■〈物語〉シリーズとの出合い
『ぱちんこCRサクラ大戦2』 の開発に限らず、普段から版元視点で業務を行っている川野氏は、「サミーの企画の中でも、IPコンテンツの世界観をパチンコに落とし込むことへのこだわりは自分が一番強いのではないか」と自負。そして、そのこだわりが評価され、〈物語〉 シリーズの開発を担当することになったが、担当になった当初は、作品についての知識があまりなかったという。
「もちろん作品の存在は知っていましたし、面白そうだとは漠然と思っていたのですが、原作もアニメも見たことがなかった。それで、実際に作品を見てみたら『なんじゃこりゃ』って(笑)。すごく面白いんだけど、どうやってパチンコに落とし込んだらいいのかがまったくわからない。最初は本当に頭を抱えました」
普段から、このオープニング映像は使えるとか、曲がリーチ演出にあっているといった視点でアニメを見てしまうことを「職業病」と表現し、何を見ていても、『ここはパチンコっぽい』と勝手に反応してしまう身体になってしまっているという川野氏は、頭を抱えながらも、〈物語〉 シリーズにおけるキャラクターや音楽的な魅力、特徴的な演出や会話のテンポ感など、注目すべきポイントを抽出し、「ちゃんと作りさえすれば受け入れられるのでは」という手応えを徐々に感じ始める。
実際に開発がスタートし、版元とのやりとりを行う中で、一番苦労したのは「先方がパチンコのことをあまり良く知らなかった」こと。「〈物語〉シリーズはかなり難解な作品なので、パチンコのオリジナルになる部分を自分で考えるのが非常に難しかった」という川野氏は、「(原作者の)西尾(維新)先生の言い回しは正直、絶対に真似ができない」という自覚もあり、開発はまさに苦労の連続。それをパチンコについての理解があまり深くない版元 に理解してもらうのは「本当にきつかった」と改めて振り返る。
ただ、監修を重ねていくことで先方の理解も深まり、進行もスムーズに。1作目となる『ぱちんこCR化物語』で、版元側の信用を勝ち得たことが、その後も引き続き『物語』シリーズを担当することに繋がっているという。「〈物語〉シリーズの場合、毎回〈物語〉シリーズらしさを求められるのですが、実はそれが一番つらい」という川野氏だが、「それには正しい答えなんかないので、本当に難しいのですが、逆に言えば、それは新しい挑戦にも繋がるのではないか」と前向きに捉える。
「前例のないことって、周りの賛同も得にくいのですが、みんなの意見を集約するだけだと、面白さの薄まったマイルドな機械しか作れない。だから、色を残すためには、ある程度強気で押していく必要もあるのですが、そうなると当たりも強くなる。その意味では、本当に勇気のいるプロジェクトだと思っています」
「マンネリは決して悪いことではなく、変わらないことは安心感に繋がるので、決して蔑ろにはできない」という川野氏。「毎回打つたびに新しいルールを覚えなければならないとなると、人によってはすごいストレスになります。だから、良い前例は残さなければならない」としつつ、「本当に同じものばかり作ってしまうと、既視感からすぐに飽きられてしまう」という問題点を指摘。「良い前例は残しながらも、改良を加えて、時にはちょっとした新しい遊びも入れる。そこに、IPの色をつけていくのが自分の仕事」だと、自身の役割を改めて定義する。
■失敗からの学びを続編に活かす
そのうえで、「正直な話、初代の『ぱちんこCR化物語』は失敗してしまったんです」と打ち明ける川野氏。
「当時は、とにかく作品の世界観をパチンコに再現することに必死で、とにかく『化物語』の色を前面に押し出したんですよ。その結果、作品の熱心なファンの方には、面白く受け取ってもらえたのですが、まったく作品のことを知らない、一般のパチンコユーザーにとっては、難解で、冗長で、すごい色物に見られてしまった」
改めて『ぱちんこCR化物語』を見直し、「パチンコではなく、ファンアイテムを作ってしまった」という川野氏は、パチンコを作っている以上、パチンコとしての面白さを忘れてはいけなかったと反省の弁を述べる。改めて『ぱちんこCR化物語』が失敗したポイントについて川野氏は、次のように説明する。
「〈物語〉シリーズの良さは、ストーリーであり、キャラクターの掛け合いだと思ったので、とにかくそれを演出として盛り込んだのですが、その結果、リーチが長めになったりして、とにかくパチンコとしてのテンポ感が崩れてしまった。さらに会話に重点を置いてしまったため、当たりまでの盛り上がりが欠けてしまった反面、当たりと関係ないところで長々と演出が展開されてしまった」
そういった反省点を精査し、甘デジ版の『デジハネCR化物語』に反映させたところ、それなりの結果を残すことができたため、「方向性は間違っていない」ことを改めて認識。自信を持って、続編となる『ぱちんこCR偽物語』の開発に進めたという。
