性教育系TikTokが男子を救う?「マッチョの呪い」に抗う大学生たちの挑戦 米

米メイン州にある私立リベラルアーツ・カレッジ、コルビー大学。その学生4人が運営するTikTokアカウント「@sexedforguys」が、今、静かに注目を集めている。彼らが発信しているのは、「熱意ある合意」や「女性の性的満足」といったテーマ。これだけ聞くと堅苦しく思えるかもしれないが、実際の動画はユーモアたっぷりで、親しみやすさにあふれている。

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TikTokで280万回以上再生された動画では、メンバーのミッチとジャックが「That's what's up(最高)」か「What's up with that?(それってどうなの?)」で物事をジャッジするというゲームをしている。「最高」とされるのは、パートナーとの間に健全な境界線を引くこと。一方、「それってどうなの?」と否定されるのは、人種差別的な言葉や同性愛嫌悪的な言動など。コメント欄では「これこそオルタナ右翼を倒す方法だ」「ポジティブな男らしさを体現している」といった称賛が並ぶ。

このアカウントは、2022年に開設された。投稿されているのは、有害な男らしさや同意、ホモフォビアなどをテーマにしたショートコントの数々。TikTokの「おすすめ」欄に、フェミニズムを敵視する過激な思想が並ぶ時代に、若者にとってより健全で対等な価値観を届けようとしている。

実際、動画はどれも学生自身が出演しており、演出もカジュアルで笑えるものが多い。あるコントでは、「10秒で終わった」と友人にからかわれた男子学生が、別の友人に「恥ずかしがらなくていいけど、相手の満足も大事だよ」と諭される。「ありがとう。相手も満足することが大切なんだってわかったよ。たとえ10秒でもね」と彼は笑って締めくくる。

このプロジェクトを率いているのは、コルビー大学の教育学部長・アダム・ハワード教授。ブレット・カバノーが性的暴行疑惑のなか最高裁判事に就任した一件をきっかけに、エリート男子校における性教育の欠如に関心を持ち、研究を開始した。「学生たちに研究成果をどう広めるのがベストか聞いたら、”TikTok”って返ってきたんです」とハワード教授。「この動画は、重要な情報をとてもわかりやすく届けてくれています」。

その内容は、女性の性的満足をどう優先するか、性感染症に陽性反応が出た場合の対処法、同意と強要の違いなど。情報は実践的で、しかも肩肘張らずに伝えられている。

最近では、女性蔑視的な思想を持つ「マノスフィア」と呼ばれるネット文化に、若い男性たちが取り込まれていくケースが増えている。アンドリュー・テイトのような極右インフルエンサーがその象徴的存在で、彼は現在ルーマニアでの性犯罪容疑に加え、米国でも捜査対象となっている(本人は否認)。その影響は、トランプ政権誕生の背景のひとつとしても指摘され、Netflixドラマ『アドレセンス』などでも議論を呼んでいる。

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そんな状況下で、「Sex Ed for Guys」は明確に”もう一つの選択肢”を提示している。「TikTokをスクロールしてたら、アンドリュー・テイトの動画が出てくることもある。でもその次に、僕らの動画が流れてきたら、ちょっと違う視点を持てるかもしれない」と語るのは、3年生のクリストファー・マイチン(20歳)。「ただ面白い動画を見てると思ってたら、いつのまにか合意について学んでる。それが一番の強みです」。

TikTokという発信手段を選んだ理由はシンプルだ。「若者がいる場所で発信すること」、そして「偏ったメッセージに対抗する語り口を提示すること」。ハワード教授はそう語る。「若者はジョー・ローガンやマノスフィアから”男らしさ”を学んでいる。だったら、私たちはその代わりになるものをどう届けるかが問われているんです」。

ちなみに、このアカウントはあくまで”非政治的”というスタンスを貫いている。政治的な議論や立場表明は行わない。しかし、米大統領が性的暴行で訴えられる時代に、「同意」や「ポジティブな男らしさ」を説く性教育が果たして本当に”非政治的”でいられるのか? 取材に応じた学生たちは、自身の政治的意見については明かさず、「自分たちは政治に関わるよりも、良いコンテンツを作ることに集中している」と語っている。

また、「イケてる/イケてない」といった大学内の空気も、彼らにとっては気にならない。「たとえ”ダサい”って思われても、自分たちが楽しんでるならそれでいい」と話すのは、1年生のミッチ・ハンフリー(19歳)。「僕らの目標は、ただ”キャンパスを少しでも安全な場所にしたい”ということだけです」と語るのは、動画でもおなじみのジャック・ガットジャニス(19歳)。2人はバスケットボールチームにも所属しており、「まさか彼らが”同意”について話すなんて」と思わせるギャップもまた、成功の理由だと話す。

動画の企画や制作は、教授と学生が共同で行っている。定期的にアイデア会議を開き、脚本を書いて撮影し、ハワード教授のチェックを経て投稿される。これまでは男性メンバー中心だったが、今学期からはアヴァ・シャピロ(21歳・3年生)が加わった。

「女性の視点を入れることは大事」とシャピロは語る。過去の人気動画のなかには、女性へのリスペクトを茶化しているように見えるものもあり、それを反省点として意識しているという。最近の動画では、彼女と恋人が「性行為中によくあること」を8つ紹介。クィーフ(膣内の空気音)、笑ってしまうこと、一瞬意識が飛ぶことなど、タブー視されがちな話題をポップに紹介した。「彼、動画に出るのをすごく喜んでたんです」とシャピロ。「性教育って、真面目じゃなくてもいいし、楽しくていい。タブーじゃなく、笑えて役立つものにもできるはずです」。

学生や教授それぞれが、今後の方向性についてビジョンを持っている。ガットジャニスとハンフリーは、「軽視されがちな男性のメンタルヘルス」をもっと取り上げたいと話す。マイチンは「有害な関係と健全な関係の違い」について、シャピロは「健康的な友情関係」への理解を深めたいと考えている。

そしてハワード教授は、今後はさらに大きな課題にも向き合いたいという。「いまだに”マノスフィア文化”そのものには正面から触れていない。でも、間接的にではなく、もっと直接的に対抗すべきと感じています。あまりにも重要なテーマだから」。「希望は”代替案”から生まれます。若い男性たちが、より健全で、生産的で、誰かを傷つけない”男らしさ”を模索できるような場を、私たちは作っていきたいと思っています」。

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