3月25日、近畿運輸局及び近畿内航船員対策協議会(会長:山本一人 三興海運 代表取締役会長)は奈良県生駒市の児童養護施設「愛染寮(あいぜんりょう)」で出前授業を実施。同施設で過ごす小学生から高校生までの19名が参加した。その模様をレポートする。

船のこと、海のこと、船員のことを学んでほしい

講師を務めたのは、近畿内航船員対策協議会の構成員である白石海運 代表取締役専務・白石紗苗氏。

  • 近畿内航船員対策協議会の構成員である白石海運 代表取締役専務・白石紗苗氏

「船の冒険をしよう」と題した授業は、船の歴史からスタートした。

船の歴史は人類が誕生して間もなく始まったといわれているそうで、お笑いタレントが船の原型とされるイカダを漕ぐバラエティ番組の一コマが登場すると、子どもたちは一気に引き込まれた様子だった。

船は進化を続けて現在に至るが、ここで疑問がひとつ。どうして、鉄で造られた巨大な船が海に浮かぶのか。児童から「海が広いから」といった意見が出ると、実験が行われた。用意されたのは、ブロックの船と文鎮。実験を担った児童が「サイズが小さい文鎮が浮き、大きいブロックの船が沈む」と答えたのに反し、浮いたのはブロックの船だった。

これは浮力が働くため。船の構造を知り、特に小学生児童は感嘆の声を上げていた。

乗り物の種類が豊富な現代においても、船と人間との付き合いが未だ続いている理由も伝えられた。例えば、ただ外国に移動するだけなら、飛行機のほうが断然早い。しかし、大勢の人や大量のモノを一度に運ぶのは、今なお船にしかできないことだ。

そんな船には、特定の貨物を専門に輸送する専用船がある。バナナ輸送専用冷蔵コンテナ船や、ポテトチップス用のじゃがいもを輸送する船などが、それに該当する。バナナやポテトチップスは子どもたちに馴染み深い食べ物であるため、船を身近に感じられた瞬間だったことだろう。

さらに船は、資源を外国に頼る日本に石炭や石油、鉄鉱石や天然ガスなどを運ぶ大切な役割を果たしていることがランキング形式で発表された。子どもたちも船の重要性を感じ取ったに違いない。

授業が半ばに差しかかった頃、白石氏が「船には、実は怖いことがある」と切り出した。サメや戦争と予想する児童生徒がいたが、正解は海賊。「海賊って、本当にいる」と白石氏が話すと、漫画の世界にしか存在しないと思っていた子どもたちは驚いていた。日本の船の場合、強力な放水銃で海賊を撃退するという。

その後、鉄道車両を輸送する船や豪華客船、給油船など、さまざまなユニークな船が紹介され、子どもたちの関心が高まってきたところで、内航船員の仕事について概要が示された。大きくは、航海と荷役を担う甲板部、エンジンや補機類の運転整備などを行う機関部、毎日の食事づくりを担当する司厨部に分かれる。これらの仕事に就く内航船員になるには専門の学校に進学して海技士の資格を取得するのが一般的だが、白石氏いわく「そういった学校を卒業していない人も受け入れる会社があるので、船員になる道はある」とのことだった。

まとまった休暇を定期的に得られるなど労働条件が船員法で厳格に守られている実態や、海技士の資格が国家資格で将来性あることが明かされると、キャリア選択がそう遠くない中学生や高校生の生徒たちは目を輝かせていた。

白石氏は「服もペットボトルもボールペンも、身の回りにあるすべてのモノは、たくさんの人の仕事が関わってできている。どんなモノも興味を持って見てみれば、社会にはいろんな仕事があることに気づくはず。『これを作るには、どの会社に就職すればいいんだろう』と考えられるようになると、将来やりたい仕事に早く出会えると思う。その中で、内航船員が選択肢のひとつになれば嬉しい」とメッセージを送り、授業を締めくくった。

最後に、船カードとペーパークラフトがプレゼントされ、子どもたちは喜びの表情を浮かべていた。1時間ほどの授業が終わった後も、ブロックの船で遊んだり、配布されたパンフレットを眺めたりしている姿が印象的だった。