「ファン目線とパチンコユーザー目線で考えると、8対2くらいの比率になっていたと思います。その失敗を踏まえて、『ぱちんこCR偽物語』は、だいたい6対4くらいをイメージして作りました。『偽物語』の色はちゃんと残しつつも、連続演出などの定番演出を入れたりして、パチンコにもちゃんと寄せる。『物語』シリーズの場合は、これくらいのバランスがちょうど良かったのかもしれません」
もちろんこのバランスはIP次第なので、「パチンコに向いているIPはもっとパチンコに寄せたほうが良いかもしれません」としつつ、「いずれにせよ、パチンコとして作る以上、パチンコを意識しないといけない」。これこそが初代の失敗から学んだ教訓だと川野氏は自戒する。
その一方で、「『ぱちんこCR化物語』をできるだけ原作に寄せたことが、版元さんとの信頼関係を深めることに繋がったという側面もあったかもしれない」と振り返る川野氏。コンテンツを借りている立場である以上、版元の理解、そして了承は非常に重要だが、その反面、実際にパチンコを打つ人の想い、そして嗜好も考える必要がある。そして、そのあたりのバランス感覚を今後の課題感として捉えているという。
■改めてプロデューサーという仕事について
パチンコ開発におけるプロデューサーの仕事は、人によって比重が異なる。製品のクオリティアップが第一であることは共通だが、各プロジェクトが円滑に進むように、部署間や人員調整など、開発現場の効率化に尽力するプロデューサーもいれば、製品プロモーションにより力を入れるプロデューサーもいるという。
自身は、「できるだけ開発現場に足を踏み入れて、クオリティをコントロールすることに重きを置いている」という川野氏。その結果として、「〈物語〉 シリーズもそうですが、パチンコに落とし込むのがちょっと難しそうな案件がけっこう割り振られる」と苦笑いを浮かべる。
ただ、プロデューサーという立場になったことで、演出などはできるだけ企画担当者に任せるようにしているという。「もちろん、企画担当のキャリアにもよりますが」と前置きしつつ、「サミーのプロデューサーは、機械の開発だけでなく、後進育成をする管理職という面もある」という自覚が大きな理由となっている。
「初代の『化物語』で、失敗したにも関わらず、続編も担当できたのは当時の上司のおかげなのですが、実は開発中にその上司とひどくぶつかったことがありました。担当から外されるギリギリまで揉めて、最終的には自分が渋々引き下がったのですが、どうやらその出来事が上司にとってすごく印象深かったらしく、『こいつは熱量を持って開発に向き合っている』と思ってもらえたんですよ。そして、続編が立ち上がる際、『川野ならなぜ失敗したかがわかっている』といって、僕に任せてくれた」
上司との衝突が今の自分に繋がっているという川野氏は、「今ここでインタビューを受けている自分がいるのも、その上司のおかげだと思うと、自分もそうありたい」との想いから後進育成の重要性を認識。「数年後、今の部下が同じようにインタビューを受けていたら、それ以上最高なことはない」と笑顔を見せる。
プロデューサーとなり、徐々に現場から遠のいていく現状についても悩ましさを感じており、「本当はプロフェッショナルとして開発現場にどっぷり浸かりたい」との想いを抱えているが、その一方で、後進育成にも喜びを感じつつある自分がいるという川野氏。「昔は本当に夢にも思わなかった」とのことで、プロデューサーはマネージャーの立場でもあることから、本当に自分に向いているのか悩んだとのことだが、「後輩や部下が、何か楽しそうに作っているのを見ると、それだけで満たされることがある」という内面の変化に加えて、「〈物語〉シリーズといえば川野みたいな属人化が進んでいる」ことへの危機感が、後進育成に力を入れるきっかけになっているという。
また、プロデューサーになって一番嬉しかったことについて尋ねると、「ホールでユーザーの皆様が楽しそうに打っているのを見たとき」と即答。「例えば、隠し仕様などを見つけてすごく楽しんでくれているのを見ると、それだけで報われた感じがする」とのことで、「とにかくユーザーの皆様が楽しんでくれているのが一番。実際、それを想像しながら作っているところもある」と続ける。
そして、「良い失敗をたくさんしろ」というサミーの里見治名誉会長の言葉を引用し、「全力で取り組んだ上での失敗は、原因を突き止めることで次に繋がりますし、成長の糧になります。失敗だけで終わらせず、次のチャンスを活かして成功を引き寄せろ」ということなのですが、その意味では、「『化物語』は良い失敗であり、これからもまた良い失敗をしないといけない(笑)」と、今後のさらなる挑戦への意欲を見せた。
そして最後に、「最近は出玉に寄せたパチンコが増えていますが、もっと演出を楽しめるものも作りたいという方は、ぜひサミーに来て、僕と一緒に開発しましょう」と熱く呼びかけ、「そして僕とぶつかってください。その衝突の先には絶対に良い成功が待っているはずです」と、自身の経験を踏まえつつ、「本当にやりがいのある業界だと思いますので、ぜひとも一緒に仕事ができたらうれしいです」と、パチンコ業界を目指す人へのメッセージを贈ってくれた。

