タイラ、コーチェラで躍動 ネクストレベルのパフォーマンスを徹底解説

日本時間4月13日(土)〜15日(月)に開催されたコーチェラ・フェス第1週。レディー・ガガ、チャーリーXCX、グリーン・デイらと並び、ハイライトのひとつとして注目を集めたのが、タイラ(Tyla)だ。〈アルバム『TYLA』徹底解説〉も好評を博したプロデューサー/DJ/ライターのaudiot909は、彼女のステージをどう見たのか?

タイラにとってコーチェラは念願の舞台そのものだった。昨年、デビューアルバムのリリース直後という絶妙のタイミングでコーチェラにブッキングされていたタイラだったが、惜しくもその機会は実現には至らなかった。悔しさを払拭するように世界を巡り、その最中にはサマーソニックでの奇跡の来日。圧巻のパフォーマンスを日本に届けたのは記憶に新しい。

そして今、ついに再びコーチェラの舞台へ。スタート前の配信コメント欄には、タイラの出身である南アフリカの国旗が、その勇姿を見守るように画面を彩っていた。

待機画面が終了し、巨大スクリーンに映像が映し出されると、まずダンサーたちが姿を表す。聴こえてくるのは「Push 2 Start」のミュートバッキングのフレーズ。妙に休符が多いと思っていたが、なんとこの日はバックバンドを携えてのパフォーマンスだった。いきなり驚かされているところに、歓声とともにタイラが登場する。シルキーで美しい歌声と華やかなヴィジュアルで、登場から30秒で観客の心をつかむ。スタートから圧倒的な存在感だ。

バンドが加わったことで、アルバムにはなかったと思われるフレーズが耳に飛び込んでくる。楽曲本来の魅力を損なうことなく、表現にダイナミクスが加わった印象だ。この時点で、影で全体を統率する卓越したアレンジャーの存在に気づき、早くも目が離せないステージとなった。

2曲目「On My Body」では、スタジオバージョンよりもキックが強調された作りとなっており、そこにバンドサウンドが加わることで楽曲の魅力がさらに引き出されていた。冒頭の歌い回しもアレンジされており、ライブであることを強く印象づける演出となっていた。この曲ではさらに、ベッキー・Gがヴァースでゲストとして登場。タイラに負けじと劣らない力強い歌唱を披露した。

Photo by Katie Flores/Billboard via Getty Images

続く「Truth or Dare」も、パーカッションを加えたアレンジが秀逸。オリジナル音源とのミックスも非常にスムーズで、どこまでが録音データで、どこからが生演奏なのか判断に迷うほど。ここからステージのテンションが加速し、ダンサーたちがステージ狭しと舞い踊る。力強く、しなやかで、美しい。おそらく南アフリカからフックアップされたダンサーたちなのだろう。

アルバム音源とじっくり聴き比べてみたいところだが、単にステージの動きを補うためにバンドサウンドを足したというより、全体がライブ仕様として自然にリアレンジされている印象だ。筆者が最も好きな「Safer」では、シンセサイザーのパッドが美しく響き、パーカッションによるストンプは強烈。このステージのライブアルバムをリリースしてほしいと願わずにいられない。

「On And On」は、サマーソニックでも披露されたアリーヤの「Rock The Boat」とのマッシュアップ。タイラやアマピアノに馴染みのないリスナーからも大きな反響を呼ぶこの組み合わせは、彼女と制作チームの卓越したセンスを物語っている。

個人的に、この日一番のピークを刻んだのが「To Last」。以前の記事でも触れたように、アルバムの中でも最も南アフリカの文脈を色濃く感じさせるナンバーだ。内省的なコード進行が美しいこの曲では、タイラがバンド側に歩み寄りながら歌い上げると、そこからギター、パーカッション、オルガン、ログドラムが混然一体となった凄まじいグルーヴが展開される。あまりの迫力に、思わず身震いしてしまった。

そしてそのままシームレスに、「Bana Ba」を用いたダンスパートへと突入。サマーソニックでも多くの観客を沸かせたこの演出だが、この日のパフォーマンスも圧巻だった。タイラが一時ステージを離れても、観客のテンションはまったく衰えることはない。

再びタイラが、おなじみの虎の巨大オブジェの上から登場。共演ダンサーとの絡みや、ヒップをしなやかに動かすダンスを華麗に披露し、バックダンサーたちも負けじとテンションをさらに引き上げていく。ここで使用されていたのは、DaliwongaやShaunMusiqといった南アフリカ最先端のアマピアノの楽曲。そのサウンドがコーチェラの大観衆を沸かせているという事実に、胸が熱くならずにはいられなかった。

