日ハム一挙8点、ビッグイニングの見立て――マリンに「魔」そのものが現れた…

試合展開をも左右するマリンの海風

 びゅうびゅうと強風が吹き荒れ、まだ残っていた桜を散らしてしまった4/15(火)、鎌スタ→ZOZOマリンのハシゴ観戦に出かけた。鎌スタはイースタンF-L3回戦、ZOZOマリンはM-F1回戦だ。昼間2軍を見て、夜1軍を見るのは「親子ゲーム」なんて呼ぶ場合もある。午前中家を出て、夜が更けてから帰ってくる。その間、ずーっと球場にいる。野球バカのフルコースなのだ。

 

 イースタン西武戦は福島蓮と與座海人という1軍級の先発投手だった。しかも、試合前、西武ベンチ前で背番号1がバットを振っている。うおお、栗山巧が見られる。ハムは水谷瞬がスタメンだ。風が強くてピッチャーは神経を使いそうだなと思ったら、西武育成、背番号135の仲三河優太にいきなりホームランを食らった。ライト方向は風でグーンと伸びるようだ。3回、栗山巧がタイムリー、その裏淺間大基が2ランを放ってそれぞれ実力のあるところを見せたが、この試合の主役は大阪桐蔭出身の左打者、仲三河だった。何とそこから2本ホームランを放って、手がつけられない。昨シーズン、2軍で2ホーマーだったようだが、今年はこの日だけで3本だ。いや、僕はZOZOマリンの試合を覚悟した。パカーンと打ち上げたら何が起きるかわからない。ただでさえ風が魔物となる球場だ。それがこの日は最大風速19メートル(ニッポン放送ショウアップナイター公式のX投稿より)と凄まじかった。

 

 幕張本郷から連結シャトルバスに揺られながら、主題は風になるだろうと思った。ZOZOマリンは野球の不思議さ、面白さを際立たせる特異な球場だ。僕はチバテレの高校野球中継も欠かさずチェックして、千葉県有力校の名将がZOZOマリンの風をどう読み、どう対策しているかに注目している。センターポールの旗の向きと違って、例えばライトのこの地点では風が巻いてフライがこう流される、というようなゾクゾクする話が出るのだ。今はドーム球場が主流になったが、グラウンドを読み、風を読み、西日や照明を読むのも野球の妙味だろうと思う。

 

 グラウンドの凹凸によるイレギュラー、風のいたずらによるポテンヒット、西日や照明が目に入るエラー、そうしたものは試合の構成要素のなかの「偶然」の要素だ。だけど、ただ「偶然」で済ましてはもったいない。そうした諸々を味方につけて、勝敗の「必然」をつくりだす。例えば「ZOZOマリンは変化球が切れる球場」というのが通り相場だ。海から吹きつける風がバックネット側のスタンドに当たって逆の向きに吹く。それがフォークをより落とし、スライダーをより曲げてしまう。この風のブレーキを自在に操れば魔球投手ができあがる。オリックス時代の野田浩司が1試合19奪三振の記録をつくったのもこの球場だった。また今季、ソフトバンクから移籍してきた石川柊太がここを得意にしていたのも同じ理由だ。

「敵失につけ込む」では簡単に片づけられない

 ロッテ1回戦が始まり、ハム先発の伊藤大海が先に失点した。どうも風の影響で制球に苦労していたようだ。ポランコに一発を浴び、その後も小刻みに2失点、スコア0対3で後半戦に突入する。ロッテ先発の種市篤暉はストレートに力があり、良い出来だった。なかなかつけ込めない。正直、ムードとしては負け試合だった。6回表、1死ランナーなしの場面までは。

 

 それはほんの小さな綻びから始まった。1番矢澤宏太が四球で歩いた。一死1塁がら2番松本剛がライトへヒット。3番清宮幸太郎がライト前にヒット。一死満塁ができあがった。迎えるバッターは4番野村佑希。ロッテ側はコーチがマウンドに向かい、種市に間を取ってやる。と、野村は球足の速いショートゴロだ。ロッテの遊撃手、小川龍成がこれをファンブル、あわてて送球したが藤岡裕大が捕れずオールセーフ。お誂え向きのゲッツーの場面であせってしまった。スコアは1対3。なおも一死満塁で5番レイエスがライトへタイムリーヒット。スコアは2対3。6番万波中正はレフトへタイムリーで3対3。7番石井一成はレフト線にタイムリーで3対4、ついに逆転。ロッテはたまらず種市を下げ、横山陸人をマウンドへ送る。ファイターズは代打吉田賢吾。これが右中間を割る走者一掃のタイムリー3ベース、7対3。

 

 僕は内野2階席で仲間と「イェーイ!」なんて騒いでいたのだが、騒いでいながら何というものを今、見ているんだろうと怖気だつ思いだった。矢澤の四球から潮目が変わったのだ。明らかに異常なことが起きていた。吉田賢吾の3ベースが飛び出すまで、松本剛から石井一成まですべてシングルヒット、ずーっと一死満塁が継続する「野球盤」状態だ。その間、レフトスタンド応援席は「チャンス一撃」のチャンテを続行し、延々「お前が決めろ」と叫び続けている。再び伏見に打順がまわってきて、つまり(代打吉田はあったにしても)全員が「お前が決めろ」と言われている。いやもう、誰に決めてほしいのか。僕はボクシングでロープを背負った相手にクリンチを許さず、コンビネーションの有効打を叩き込むチャンピオンを連想した。吉田の走者一掃3ベースは(カウンターが決まった)KOパンチだが、そこまではすべて有効打。

 

 そうしたら一死3塁で9番伏見寅威(打者一巡)の場面で、風が悪さをした。フラフラッと上がった小フライをサード上田希由翔が落球、スコア8対3。1イニング8点のビッグイニングになってしまった。ホームランがなく、ほとんどが単打で8点取ってしまう展開ってあんまり記憶にない。「敵失につけ込んでビッグイニングをつくった」「一瞬のスキを逃さないのが強いチーム」みたいな決まり文句で語られるのだろうが、あの連鎖反応はそんな生やさしいもんじゃないだろうと思う。

 

 主題は風になると思っていたが、そうではなくて「魔」そのものだった。つまり、「偶然」と「必然」がうっかり交差し、人為ではどうにもならないところにいきつく現象だ。あれは止まらない。そして奇妙なことに(9回、清宮のソロホーマーが飛び出しはしたけれど)あれっきり「魔」はなりをひそめてしまった。勝ってバンザーイではあるけれど、何か怖いものを見たと思う。野球は人間がやっているのにとんでもないものを連れてくる。たぶん一般的には「犠打ゼロの新庄流積極野球がビッグイニングをつくった」とまとめられるのだ。本当のところはどうだろう。僕は風の強い日、「魔」が球場に姿を現したと思えてならない。