2024年11月28日、船橋市西部公民館において「船橋市オープンデータアイデアソン」が開催された。このイベントは、船橋市が保有するオープンデータを活用し、地域課題の解決に向けたアイデアを創出することを目的としている。

主催は千葉県DX推進協議会。船橋市、Code for Funabashi、アーバンデータチャレンジ2024実行委員会が共催し、NTT東日本やジェイコム千葉などが協力した。

本イベントでは、「観光」「環境」「防災」、そして市民公募による「若者と街づくり団体の繋がりづくり」の4つを船橋市が抱える課題として設定。

船橋情報ビジネス専門学校の学生をはじめとした一般の参加者達は、希望する課題ごとに班に分かれて活発な議論を行った。

各課題の概要

  • Civic Tech Zen Chiba/CCO 土屋俊博氏

冒頭で、Civic Tech Zen Chiba/CCO 土屋俊博氏は「船橋市には多くの観光資源がありますが、観光客を効果的に取り込む仕組みはまだ十分とは言えません」、「街の美化や環境保護に影響を与えるごみのポイ捨てを減らすには、単にごみ箱を増やすだけではなく、住民の意識を変える仕組みが必要です」、「地震や台風が頻発している中で、防災の重要性を一人ひとりが意識して行動する文化を根付かせるための方法を考える必要があります」と述べ、課題選定の背景や期待するアイデアについて説明した。

  • 適度な緊張感が流れる良い雰囲気

加えて、「大人が考える街づくりが本当に若者に響いているのか」という疑問について触れ、「若者が自分の意見を自由に表明して、新しいアイデアが尊重される社会を作りたい」「若者が街づくりに参加してもらう仕組みづくりが、船橋市の未来を元気にする鍵と考えています」と述べ、「若者と街づくり団体のつながりづくり」を課題に据えた経緯を明かした。

生成AIを活用する参加者も

各グループで議論が始まる。参加者はオープンデータを参照しながら意見を交わし、アイデアを付箋に書き出していく。

中には、生成AI「ChatGPT」を使用して議論に新しい視点を加えようとする参加者の姿も。また、NTT東日本グループの社員が各グループにファシリテーターとして加わり、円滑な議論が展開されるようにサポートした。

  • 活発な議論が行われる

その後、各グループから出たアイデアが順番に発表された。

「観光名所の近辺にQRコードが読み込める場所を設置して、読み込むことによってその近所にあるお店のクーポンをもらえるようにする。さらには、国籍や趣味などを事前に登録してからQRコードを読みとれるようにすれば、『この国の人はよくここに行く』という情報をオープンデータとして集計できる」、「ゴミを拾うための工具の貸し出しをしつつ、拾ったゴミを回収するためのドローンを飛ばせるように整備すると面白そう」、「オープンデータを見た際に『ゲームなら若い世代に楽しんでもらえるかな』と思い、防災訓練のような脱出ゲームを実施して、ゲーム感覚で防災意識を身に付けられるのでは」といった多角的で創造的な意見が次々と飛び出した。

  • アイデアがどんどん出てくる

笑いが起きるアイデアも

秀逸なアイデアに驚きを見せる参加者が多い中、ユニークなアイデアによって場内が笑顔で溢れる一幕も。

  • 堂々と発表する参加者達

環境改善のためにたばこのポイ捨て削減に目をつけたグループからは「フィルターまで吸えないから吸い殻が出てしまう。たばこを最後まで吸えるようにすれば吸い殻は出ないと思います」と提案。

同様に環境改善について議論していた別のグループからは、「GPS搭載のロボット掃除機を街中で稼働させる。盗難防止のために、電気でショックを与える機能を持たせると良いかもしれない」といった発表もあった。

各グループの発表が終わった後、土屋氏は発表内容のみならず、各グループで白熱した議論が展開されたことも絶賛。

そして、「せっかくなので、今回出たアイデアを1つ形にして発表する機会を作っていければと思っています」と今後の展望を語った。

オープンデータとディスカッションを組み合わせることにより、自由な発想が次々と生まれる質の高い内容となった「船橋市オープンデータアイデアソン」。

参加した若者たちは委縮することなく、伸び伸びと意見を述べる姿がとても印象的で、まさに「若者と街づくり団体のつながりづくり」を実現したイベントとなった。

参加者からの評判は上々

次に「船橋市オープンデータアイデアソン」の開催における中心人物に話を聞く。

まず、船橋市 総務部 デジタル行政推進課 課長の鈴木基修氏に開催の経緯を尋ねると、「船橋市が保有するオープンデータを活用し、市民が地域課題の解決策を共に考える場として企画しました。本市も構成団体である千葉県DX推進協議会市民共創部会から、地域のシビックテック団体であるCode for Funabashiを通じて『イベント開催にあたり共催で取り組んでみないか』と打診を受けて実現に至りました」と説明した。

