会社員時代に加入していた健康保険は、個人事業主になったらどうなるか気になる方もいるでしょう。結論からいうと、個人事業主は4種類の保険から選ぶ必要があります。今回は個人事業主が加入できる保険を紹介し、メリット・デメリットを解説します。
個人事業主が選択できる健康保険は4種類
日本は皆保険制度であるため、個人事業主も健康保険に加入する必要があります。しかし、会社員時代の保険をそのまま続けることはできません。
個人事業主になると、以下4つの方法から選ぶことになります。
- 会社の健康保険を任意継続する
- 国民健康保険に加入する
- 健康保険組合に加入する
- 健康保険の被扶養家族となる
会社の健康保険を任意継続する
1つ目の方法は、会社で加入していた健康保険を継続することです。退職してから20日以内に申請すると、最長で2年間継続できます。
ただし、退職後は会社からの費用負担はありませんので、全額自分で支払わなければなりません。保険料を期限までに納付しないと、翌日付けですぐ資格を失うことにも注意が必要です。
また、2年間のみのため、期間が終われば別の健康保険に加入する必要があります。
国民健康保険に加入する
2つ目の方法は、国民健康保険に加入することです。お住まいの自治体で加入手続きが可能です。
健康保険料は、前年の所得に応じて決まり、所得が多いほど保険料も増加します。大きく稼いだ年は、翌年の高額な保険料に備える必要があります。
健康保険組合に加入する
3つ目は、業界に特化した国民健康保険組合に加入する方法です。業種ごとに保険料が一定で設定され、高収入でも保険料が一定以上には上がりません。
一定の基準以上の所得があると、国民健康保険より保険料が安くなるのが大きなメリットです。ただし加入するには審査を受ける必要があり、場合によっては加入を断られる可能性があります。
健康保険の被扶養家族となる
4つ目は、家族が加入している社会保険に、扶養として入る方法です。被扶養者であれば保険料を支払う必要はなく、無料で健康保険に入れます。受けられる医療保障も扶養者と同じです。
ただし、扶養として入るにはさまざまな条件があります。年収130万円未満といった条件のため、しっかり稼ぐつもりの方にとっては現実的な方法ではありません。
国民健康保険の保険料の決まり方
国民健康保険料は、計算式が決まっています。
国民健康保険料 = 医療分保険料 + 支援分保険料 + 介護分保険料
医療分とは、加入者全員に支払う医療費の基礎となる分のことです。支援分とは後期高齢者の医療費を支援する分を意味します。介護分は、40歳から64歳までの方に課せられる、介護保険の負担分です。
医療分・支援分・介護分の3つの要素を計算する際に、所得割・均等割りの考え方を用います。所得割とは所得に応じて計算する保険料で、所得が多いほど保険料も高額になります。
均等割とは、1世帯あたりの加入者数で計算される保険料です。所得金額に関係なく、1人あたりいくらと計算されます。
計算の事例
東京都渋谷区の場合で、医療分、支援分、介護分がどの程度になるかを解説します。
■東京都渋谷区 令和7年度国民健康保険料(令和6年度の所得額を基に計算)
■40歳の単身者、令和6年度の世帯所得が500万円の場合
所得割算定基礎額=500万円-43万円(住民税の基礎控除額)=457万円
【医療分】 所得割(457万円 × 7.71%=35万2,347円)+均等割47,300円=39万9,647円
【支援分】 所得割(457万円 × 2.69%=12万2,933円)+均等割16,800円=13万9,733円
【介護分】 所得割(457万円 × 2.25%=10万2,825円)+均等割16,600円=11万9,425円
年間保険料=39万9,647円+13万9,733円+11万9,425円=65万8,805円
保険料には地域差がある
国民健康保険料は自治体ごとに定められています。基本的な計算の仕組みはほぼ同じであるものの、計算式で用いる数値は違いがあります。
市町村の医療費と財政力には差があるため、保険料の地域格差が大きくなっているのが現状です。
国民健康保険料の負担が多くなりがちな理由
個人事業主の多くが加入する国民健康保険は、保険料が高額になるケースが多く見られます。その理由は以下のとおりです。
- 加入者が全額負担をするから
- 前年の所得に応じて計算されるから
- 扶養の制度がないから
会社員の健康保険は、会社と加入者が保険料を折半する形式ですが、国民健康保険は加入者が全額支払う必要があります。また、保険料は前年の所得に基づくため、個人事業主となったばかりで収入が少なくても、前年の会社員時代の所得が多ければ高い保険料を負担しなくてはなりません。
