「飛行能力をお持ちの方々、イベント中は飛ばないで楽しんでね」

まさかの新卒説明会の注意事項である。

インターネット関連サービスを提供するGMOペパボは3月7日、新卒説明会を開催した。これまでもユニークな新卒説明会を実施し、その都度話題を集めてきたGMOペパボだが、今回の舞台はなんと「メタバース」。ということでさっそく、その一風変わった新卒説明会の模様をお伝えしたい。

■GMOペパボが「メタバース」で新卒説明会を開催

「みんな個性豊かでとってもキラキラしてる。でも、飛行能力をお持ちの方々、イベント中は飛ばないで楽しんでね。大柄なアバターの方々は、他の方の視界を邪魔しないよう少し縮んでくれると助かるな。他の方の視覚、聴覚に干渉するような能力の発動は控えてくれると嬉しいな。みんなで素敵な空間を作ろう!」

繰り返すが、新卒説明会の当日、アナウンスされた注意事項である。いきなり面食らう形となったが、「本当にもうこういう時代なんだな」とも強く実感させられた。すでに企業説明会のオンライン開催は完全に定着しているし、そもそもVRやAR技術も発展し続けている。そう考えれば、メタバース空間で企業説明会が開かれるのも至って自然な流れかもしれない。

GMOペパボはこれまでも、宝塚やメタルバンドなどをテーマにした、風変わりな新卒説明会を開催してきた実績がある。それに比べればむしろ今回は、斬新とはいえまだ常識的なほうかもしれない。

ただ、やっぱり……

スゴい光景なんですけど! 開始時刻が近づき、徐々に参加者も集まってきたようだ。

このとき思ったのは、「椅子の数は足りるのかな。立ち見の参加では脚が疲れるのではないか」ということ。しかしよく考えれば、参加者のみなさんは現実世界において(おそらく)モニター前で座っているわけだから、アバターが立ち見でも座り見でも関係ないのだ。「ってことは、いちいち椅子に座る必要もないのか? いや、でも座ったほうが気分がよさそうだ……」と余計なことを考えてしまうのは素人が故なのだろう。

今回は取材で参加させていただいたが、メタバース空間に入り込むのは初。全国からオンラインで参加者したみなさんは慣れっこかもしれない。でも、メタバース初心者からすればあまりに斬新すぎて、常に興奮状態にあったというか、終始ふわふわしてしまった。本当にもう没入感がスゴいのなんの。いや〜、メタバースってこんなに楽しいのね。

  • GMOペパボのオフィスにお邪魔し、新卒説明会に参加させていただいた

会場はこの日のために用意された「GMOペパボワールド」。メタバース事業を手掛ける株式会社Vに制作協力を依頼したという。

「GMOペパボワールド」は学校の体育館のような作りになっており、会場にはGMOペパボが手掛けるハンドメイドマーケット「minne byGMOペパボ」やECサイト構築サービス「カラーミーショップ byGMOペパボ」などの屋台が並び、天井のほうにはインターネット黎明期を象徴する「ロリポおじさん」やSUZURI公式忍者「スリスリくん」といったマスコットキャラの巨大モニュメントのようなものもあしらわれていた。まるで文化祭だ。

同社がメタバース上で新卒説明会を開催したのは今回が初とのことだが、すでに世界観が仕上がり切っている。

この日の説明会で、GMOペパボの佐藤健太郎社長は女性キャラのアバターでステージ上に登壇。ご本人は社長室から参加した。

  • ステージにいる青髪の女性アバターこそが、GMOペパボの佐藤健太郎社長である

「GMOペパボは『もっとおもしろくできる』という企業理念のもとサービスを展開している」と佐藤社長は話し、今回の新卒説明会の趣旨について次のように明かす。

「新卒説明会って、普通に型にはまったようなものが多いじゃないですか。リクルートスーツを着てかしこまる必要があったり、企業の人も威圧的に見えたり。そういうものより、もっとおもしろく会社説明会ができないかなと思って、今回はVRChat上でやってみようと考えました」(佐藤社長)

  • 社長室から参加中の佐藤社長

また、佐藤社長は、GMOペパボが掲げる「人類のアウトプットを増やす」というミッションの詳細とこれまで展開してきたプロダクトの歴史について説明。

そのうえで、「我々が提供しているサービスは、お客様にアウトプットしていただく環境やプラットフォームです。なので、我々(GMOペパボ社員)自身がアウトプットし、どんどんアウトプットする側の気持ちを理解していくことが重要。社内社外問わず、いろんなところで表現することを大切にしましょう、という価値観でやっています」と企業風土について説明した。

  • 佐藤社長と若手社員たちのトークセッション。参加者から寄せられた質問に答えていった

新卒説明会では、同社のCTOの栗林健太郎さん(通称あんちぽ)や若手社員らも登壇。それぞれオフィスの会議室から別々にメタバース空間に入り込み、ユニーク極まりないアバターで極めて真面目にGMOペパボの魅力や企業理念、そして自身の働き方や休日の過ごし方について語った。

  • 若手社員のjayさん(左)とugoさん(右)もオフィスから参戦

  • 食い入るようにステージ上を眺めていた(はずの)参加者のみなさん

新卒説明会は約1時間で終了。最後はみんなで……

記念撮影! なんかスゴくハッピーな空間で、自分でも不思議なくらい感動してしまった……。ちなみに説明会終了後も、参加者のみなさんや若手社員らはGMOペパボのアレコレについて長いこと立ち話をしていた。リアル世界よりもフランクなコミュニケーションが取りやすいというのもメタバースの特徴なのかもしれない。

新卒説明会終了後、佐藤社長にお話をうかがうと、「今、こういうこと(メタバースの新卒説明会)をやっている人がいないので、一番最初にやったら面白いかと思いました」と明かし、次のように続けた。

「今のメタバースは、初期のウェブの頃に近いんじゃないかと思っています。みんなが面白がってやっているところから、少しずつカルチャー化していって、それが当たり前になっていくという流れですね。面白がってやったほうが自分たちとしても楽しいので、こういう説明会をやってみました。

昔ウェブが始まったときにテキストサイトをやっていた人たちが、ライターさんになったり、ビジネスを始めたり、どんどん変化していきました。多分、今メタバースを楽しんでいる人たちもまた活躍の幅を広げていくと思いますし、我々もそういうみなさんと先に仲良くなっておきたいと思っています」

「もっとおもしろくできる」。この企業理念を自らの新卒説明会でも実践するGMOペパボ。次はどのような仕掛けで驚かせてくれるのか、引き続き注目したい!