  • 船橋市 総務部 デジタル行政推進課 課長 鈴木基修氏

イベントを終えた感想について、鈴木氏は「デジタル技術を活用した具体的なアイデアが提案されました」と笑みを見せる。

参加者からは「市が公開するデータを活用することで課題解決の現実的な視点を得られた」「普段は気づかなかった視点で地域課題を考えられた」といった前向きなコメントが多く寄せられ、評判は上々だという。

実際に「船橋市オープンデータアイデアソン」の実施を受け、今後も何かしらの取り組みは検討しているのか。

鈴木氏は「今回生まれたアイデアを基にしたアプリ構築を一部の参加者が進めています。その成果を『アーバンデータチャレンジ』などのコンテストに応募できたらと考えています」と答えた。

今後に向けた期待

NTT東日本をファシリテーターとして選んだ理由について鈴木氏は、「これまでNTT東日本さんとは防災分野をはじめ、さまざまな分野で長年協力関係を築いてきました。加えて、2023年9月1日には『DX推進に関する事業連携協定』を締結しています。こうした背景から、『船橋市オープンデータアイデアソン』でも協力をお願いしました」と説明した。

さらに、同イベントでのファシリテーターとしての役割について、「参加者の議論を活性化させるように促してもらい、そのおかげで参加者全員が意見を出すようになり、議論の質を一層深めてくれたと感じています」と感謝の意を示す。

続けて、「先述した通り、現在アプリの構築が進行中です。フォローが必要になった際には、具体的な技術支援や専門的なアドバイスを通じ、アイデアの実現可能性を高めていければと思っています。オープンデータアイデアソンに限らず、行政の効率化や地域課題の解決といった多岐にわたる分野において、共創しながら新たな価値を生み出していければ嬉しいです」と今後のNTT東日本への期待を語った。

参画の経緯は

次にNTT-ME 千葉ブロック統括本部 千葉エリア統括部 エリアプロデュース担当課長を務める小松毅史氏と、当日ファシリテーターとしても参加した同統括部のサービスセンタ(京葉G)所属の弓長建太氏に話をうかがう。

  • NTT-ME 千葉ブロック統括本部 千葉エリア統括部 エリアプロデュース担当課長 小松毅史氏

まず「船橋市オープンデータアイデアソン」開催に携わった経緯として、小松氏は「2022年からDXによる課題解決力を向上させるため、船橋情報ビジネス専門学校とDX教育で協業しているのですが、先生方とは『いつか地元の課題を取り上げたい』ということをよく話していました。そのような中で、船橋市デジタル行政推進課の方から本イベントを紹介してもらい、私たちが掲げるDX教育の目的と合致する点も多いことから、今回参加することになりました」と振り返る。

ファシリテーターとしては何点?

弓長氏はファシリテーターとして参加した際、「グループに交じって解決策を作り上げていく過程を経験したり、自分では考えつかないような解決策を聞いたりなど、自分自身も多くの学びを得られました」と話す。

ファシリテーターとして心がけたことについては「議論が円滑に進むような意見の出し方やアイデアのグループ分けを意識して臨み、加えて参加者たちが自由な発想をたくさん出せるような雰囲気づくりにも注力しました」と振り返る。

  • NTT-ME 千葉ブロック統括本部 千葉エリア統括部 サービスセンタ(京葉G) 弓長建太氏

自分自身のファシリテーターとしての"活躍"を10点満点で評価してもらうと「8点です」と採点。

「ファシリテーターは議論整理や活発化が求められます。多角的な意見を出し、誰も思いつかないような解決策を作り上げることを目標にしていたので、『みんなが意見をしやすい環境作りや発散した議論の整理はできた』と思っています。その一方で、たくさんの意見が出たために終盤では時間が不足してしまいました。今後このような機会があれば、タイムマネジメントも十分配慮したいです」と自己評価と今後の改善点を語った。

最後に小松氏に今後の展望を聞くと、「今回のイベントのような、船橋市の市民や学生発のボトムアップ型のDX・データ活用のアイデアが生まれ、発信されていく現場に地元企業として主体的に関り続けていきたい。将来的にはイベントで生まれたアイデアをサービスとして実現して市民へ提供する、そんな"実行役"としての役割を担いたいです」と語気を強めた。