カンテレでは、『ザ・ドキュメント 30年目の難問~震災を知らない学生たちへ~』を31日(25:25~)に放送。阪神・淡路大震災をテーマにドキュメンタリーを制作する関西大学の学生たちを通じて、発生から30年が経過した今、震災を伝え続ける意味とは何なのかを考える。
1995年1月17日、6,434人の命を奪い、住宅街を焼き尽くし、高速道路をなぎ倒した阪神・淡路大震災は、日本中に衝撃をもたらした。それから30年、街は復興し、震災直後の光景を知らない人が多く存在する。神戸市では今、人口のおよそ半分が震災を経験していないという。
番組では、関西大学の齊藤ゼミで映像制作を学ぶ“阪神・淡路大震災を知らない世代”である学生たちを約1年半かけて密着取材。震災発生後に誕生した彼らに与えられた卒業課題は「阪神・淡路大震災」だった。震災をテーマに取材を展開し、ドキュメンタリーを作るよう求められたものの、自分たちが生まれる前に起きた震災を“自分事”として捉えることは容易ではなかった。19人のゼミ生のうち、18人は「震災を学ぶのは初めて」だという。
そんなゼミ生でただ1人「小中高と震災についての教育を受けてきた」という石田瞳さん((関西大学4年)は、震災に関心がなかった同級生とともに、自身のボランティア活動を取材する。阪神・淡路大震災を継承するボランティア活動に大学1年のときから参加していた石田さん。しかし、ボランティア団体のメンバーが欠けていき、頼れる人がいなくなる中で遺族と向き合うことの難しさに直面する。
一方、「震災を知らない世代」として阪神・淡路大震災の取材に取り組んでいる間に、自らも被災した学生もいる。新谷和さん(関西大学4年)は、2024年1月1日に発生した能登半島地震を石川県の実家で経験し、取材することになる。
阪神・淡路大震災の後に生まれた学生たちが「震災を知らない世代」として遺族に取材し、震災を伝えるという難問に取り組む中で当時の状況を知っていく。その過程で彼らが何を考えたのかを追うことで“震災を伝えるづける意味とは何か?”を改めて問う。
番組の語りを担当した俳優の小須田康人は「関西大学のゼミ生の19人のうち18人が“震災のことを学ぶのは初めて”というのが本当に驚きでした」といい、視聴者に「大きな災害が起きた時に次の世代に伝え続けなければいけない理由は何かを問うた番組です。本当に自分も考えさせられました。もちろんこういう番組に興味を持ってご覧になる方は、すでにお考えになっているとは思うのですけども、時間を作って改めて考えていただけたらうれしいです」と呼びかけている。
また、今回取材を担当した入道楓ディレクターは、26歳で自身も“阪神・淡路大震災を知らない世代”。『newsランナー』(毎週月~金曜16:45~)でディレクターを務めたニュース特集企画『全盲の娘に描く絵』がアジア・太平洋地域の16の国と地域の映像コンテンツの中から優れた作品を表彰する「アジアン・アカデミー・クリエイティブ・アワード(AAA)2024」ショートフォーム部門(Non Scripted)で最優秀賞を受賞しているが、ドキュメンタリー番組の制作は、今回が初。
入道ディレクターは約1年半の取材を通して「(学生たちが)今後社会人になっていく上で誰か大切な人を亡くした人に出会った時に寄り添うことができたり、震災が起きた時には何をすべきでどう備えるべきか、震災を伝えていかなければと思えるような人たちに育ったのではないかと思いました」と振り返り「彼らにとって震災が大学時代に少し学んだことで終わるのではなく、学びを通じてどういう大人になっていくのかを、少しでもこの番組を通して感じてもらえたらうれしいです」と語っている。
コメントは、以下の通り。
■小須田康人
――番組をご覧になっていかがでしたか。
関西大学のゼミ生の19人のうち18人が「震災のことを学ぶのははじめて」というのが本当に驚きでした。でも最近の若い人はテレビを見ないと聞きますし、SNSの情報は自分が見たいものしか出てこないことが多いですから、そういうこともあるんだなと。番組の取材を1年半されたと伺いましたが、若い彼らが大学の授業で単位を取るために「やらなきゃいけない」と始めたところから変わってきているのが、1時間の番組の中でも感じられました。一生懸命真剣に取り組んでる様子はあったし、みんな偉い。すごく優秀な人たちですよね。「何も頑張ってない、何も知らない」と言ってるけど「若い人も頑張ってるな」と思いました。
――震災を知らない学生たちは、震災にずっと向き合わざるを得ない遺族から「震災を伝える意味」を突きつけられます。小須田さんはこの“難問”についてどう思われますか。
その答えはいっぱいあるだろうし全部正解だと思います。今回の映像を見て、伝え続けていくことは自分自身が生き残るために必要なんだ、というのが今の思いです。みんながみんな生き残るために何か必要なことをして将来に備えようとすれば、悲しむ人がずっと減る。それは社会にとってとても大きなことだと思うんです。
――震災はある意味“避けようがない”ものだと思いますが、それでも伝える意味についてどう思われますか?
伝える意味はあると思います。知識がなければ避けようがない、あるいは被害を減らしようがないわけですから。災害が過去になっていくことによって、いざ災害が起きたとき、逃げて命を守ることが1番大事なはずなのに、普段していることのほうを優先してしまう。東日本大震災が起きて大津波警報が出たとき、お店を経営している人が避難せずに散乱した商品の片づけをし続けたとか、自動車で逃げようとして渋滞に巻き込まれたとか、一度高台に避難したのに何かものを取りに家に戻ったとか、地震のあとの検証番組でそういう証言がたくさんありましたよね。東日本大震災の被害があまりに大きかったので、海の近くで地震に遭ったらすぐに高いところに逃げる、という意識は今は多くの人が持っているだろうと思います。でも災害は少しずつ過去のものになっていくし、災害のあとに生まれた「知らない世代」の人たちも少しずつ増えていきます。“避けようがない”震災だからこそ伝えていかなければならないのではないでしょうか。
――最後に視聴者の皆さんへのメッセージをお願いします。
大きな災害が起きた時に次の世代に伝え続けなければいけない理由は何かを問うた番組です。本当に自分も考えさせられました。もちろんこういう番組に興味を持ってご覧になる方は、すでにお考えになっているとは思うのですけども、時間を作って改めて考えていただけたらうれしいです。
■入道楓ディレクター
私は26歳で、関西大学の学生たちと同じ「阪神・淡路震災を知らない世代」です。彼らが震災に興味がなかったり、知らなかったりするのは、当たり前のことだと思います。私自身も報道記者の仕事をしていなければ、震災のことは親や祖父母から話を聞いただけで終わっていたと思います。だから、自分も学生たちも取材に行って、普段は出会わないような人と出会って映像だけでは伝わらない当時のことを聞けたことは、すごく大きな影響があったと思います。学生たちも、難しさはあったと思いますが、課題に取り組んだ期間を通じて、今後社会人になっていく上で誰か大切な人を亡くした人に出会った時に寄り添うことができたり、震災が起きた時には何をすべきでどう備えるべきか、震災を伝えていかなければと思えるような人たちに育ったのではないかと思いました。彼らにとって震災が大学時代に少し学んだことで終わるのではなく、学びを通じてどういう大人になっていくのかを、少しでもこの番組を通して感じてもらえたらうれしいです。
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