「SHAKE AH」でも引き続きダンスをフィーチャー。時折歌いつつダンサーと共に観客を煽る。そのまま同じくShaunMusiqと製作した「Thata Ahh」に突入。虎のオブジェにTylaと大きくスプレーでタギングするパフォーマンスを魅せる。南アフリカ特有の怪しいマイナーコードが響く中、覆面ダンサーとのダンスが抜群に決まっている。

前半でポップミュージックの最先端とも言えるパフォーマンスを提示し、その後約8分にわたって純度100%の南アフリカのグルーヴを惜しげもなく披露。そんな構成でコーチェラの観客を沸かせているという事実に、胸が熱くなる。そして何より、その流れのスムーズさたるや! アルバムの時点でも感じていたが、タイラの背後にいる制作チームのハイレベルぶりには、改めて舌を巻くしかない。

ステージはいよいよ終盤へ

「ART」のイントロが鳴り響くと、会場は青い照明に包まれ、ダンサーたちの止まったような動きが映える。そのうちダンサーの一人が求愛するかのような振付を見せる。直前まで「動」のパフォーマンスを繰り広げていたあと、ここに「静」のコンセプトを差し込んでくる展開はあまりに鮮やかだ。

その後、曲名のコールとともに披露されたのは「No.1」。ここでもパーカッションのフレーズが冴えわたり、楽曲本来のグルーヴをさらに加速させる。バンドの構成はドラムとベース、必要な一部のフレーズは同期音源で補い、その上にキーボード、パーカッション、ギターを重ねていると推測される。この形なら音響的にも迫力を出しやすく、アレンジのも加えやすい。また、原曲のフレーズも再現しやすいという利点もある。

さらに言えば、3人編成であれば世界各地でのツアーにも対応しやすく、理にかなった構成だと感じた。しかも全員が優れたテクニックを持ちながら、「弾きすぎない」ことを心得ているのが素晴らしい。

続くスローテンポの「Jump」は、もともと印象的なギターフレーズが耳に残る一曲。アルバムにはないフィルインのようなフレーズが随所に差し込まれ、ギタリストの巧みな手腕が際立っていた。ペアになってリフトするようなダンスパフォーマンスもダイナミックで視覚的にも楽しい。

そうこうしているうちに、あっという間に最後の曲。もちろん、ここで披露されるのは大ヒット曲「Water」だ。今回はなんとアカペラからスタート。タイラの声が響き渡った瞬間、会場からはひときわ大きな歓声が上がる。そして、その声に被さるエレキギターの伴奏の素晴らしさときたら! 個人的にバックバンドのMVPとして挙げたいのはこのギタリスト。バッキングも良い塩梅だ。

また、タイラのピッチの安定感も特筆すべきポイントだ。華やかさと確かな実力、そして時折見せるチャーミングな表情。これ以上、何を望むことがあるだろうか?

「Water」といえば、水をかけるパフォーマンス。ステージ中央にはビニールプールが設置され、泡風呂に浸かるタイラにダンサーたちが水をかけるというユニークな演出が披露された。

そのあとタイラはステージを後にし、フィナーレのようにダンスパートへと突入する。黄色いプラケースを使ったパフォーマンスは、南アフリカに古くから伝わるカルチャーであり、ダンススタイルでもあるPantsula(パンツーラ)を体現したもの。タイラのバックボーンにあるカルチャーを世界の大舞台に持ち込む、そんな気概を感じさせる構成だ。

プロフェッショナルなダンサー陣、卓越した技術を持つバックバンド、確かな手腕のアレンジャー。そして、南アフリカのカルチャーを現行のポップミュージックに織り交ぜるセンス。その輝きの中心に立つタイラは、もはや疑いようもなく、グローバルな音楽シーンを牽引するスーパースターとしての存在感を放っている。。

サマーソニックで日本の観客を魅了してから、わずか8カ月。さらにスケールアップした彼女の活躍に、これからも目が離せない。

※タイラは第2週の初日・4月19日(日本時間)にも登場。YouTube配信をお見逃しなく。

(※出演は当日・日本時間10:45〜予定、配信時間は現時点で未定)

タイラ

『TYLA+』

再生・購入:https://tyla.lnk.to/TylaDeluxe