西武鉄道の特急車両「ニューレッドアロー」の引退時期が決まったようだ。同社は3月14日、「鉄道旅客運賃の改定を申請しました」と発表した。運賃改定の発表に添えて、42ページもの「別紙」を公開。鉄道事業の現状と今後の取組みを示し、運賃値上げについて利用者に理解を求める内容となっている。その中に「新宿線の有料着席サービスの刷新」という項目がある。特急車両10000系を「ライナー型車両」に置き換え、サービスを刷新するとのこと。
10000系は「ニューレッドアロー」の愛称で親しまれてきた。この愛称には、先代の5000系「レッドアロー」の後継車両という意味も含まれている。5000系の車体デザインはクリーム色に赤いラインをあしらい、スピード感を表現。これが「レッドアロー」の由来となった。「ニューレッドアロー」も客室窓の下に赤い帯を配し、伝統を継承している。
10000系は1993年から2003年にかけて、7両編成を12編成、合計84両を製造。新宿線の特急「小江戸」、池袋線・西武秩父線の特急「ちちぶ」「むさし」などで活躍した。最も古い車両は製造から約30年が経過していた。1996年までに製造されたグループは、廃車となった通勤車両の走行機器を流用したため、足回りはもっと古い。2003年に登場した10000系5次車は完全新製となったが、すでに20年以上経過している。
西武鉄道は2019年、新型特急車両001系「ラビュー」を投入し、2020年までに「ちちぶ」「むさし」の全列車を置き換えた。10000系は池袋線系統から引退し、現在は新宿線の特急「小江戸」で5編成が運用されている。こちらも引退する時期になるため、鉄道ファンは10000系の完全引退を惜しむ一方で、新型車両への期待もあった。「小江戸」も「ラビュー」で置換えとなるか、あるいは専用の新型車両を投入するか。動向が注目されていた。
ところが、西武鉄道の方針は「特急ではなくライナー型車両に置き換え、新しいサービス体系にする」というものだった。「小江戸」を好んで利用してきた人にとって、特急列車からの格下げイメージは避けられない。西武鉄道としては、新しいライナー列車でいままで以上に利用しやすい着席サービスを導入し、期待を高めたいところだろう。
内容はほとんど未定、ならば予想しよう
新宿線における「有料着席サービスの刷新」は、西武鉄道の持株会社である西武ホールディングスが2024年5月9日に発表した「西武グループ長期戦略 2035・中期経営計画(2024~2026年度)」にも記されていた。「次世代の新宿線」として「4区間の連続立体交差事業」とともに「新たな着席サービス」を挙げ、「10000系(レッドアロー)の新たな車両への置き換え、2026年度より運行開始予定」としている。同じ日に発表された「2024年度 鉄道事業設備投資計画」でも、重点テーマに「次世代の新宿線」を掲げ、「新宿線の有料着席サービス刷新」などで新宿線の価値向上を推進すると記していた。
今回、「鉄道旅客運賃の改定を申請しました」の別紙で、「新宿線の有料着席サービス刷新」が新型特急車両ではなく「ライナー型車両」へ置き換え、停車駅など運行形態も変更することが明らかになった。そこで、西武鉄道に以下の質問を行った。
- Q1 「ライナー型車両」は「S-TRAIN」や「拝島ライナー」の40000系の増備か、あるいは新形式か。
- Q2 停車駅は決まっていないとしても、駅は増えるか、減るか。
- Q3 列車名は「小江戸」のままか。
- Q4 運行本数は現在の「小江戸」より増えるか、減るか。
- Q5 指定席料金は上がるか、下がるか。
西武鉄道の回答は、「車両の詳細な仕様、停車駅などの運行形態、名称等は検討中となっております。柔軟な運行形態やお客さまの着席機会の拡充など、サービス向上を図ってまいります」という内容だった。事実上のゼロ回答だが、予想通りでもある。
列車の格下げイメージは沿線の価値を下げかねない。とくに停車駅は、各駅周辺の不動産相場を上下する要素でもある。未確定情報を漏らしたら大変なことになる。これらを考慮し、「すべてのサービスを整えてお客様の利点を強調する」必要があるから、情報を小出しにしないだろう。それまでは、趣味的に予想して楽しんでみたい。
「ライナー型車両」は40000系0番代の増備かマイナーチェンジ版と思われる
40000系0番代はデュアルシートを装備し、有料着席時はクロスシート、それ以外の運用ではロングシートになる。現在は池袋線系統の「S-TRAIN」、新宿線系統の「拝島ライナー」に使われている。デュアルシート車両は「各駅停車で終点に到着し、折返しライナーで出発する」という運用が可能。特急専用車両とした場合、車両基地から始発駅へ、終着駅から車両基地へという回送列車が必要で、ダイヤ編成上の制約がある。
