はしがき
トップ棋士に現在の将棋界とその中でどう戦っていくかを語っていただく「私の戦い方」。第14回は今期絶好調の服部慎一郎七段にご登場いただいた。朝日杯の藤井聡太竜王・名人戦の話、実戦をメインにした勉強法、そしてタイトル戦への熱い思いなど、存分に語ってくれた。
【インタビュー日時】2025年1月25日
【記】島田修二
※本文中の段位は将棋世界本誌掲載当時のもの
スキのない藤井聡太竜王・名人
―本日はよろしくお願いします。
「よろしくお願いします」
―まずは最近の将棋界について。王将戦は第1局が終わったところですが、どう見ていましたか?
「いままでの藤井竜王・名人と永瀬九段の戦いとは少し違った印象を受けました。これまでは主に角換わりの定跡形で戦っているイメージでしたが、あの一局は序盤から手が広く、一手一手が難しい将棋でした」
―挑戦者の永瀬九段といえば圧倒的な勉強量で知られています。
「同じ棋士として尊敬の念が強いです。自分も努力できるようにとは思っているんですが、対局の次の日でも欠かさずに続けるのは難しいです。本当に将棋が好きじゃないとできないと思います」
―AIの出現によって量をこなすことの重要性が増したように思います。
「そうですね。私も自分が納得するところまでやりたいとは思っているんですが、AIに頼りすぎるのもどうかと思うので難しいところです」
―これから始まる棋王戦についてもお聞きします。挑戦者の増田八段の将棋の印象はいかがですか?
「筋のいい手が多くて、手厚い将棋というイメージがあります。リードを奪ってから、わかりやすい手を重ねて勝ちきってしまう。中終盤は手厚いのですが、最後は鋭い手も繰り出してくる印象です」
―ずばり棋王戦の見どころはどこでしょうか?
「タイトル戦では初めてのカードなので、どんな戦型になるか注目です。藤井棋王が先手番のときは増田八段が角換わりを受けるかどうか、逆に増田八段が先手番でどんな作戦を用意してくるのかが見どころかなと思います」
―現在の「藤井聡太1強」という状態についてどう思いますか?
「確かに叡王のタイトルは奪われましたけど、それ以外のタイトル戦では防衛を続けていてスキがない印象です。最近だと佐々木八段との竜王戦は個人的にとても興味深かったです」
―竜王戦についてもぜひご意見をうかがいたいです。
「佐々木八段がこれまで藤井竜王があまり経験したことのない戦型を持ってきて戦っていました。観ていて面白かったです。それでも持ち時間が長いと対応されてしまうので、改めて藤井竜王に勝つのは難しいなと思っていました」
―佐々木八段の戦い方は一つの有力な方法だと思いました。
「それは多くの棋士が思ったんじゃないでしょうか。ただ、毎回新しい作戦を持ってくるのは大変ですよね。後半は弾切れになる可能性もありますし」
―確かにそうですね。服部七段が藤井竜王・名人と番勝負で戦うとしたらどうしますか?
「どうしますかね……。藤井竜王・名人が経験したことがない形を持っていくか、自分の得意な戦法で挑むか。難しいです」
―改めて藤井聡太竜王・名人のどこに強さを感じますか?
「序盤、中盤、終盤を通してスキがないところでしょうか。全体的にいい手を指しているイメージです」
―最善手か、それに近い手しか指さない、というような。
「そうですね。明らかに悪い手を指さないというのは大きいと思います。将棋をやっているとどうしても最善手が見えにくい局面が出てきます。そういうときでも藤井竜王・名人は悪い手を指すイメージがありません」
―なぜ藤井竜王・名人はそういうことができるんでしょうか?
「一つは読み、もう一つは感覚でしょうか。いいところに手がいく絶対感覚みたいなものを持っているんだと思います」