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今季も活躍が期待されるロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平。2023年に肘の手術を受け、今季は2年振りのマウンド復帰が渇望されている。トミー・ジョン手術からの復帰は通常1年半とも言われるが、投打両立という未踏の挑戦は、彼の復活にどんな影響を与えるのか。今回は、大谷の復帰プロセスについてフォーカスした。(文:Eli)
今シーズンのメジャーリーグは
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”完全復活”できる時期は…?
大谷翔平が2023年に受けた手術の全容はこれまで明らかにされていない。手術はスポーツ医学の権威であるNeal ElAttrache氏によって行われたが、同氏は取材に対して”損傷した箇所を修復した上で、肘の寿命を延ばすために健康な組織を追加し靭帯を補強した”とコメントした。
肘の損傷を修復したことや当初の復帰予定が手術から1年半後の2025年初めだったことから、トミー・ジョン(TJ)手術との類似がみられる。
トミー・ジョン手術、あるいは側副靱帯再建術とは損傷した肘の腱や靭帯を修復するために、患者の正常な腱の一部を摘出し、損傷部位と交換する手術である。1974年にトミー・ジョン投手が初めて受けたことからトミー・ジョン手術と呼ばれる。
初症例から50年が経過したが、メジャーリーグでは毎年のようにTJ手術を受ける投手が現れる。最近の例では2021年サイ・ヤング賞投手のロビー・レイ、2022年サイ・ヤング賞投手のサンディー・アルカンタラが受けた。
ドジャースでは2度目の手術から復帰したウォーカー・ビューラーや2023年に契約が大失敗に終わったノア・シンダガードが挙げられる。
このような症例の積み重ねは、TJ手術を受けた投手がその後どのようなキャリアを描くかについての大きな参考となる。ニューヨーク・ヤンキースのチームドクターを務めるクリス・アーメド氏らが行った研究では次のことがわかったという。
先ず術後3年目までに復帰した投手は全体の82.0%、復帰にかかる平均日数は584日であった。復帰割合が少し低い気もするが、復帰時期に関してはTJ手術の復帰目安と言われる16~18ヶ月とおおよそ合致している。
また、3シーズン目までのパフォーマンス回復率は球速が76%、fWARが48%、球威を示すStuff+が78%、球威/制球から投手を評価するPitching+は78%と術前の状態に完璧に戻るのは非常に難しいと言える。
研究ではパフォーマンス回復率はシーズンを重ねるごとに向上することが示されており、手術直後のシーズンで一喜一憂するのではなく長い目で見る姿勢が重要になりそうだ。
大谷が手術を受けた際に、代理人のネズ・バレロ氏は「最終的な決断は長期的な視点を重視してくだされた。翔平は今後数年にわたり二刀流を継続するチャンスが確保できる道を選んだ」とコメントしている。
2回目のトミー・ジョン手術
話をややこしくするのは、大谷が2回目のひじ手術を受けたという点だ。2回目の術後は1回目と比べてパフォーマンス回復率の悪化やリハビリ期間の長期化があるとされている。近年で2回目のTJ手術を受けた選手をまとめた。
コール・レイガンズやネイサン・イバルディのように2度目の手術以降も一線級の活躍をしている選手がいる一方で、ウォーカー・ビューラーのようにメジャーには残ったもののパフォーマンスの大幅低下に悩む選手、あるいはトレバー・ローゼンタールのようにメジャーに戻ることは無かった選手まで様々だ。
タンパベイ・レイズのドリュー・ラスムッセンは2023年に3度目のひじ手術(TJではないが類似の手術)を受けたが、実戦復帰となった2024年は4先発を含む16試合に登板し防御率2.83、球威も術前まで戻している。先発としてフル稼働できるかは今後次第だが、順調な回復を見せていると言える。
絶対数が少ないので確信とまではいかないが、パフォーマンスの良し悪しはさておき、少なくともメジャーの舞台に戻るまでは多くの選手が達成しているようである。
二刀流とリハビリの両立
大谷のリハビリプロセスをさらに複雑にするのが、打者大谷との両立だ。通常、故障した投手がリハビリをする場合、キャッチボールやブルペン投球を行い、打撃練習での登板を経てマイナーでのリハビリ登板と、徐々に強度と実戦度を上げていく。
最終的には故障者リストからメジャー復帰し、イニングや球数を管理しながら術前の稼働状態に戻していく。という流れだ。
大谷と復帰時期が類似する昨年のウォーカー・ビューラーはマイナーで開幕を迎え、3~5イニングの先発登板を6回行った後メジャーに復帰。メジャーレベルでも1先発最大6イニング、球数も100球を超えることは無かった。
このようにレベルや強度を上げ、少しずつ慣らしていくのが一般的なリハビリなのだが、大谷は打者としても出場していることからマイナーでのリハビリ登板をしないとされている。短期離脱ならリハビリ登板をスキップすることはあるが、年単位での離脱でこれをするのは超異例だ。
前例として2020年に大谷が1回目のTJ手術から復帰する際に、当時所属していたロサンゼルス・エンゼルスはマイナーでのリハビリを回避し、マイナーの選手をアナハイムに呼び寄せてライブBPを行った。これにより大谷は打者として出場をある程度持続しながら投手としてのリハビリを行うことができた。
ドジャースはエンゼルス時代と同様の動きをとることもできる。また、戦力的に打者大谷が1~2週間抜けてもそれほど問題が無いのであれば、マイナーでのリハビリ登板に送ることも可能だ。
ここは首脳陣や大谷自身が度々話しているように球団と選手のコミュニケーションをとりつつ決めていくことになるだろう。
今後も二刀流を継続するためには…?
大谷が今後も長く二刀流を続けていくには何が必要だろうか。
現在の大谷は並外れた身体能力を活かした圧倒的なパフォーマンスを見せている。打撃では最大、平均打球初速は常にリーグトップクラスでホームランを量産する一方で、投球では100マイル(約160キロ)に達する速球と大きく曲がるスイーパーを武器に奪三振を軸とする投球スタイルをとってきた。
しかし、投打両方においてこのスタイルが今後5年以上維持できるとは考えにくい。例えば、打球初速の権化として有名なジャンカルロ・スタントンは、35歳となった今でも120マイル(約193キロ)の打球を打つ能力を有しているが、毎年のように故障離脱するなど安定性を欠いている。
また、サイ・ヤング賞2度受賞のジェイコブ・デグロムは36歳となり、2度目のTJ手術から復帰した2024年シーズンに平均97.3マイル(約156キロ)と往年の剛速球を見せているが、2021~2023の期間において100イニングを投げた年は無い。
このように、圧倒的な打球初速や球速に頼るスタイルは成績の劣化か故障の多発を招く可能性が高い。大谷が二刀流を長年続けるためには打球初速や球速を追い求めるのは無く、身体的衰えを経験でカバーできるようなスタイルチェンジをしていくことが重要になるだろう。
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