伊藤園は2月27日、「第10回 伊藤園ウェルネスフォーラム」を開催した。「最先端 抹茶サイエンス 認知症予防と共生の新たな一歩」をテーマに開催された様子をレポートする。

「認知症」とは?

はじめに、筑波大学医学医療系 臨床医学域精神医学 新井哲明教授から「人生120年時代に求められる 認知症対策」について基調講演が行われた。

認知症とアルツハイマー病の違いについて聞かれることがあるという新井教授。教授によると、「認知症」とは、1つの病気を指すのではなく、「認知機能が低下することによって仕事や日常生活に支障が出る状態の総称」を指すとのこと。

では、具体的にどういう状態を「認知症」というのか。

アメリカNIA/AAが定義する診断基準としては、「記銘・記憶障害(置き忘れ・何度も同じことを聞く)」「論理的思考、遂行機能、判断力の定価(危険性が理解できない、財産管理ができないなど)」「視空間機能障害(顔や物の識別ができない、道具が使えないなど)」「失語(簡単な単語が理解できない、言葉が出てこないなど)」「人格、行動、態度の変化(自発性低下、焦燥、強迫など)」という5つの柱を基準に、最低2項目以上の障害が認められ、仕事や日常生活に支障が出てくる状態になると「認知症」と診断されるという。

そして、新井教授がもう一つ知って欲しいと語るのが「軽度認知障害(MCI)」という状態。今、認知症を予防する上でMCIに注目が集まっているのだとか。

知って欲しい軽度認知障害(MCI)とは

新井教授によると、軽度認知障害(MCI)とは「脳の機能が健常な状態」と「認知症」の中間の段階のこと。「MCI」と診断された人のうち、年間5〜15%が「認知症」になるという調査結果もあるのだそう。しかし、現状が保たれたり、回復したりする人もいるため、新井教授は「MCIを正しく知り、MCIのうちに早期発見に努めることが、認知症の予防やその後の生活の質を保つために重要だ」と語る。

2022年の時点で、認知機能の低下が認められる日本人は約1,000万人(MCI患者560万人、認知症患者443万人)。認知症対策が近々の課題となっている日本では、昨年「認知症基本法」が成立。それに基づいて「認知症施策推進基本計画」が閣議決定されている。

その基本的な方向性は、「誰もが認知症になり得ることを前提に、国民一人一人が自分ごととして理解する。個人としてできること・やりたいことがあり、住み慣れた地域で仲間と共に、希望を持って自分らしく暮らすことができる」という『新しい認知症観』に基づき、認知症の人本人の声を尊重し、推進される。これにより、認知症の人が尊厳と希望を持って暮らすことができる共生社会の実現を目指すという。

新しい薬物療法と予防について

さらに、具体的にどんな療法が有効なのか、認知症の新しい治療法について講演が行われた。新井教授によると、アルツハイマー病における従来の薬物療法は、認知症を発症してから飲み薬を服薬することで進行を遅らせるというもの。しかし、新しい治療法では、「神経変性の誘因となる病理構造を標的とし、病態の進行を遅らせる薬をMCIの段階から用いる」のだそう。

実際、抗Aβ抗体薬(レカネマブ)を1年半投与したところ、神経変性の誘因となる病理構造(アミロイドベータ)が約70%も除去され、認知機能の悪化を30%近く抑制するという効果が得られたという。

しかしながら、そもそも認知機能の低下は加齢によるものであって、どんな薬を用いても「遅らせることはできても完全に止めることはできない」と新井教授。そのため、認知症には「食事や運動などの生活習慣に気を付けることで"予防"することが最も重要だ」と語った。

認知症のリスク要因と抹茶の効果

続いて、MCBI取締役会長・内田和彦氏から、「抹茶と認知機能~最新研究より」をテーマに基調講演が行われた。

内田氏によると、14のリスク要因を改善することで認知症は45%予防できるという。特に、中年期の「高血圧」「糖尿病」「脂質異常症」の管理が将来の認知症予防に非常に重要とのこと。こうした生活習慣病の予防に有効な一つの手段として「食事」に着目した同社は、従来の研究から「緑茶を飲むと認知障害になりにくい」という報告をもとに、伊藤園や筑波大学等と共同で「抹茶の効果」について研究を行った。

その結果、1年間毎日抹茶カプセルを摂取した抹茶群と、プラセボカプセル(深緑色に着色したコーンスターチ)を摂取したプラセボ群を比較したところ、抹茶群では「睡眠の質が良くなった」のに加え、「社会的認知がアップ(改善)」するという効果が見られたのだそう。

社会的認知では、「表情認知」テストを導入。笑っている顔や怒っている顔など、人の表情をランダムで提示し、3秒以内にどういう表情をしているのかを答えてもらったところ、抹茶群の社会的認知の改善が確認されたという。