筆者の個人的な要望として、現行の40000系0番代はトイレが4号車の1カ所のみだから、これを10000系と同じく2カ所としてほしい。筆者が休日の「S-TRAIN」に乗車した際、トイレが故障しており、使えなかった。長距離運行の座席指定列車でトイレが使えないと困る。途中駅で一旦降車し、トイレに行って、次の列車に乗らなければならない。現行の40000系0番代にもトイレを増設してほしいくらいだ。
新宿線系統は地下鉄に乗り入れないため、先頭車の非常ドアは不要。製造コスト削減を理由に、先頭車の形状を変更するかもしれない。そうなると、地下鉄非対応の新形式車両として区別する必要がありそうに思える。ただし、将来的に池袋線系統へ転出する可能性を考えると、先頭車の非常ドアは必要。40000系0番代かマイナーチェンジ車両になるだろう。
もっとも、2026年のサービス開始から逆算すると、新形式の仕様が決定し、イメージイラストが公開されてもいい頃ではある。ちなみに、40000系は2015年に概要を発表。2年後の2017年から運用を開始している。
ライナー列車の停車駅は特急「小江戸」より増える
「ライナー型車両」を使った列車が特急「小江戸」と同じ停車駅になるなら、「ライナー型車両」ではなく、新型特急車両に置き換えたほうが素直だと思う。列車種別も特急のままでいい。しかし、西武鉄道の回答が「停車駅などの運行形態は検討中」としていることから、停車駅数の変化はあると考えられる。
増加する停車駅としては、「拝島ライナー」も停車する小平駅が有力だろう。レジャー用途を考慮するなら、航空公園駅も停車させたほうがいいのではないかと思われる。所沢市役所の最寄り駅でもあり、現在も停車していないほうが不思議だ。「小江戸」は川越への観光特急というだけでなく、通勤特急の役割が大きいかもしれない。
そうなると、快速急行が停車する田無駅も候補に入る。快速急行は土休日に下り1本しかないという珍しい列車で、西武新宿駅を9時0分に発車し、同駅8時30分発・9時30分発の「小江戸」を補完する役割を持つ。ライナー列車が田無駅に停車するとなれば、快速急行をライナー列車に統合できる。「特急列車をライナー列車に格下げする」ではなく、「特急列車を廃止し、その代わりに快速急行をライナー列車として大増発する」という見方もできる。
西武鉄道の回答にあった「柔軟な運行形態」も気になる。すべての列車が同じ停車駅にならないかもしれない。通勤主体、観光主体の時間帯で停車駅を変えることも考えられる。
列車名は変えたほうがいい
池袋線系統に「レッドアロー」がなくなったため、「レッドアロー」は「新宿線の特急」というイメージになった。新宿線では、「特急小江戸」または「特急レッドアロー」という2種類の案内を行っている。どちらも同じ意味だが、知名度が分かれているということだろう。
ライナー列車になったら、「小江戸」はそのまま使わないほうがいいと思う。停車駅が変更され、特急料金がライナー料金になるなど、サービス内容が変わる。新しいイメージを印象づけるためにも変えたい。一方で、「小江戸」に西武新宿~本川越間を結ぶというイメージが定着していることも事実。「小江戸ライナー」が妥協点といえそうだ。「拝島ライナー」に対して「川越ライナー」でもいい。列車の違いが明確になると思う。
運行本数は現行の「小江戸」より増えるか、減るか
筆者は増えると予想する。特急「小江戸」は平日に下り26本・上り29本、土休日に下り・上り各25本を運行している。西武新宿駅基準で平日16時台まで60分間隔、17時以降に30分間隔で運行。深夜の23時台も設定があること、休日より平日の運行本数が多いことから、通勤ライナーの役割も大きい。デュアルシート車両を採用すれば運用が柔軟になるから、ほとんどの時間帯で30分間隔になると予想する。
料金は下がる
「ライナー型車両」は特急車両と比べて簡易な設計になる。特急車両はデッキと客室が仕切られており、客室内は静粛で空調も保たれる。一方の「ライナー型車両」は、通勤時の使用を考慮するとデッキをつくれない。ドアが開くたびに駅の構内放送などが響き、外気も入ってくる。これで従来と同じ特急料金は考えにくい。
もっとも、「拝島ライナー」は全区間400円、特急「小江戸」は乗車距離に応じて400~600円であり、大きな差はない。もともとの特急料金が安すぎたと考えると、ライナー列車になっても同じ料金体系が維持されるかもしれない。
西武新宿線と有料座席サービスの今後は
繰り返すが、西武鉄道の回答は「車両の詳細な仕様、停車駅などの運行形態、名称等は検討中となっております」である。つまり、ここまで書いた内容は筆者の予想、妄想の域を出ない。はっきりしていることは、「10000系レッドアローが全車引退する」ことと、「今後、新しい特急型車両は投入されない」ことである。
新宿線については、観光特急よりも沿線の生活に密着した有料座席サービスになると期待できる。新ライナー列車の車両やダイヤなど、今後の情報に期待しよう。