NTT西日本では、次世代の光通信技術であるIOWN(アイオン)を活用したサービスの開発を進めている。大阪・京橋にある同社のオープンイノベーション施設QUINTBRIDGEでは3月8日、ダンス専門学校の生徒たちが参加する実証実験を実施。大阪~福岡の2拠点を超低遅延のネットワークで結ぶことで、モニター越しに息のあった合同ダンスを披露するという試みだった。

  • NTT西日本がIOWNを活用した合同ダンスの実証実験を行った

■IOWNとは?

NTTが掲げるIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想では、最先端の光技術によって圧倒的な「低消費電力」「大容量・高品質」「低遅延」を実現し、ひいては世界中の様々な社会課題の解決、革新的サービスの創出を目指すとしている。

  • QUINTBRIDGE(大阪府大阪市都島区東野田町四丁目15番82号)

実証実験は、会場に一般客を入れた形で行われた。QUINTBRIDGEと中継が繋がったのは、福岡・天神にあるeスポーツスタジアムesports Challenger’s Park。この2拠点は、距離にして約600kmも離れている。

  • 福岡の会場と中継が繋がった

冒頭、NTT西日本 デジタル革新本部の宮奥健人氏が挨拶した。IOWNの性能について宮奥氏は「たとえ600km離れていても20ms以下、つまり1/50秒ほどの“超低遅延”で映像をやり取りできます。こうした超低遅延で広帯域な次世代通信技術を活用することで、教育、エンタメなどの分野に新しい世界が切り開けると確信しています」と説明する。

  • NTT西日本 デジタル革新本部 技術革新部長の宮奥健人氏

IOWNの中核をなす技術の1つがAPN(オールフォトニクス・ネットワーク)。ネットワークから端末まで光化することで、圧倒的な低消費電力、大容量・高品質、低遅延を実現する。またこれに加えてNTT研究所が開発している超低遅延多画面統合処理技術vPrestoを使用。複数の映像を同時処理しても遅延しないシステムを用意した。

  • IOWNの主要技術のひとつがAPN(オールフォトニクス・ネットワーク)

  • 映像処理で遅延してしまう課題はvPrestoで解決した

宮奥氏は、IOWN構想を通じて医療、金融、教育、交通、エネルギーなどの各分野にイノベーションを起こしていく、と意気込む。今回の実証実験は、その中でも教育分野(ダンス)における格差の是正をイメージしたものとなった。一般的に都市部は教育施設も学習機会も豊富だが、地方ではそうもいかない。そこでNTT西日本ではIOWNを活用することで、知識・スキルを持つ講師が地方の生徒にもレッスンできる環境を構築。さらにマルチアングルの映像を複数拠点間で同期するなどして、教育の質の底上げにも貢献していく。

  • 実証イメージ。なお大阪側データセンタ~福岡間の光ケーブルの実証環境および福岡側データセンタ環境の構築にはQTnetが協力した

■新技術に生徒たちの反応は?

筆者が訪れた大阪会場には、ステージに向けて複数のカメラが設置されていた。その舞台に登場したのは、滋慶学園の生徒で結成されたアイドルグループSO.ON projectのメンバー。マイクで挨拶する生徒の横には、福岡会場の様子が映る大型モニターも置かれていた。

  • 大阪会場の様子

  • 複数台のカメラが舞台の様子をとらえる

そして実際に、両会場でダンス曲「world is yours」と「お願い! Ring My Bell」が披露された。なるほど、大阪と福岡の会場でまったく遅延がない。ダンス、歌声ともに完全にシンクロしている。生徒たちも、伸び伸びとパフォーマンスできているようだ。

  • ライブパフォーマンスの様子。モニターに、同じ頭身で福岡のメンバーが映る

  • 福岡会場にも、大阪会場の様子がモニター越しに映し出されていた

ダンスを終えた生徒たちに話を聞いた。ある生徒は「実は、普段は福岡の子たちと会う機会はないんです。でもIOWNを使ったら、画面を通じて話すことができたし、新しいコミュニケーション手段だなと思いました」と素直な感想を口にする。

また別の生徒は「スマートフォンでも画面越しに会話できますが、遅延がすごく気になります。IOWNだと、きれいな画面に全身が映っている相手と遅延なく喋れるので、本当に新感覚でした。まるで隣りにいてお話するような感じで、一緒に手でハートの形をつくって遊んだりしました」と笑顔。

  • ライブでは福岡会場のコメントに耳を傾ける場面も

ちなみに大阪と福岡の生徒たちは、事前に「合同レッスン」も体験していた。そもそも従来はオンラインでリモートレッスンをしようにも遅延がネックとなり、講師の指示も的確には伝わらなかった。しかしIOWNを使うことで、遠隔地間でも歌とダンスがピタリと同期できるようになった。生徒たちからは「先生に指摘いただいたタイミングで振り付けを合わせることができました」「めったにない経験。とても楽しいレッスンでした」「もっと良いパフォーマンスしたいと思いました」といった感想が聞けた。ちなみに講師からも「指導の精度を上げることができました」と喜びの声があがっている。

NTT西日本では、この実証実験を通じて「遠隔地での複数拠点・マルチアングルの長距離・低遅延映像伝送による教育分野におけるユースケースの有効性を確認」するとともに「IOWN構想の教育分野において、今後のサービス化に向けた検討を進めていきたい」としている。