こうした知見をもとに、MCBIでは、多くの人に認知症予防に取り組んでもらうため、「MCBIメンバーズ」というWEBサイトを展開。登録(無料)すると、検査のサービスやフォローアップ、オンラインの運動教室、サプリメントの提供などを受けることができるほか、認知症になってしまった場合の財産の保護を目的に「家族信託」の紹介なども。

また、「予防の一番難しいところは、症状が出ていない段階で取り組んでいるため、症状が改善したかがわからない、頑張っても効果が見えないことにある」という内田氏。「MCBIメンバーズに参加してもらうことで、それを"見える化"し、また予防に取り組んでもらうと結果的に認知症にならずに済むのではないか」という考えのもと、同サイトを運営していくと語った。

世界が注目する「最先端抹茶サイエンス」

後半では、基調講演を行った新井教授、内田氏に加え、サルタ・プレス代表取締役(日経BP総合研究所メディカル・ヘルスラボ 客員研究員)の西沢邦浩氏、伊藤園央研究所 担当部長の瀧原孝宣氏、三菱総合研究所 ヘルスケア事業本部 主席研究員の大橋毅夫氏を迎えて、「世界が注目する『最先端抹茶サイエンス』 社会にもたらす多面的メリットとは」をテーマにパネルディスカッションが行われた。

まず、「抹茶」が注目されている背景について西沢氏は、「インバウンドによる人気の高さ」を挙げた。特に海外では、抹茶に含まれている「ビタミンK」が老化抑制ビタミンの一つではないかと言われていること、さらに抹茶成分の4割が「食物繊維」であることから腸活への期待も。美容と健康にいいとされる要因が、抹茶人気に繋がっているという。

さらに瀧原氏が、抹茶は、煎茶に比べてうまみ成分のアミノ酸をしっかり蓄積しており、実は、お茶のアミノ酸の半分は「テアニン」だと続けた。リラックスや睡眠の質を改善する効果のある「テアニン」の濃度がグッと上がるなど、ほかにも体にいい成分が高濃度に凝縮された究極のお茶、それが抹茶であると瀧原氏。

こうした抹茶の健康性に、日本人よりも海外の人の方が注目しており、実はそれこそが今、お茶業界も含め、世界的に「抹茶をちゃんと研究しよう」という流れの一つになっているのだという。

これを受けて司会進行を務める大橋氏は、海外の人の行動によって「逆に日本人が(抹茶の良さを)気づかされて、今、再注目を浴びているということで、“なぜ抹茶”というよりは、“だから抹茶”というようなタイミングなんだな、という事が分かりました」と感想を述べた。

次に、新井教授に認知症予防について改めて大事なポイントを聞いた。新井教授によると、「たしかに有効な新薬は出ているが、新薬にたどり着くまでにはいくつかの条件があり、むしろ新薬の適用にならない人の方が多い」という。また、新薬を使えたとしても、進行が完全に止まるわけではないので、やはり予防が重要とのこと。

それを踏まえ、認知症を予防するために、「MCIの段階で早期受診すること」「中年期における生活習慣病の予防と、なってしまった場合には薬できちんとコントロールすること」「有酸素運動や筋トレといった運動の習慣化」「バランスの良い食事」「老年期の孤立(ロンリネス)を回避し、コミュニケーションの機会を設けること」がポイントだと語った。

相関にある前頭葉と表情認知の機能

続いて、コミュニケーションの重要性に関連して、改めて「表情認知」について内田氏にポイントを聞いたところ、「日常シーンから診断される病気は特殊であり、それを症状が出る前に体の中を見える化し、早い段階で手を打つためには表情認知テストが有効」とのこと。

これについて新井教授が、遂行・注意といった機能を持つ「前頭葉」が「表情認知」と相関していると補足。また、これまでの研究や論文をみると、「今までの認知機能検査では、ある程度認知機能が悪くならないと異常と判定されなかったが、もしかしたら、表情認知はもう少し前の段階で捉えることができるのではないか」と意見を述べた。

さらに、加齢とともに前頭葉から脳は痩せ始めると新井教授。それを止めるのに最も有効なのが「運動を継続すること」だという。ただ、1年間運動をやめてしまうと、運動をしていなかった人と同じくらい痩せてしまうため、継続することが大事だとも語った。

最後に、認知症に効果があるとする抹茶を日常に取り入れる方法として、瀧原氏が実演を行った。抹茶というと“お点前”のイメージが強いかもしれないが、「ボトルに水と抹茶の粉末を入れ、シェイクするだけ」でいいのだそう。簡単かつ持ち歩くこともできるため、「ぜひ、もっと身近に手軽に抹茶を取り入れてほしい」と締めくくった。