さらに、国民健康保険には扶養の制度がなく、1人ずつ保険に加入することになります。扶養する家族が多いと、負担も多くなります。
個人事業主が健康保険料を安くする方法
健康保険料は年々上昇しています。個人事業主になったばかりの方の場合、負担が苦しい場合もあるでしょう。そこで、健康保険料を安くする方法を4つ紹介します。
軽減・減免の制度を利用する
国民健康保険には、免除や減免の制度があります。定められた所得を下回った世帯は、保険料の均等割の分が7割軽減・5割軽減、2割軽減のいずれかが適用されます。
対象になると、自分から申請をしなくても保険料が自動的に減額されます。ただし、確定申告あるいは住民税の申告をする必要があります。
軽減・減免を受けられる基準は、自治体によって異なるため、お住まいの地域の自治体のホームページを確認してみましょう。
扶養に入る
家族が加入する健康保険に、扶養として入ることで、無料で健康保険に加入できます。年収130万円未満などいろいろな条件を満たす必要がありますが、小規模なビジネスで良い場合に向いている方法です。
ただし、条件を満たさなくなると扶養から外れてしまい、別の健康保険に加入しなくてはなりません。
青色申告特別控除を利用する
確定申告は青色と白色がありますが、健康保険料を安くするためには青色申告がおすすめです。最大65万円の控除を受けられ、課税所得が減るため、健康保険料を安くできます。
青色申告をするには、青色申告承認申請書を提出することが必要です。開業届とともに、税務署に提出しておきましょう。
国民健康保険組合に加入する
一定以上の収入のある方におすすめなのは、国民健康保険組合に加入することです。年収に関係なく保険料が一律に設定されているため、国民健康保険より割安になる可能性があります。
国民健康保険の保険料と国民健康保険組合の保険料を比較して、どちらが良いか判断してみましょう。
職種別の健康保険組合
おすすめの健康保険組合を紹介します。
文芸美術国民健康保険組合
有名な健康保険組合の1つで「文美国保」という略称で呼ばれることもあります。文芸・美術・著作などの活動に従事する方が加入できる健康保険組合です。
たとえば小説家・漫画家・脚本家・ライター・デザイナーといった職業の方が加入できます。令和7年度の保険料は以下のようになっています。
- 【医療・支援分】本人:1人あたり月額25,700円、家族:1人あたり月額15,400円
- 【介護分】1人あたり月額6,100円(満40歳から64歳までの加入者)
たとえば40歳の方の場合、保険料は月額31,800円です。国民健康保険料より安いのであれば、文芸美術国民健康保険組合に加入するメリットは大きいでしょう。
東京美容国民健康保険組合
東京都内で、美容の業務に従事している方が加入できる健康保険組合です。居住地域は東京都内だけでなく、神奈川県・千葉県・埼玉県・茨城県・山梨県に住んでいる方も加入できます(ただし島しょは除く)。
対象の職業は、美容師・ネイリストなどで、個人事業主やフリーランスの方も加入可能です。令和7年度の保険料は以下のようになっています。
- 【医療・支援分】事業主:1人あたり月額21,500円、従業員:1人あたり月額15,500円
- 【介護分】事業主:1人あたり月額25,500円、従業員:1人あたり月額19,500円
従業員は、事業主より割安な保険料に設定されています。
全国建設工事業国民健康保険組合
建設事業に従事する、個人事業所あるいは一人親方の方が加入できる健康保険組合です。保険料は組合員の種類と年齢区分によって細かく定められており、一例をあげると以下のとおりです。
第5種組合員:一人親方、年齢区分:D区分(55歳未満)の場合
- 【医療分】本人:1人あたり月額18,900円
- 【支援分】本人:1人あたり月額5,000円
- 【介護分】本人:1人あたり月額3,900円
個人事業主が法人化すると協会けんぽへの加入もできる
個人事業主の方が法人化して会社を設立すると、協会けんぽあるいは健康保険組合に加入することになります。
法人化すると、健康保険の他に厚生年金保険にも加入する必要があります。従業員がいる場合は、雇用保険や労災保険を適用させることも必要です。
個人事業主の健康保険は4つの方法から選ぼう
個人事業主が加入できる健康保険として、以下の4つがあります。
- 会社の健康保険を任意継続する
- 国民健康保険に加入する
- 健康保険組合に加入する
- 健康保険の被扶養家族となる
独立したばかりの場合、保険料負担が重くなるケースも多いです。健康保険組合など、割安な健康保険に加入するのもよいでしょう。