拓也を獲得。外国人投手も、総入れ替えしてピーター・ランバート、マイク・バウマン、ペドロ・アビラの3投手と契約。いずれもメジャーで活躍経験のある実力派の触れ込みに、ファンからも「ものすごい補強」と期待が高まった。

 ところが、いざふたを開けてみると現実は計算以上に厳しかった。投手を語る前に開幕から打撃の中心戦力である村上宗隆、山田哲人、塩見泰隆3選手が故障欠場。

 オフにポスティングによるメジャー挑戦を表明した村上は、右肘クリーニング手術も終えて、万全のはずがキャンプ後半に右脇腹を痛めてしまう。ようやく4月17日の阪神戦で一軍復帰も束の間、この試合で再び脇腹を痛めてまた戦線離脱。

 近年、故障続きの山田はオープン戦中に左手指を痛めて出遅れる。塩見は左膝前十字靱帯の手術で今季中の復帰も危ぶまれる。

 そこへ、昨年最多安打でフレークした長岡秀樹選手まで、膝を痛めて4月下旬からチームを離れる。ドミンゴ・サンタナとホセ・オスナを除いてクリーンアップから、一、二番コンビまでいないのだから、戦う以前の問題だ。

 加えて、前述の投手陣に戻れば、本格エースへの成長が期待された奥川恭伸も上半身のコンディション不良で一軍から姿を消す。ドラ1の中村優もキャンプから出遅れ、“強力助っ人トリオ”も、ランバートの1勝だけでは、完全な看板倒れに終わっている。

 近年、相次ぐ故障者の多さは他球団と比べても異常すぎる。コンディションや体調を管理する部門が弱すぎるのか? また、別な要因があるのか?まず、球団はこのあたりから問題を解決する必要がある。

 チームがここまでの危機に陥った時、いくつかの脱出策が考えられる。

①トレードを含めた緊急補強
②思い切った若手の登用で沈滞ムードの一新
③人事の刷新

 5月上旬、西武から山野辺翔選手を金銭トレードで獲得したが、チーム力を変えられるほどの強化策にはなっていない。さらに大物トレードを画策しようにも自軍にそれだけの交換要員がいない。

 赤羽由紘、岩田幸宏ら若手野手を積極起用もこれ以上の人材がファームに見当たらない。ちなみに二軍もイースタンリーグ最下位に沈んでいる。

 まさに八方塞がりの現状。このオフには衣笠剛球団会長兼オーナー代行が死去。さらに屈指の人気を誇った球団マスコット、つば九郎のスタッフ急死と悲しい知らせが相次いだ。一部のマスコミでは高津臣吾監督の休養説まで飛び交い始めている。

 こんな沈滞ムードを払しょくするには、もはや交流戦を活用するしかない。

 ちなみに昨年は交流戦前の最下位から、9勝7敗2分けで12チーム中4位と成績を上げている。

 西武、ソフトバンクと強敵を相手にスタートする。ちょっとした、きっかけを交流戦でつかみたい。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)