日常の移動手段として長らく日本で親しまれ、運送業などビジネスの世界でも活躍してきた「原付バイク」(原付1種)が、排ガス規制により生産終了となる。今後、この分野では「電気の原付」が普及するかも? 新たなコンセプトモデルを日本で公開したベクトリクス・ジャパンを取材した。
電動スクーターの選択肢が少ない日本
ベクトリクス・ジャパン(VECTRIX JAPAN)は「バイクでもない、クルマでもない」新たなカテゴリーの「超小型商用BEV」の普及を目指す企業だ。つまり、小さくて電気で動く乗り物を日本市場に投入することを目指している。現在は電動3輪カーゴスクーター「I-Cargo」の発売に向け、最終的な詰めの作業を進めている段階。今回は「オートモーティブワールド2025」にて、「I-Cargo」の次のラインアップ候補である小型商用電動スクーター「VC-1」のコンセプトモデルを公開した。
原付1種(50cc以下)の廃止が決まったことにより、原付2種(125cc以下)を含む新たな小型2輪の代替え需要の高まりが見込まれる中、ベクトリクス・ジャパンはI-Cargoで集積したEVのノウハウをいかせる電動スクーターの分野に着目した。同社代表取締役社長の山岸史明さんによると、電気のスクーターといえば日本ではホンダとヤマハ発動機くらいしか選択肢がないというのが現状。選択肢が少ないと価格競争も起こりづらい。この分野に「第3のブランドとして」進出できれば、というのが山岸さんの考えだ。
山岸さんは昨年、二輪の国際的な展示会「EICMA」(ミラノショー)に参加し、電気で動く小さなバイク(125cc換算くらいの車両)が豊富にそろっていることに驚いたという。日本では数えるほどしかない電動バイクだが、世界では名前も知らないメーカーも含め数多くの事業者が参入し、「うなるほどの」(山岸さん)モデル数が出そろっているそうだ。日本でも今後、同分野が伸びていくかもしれない。
配送業務に需要あり?
VC-1はI-Cargoよりもライトな車両であるため、企業としても導入しやすいはずというのが山岸さんの見立て。I-Cargoではオーバースペックな分野、例えば軽い荷物や少ない荷物を運ぶ事業者(フードデリバリーや新聞配達など)にニーズがあるのではという考えだ。こうした分野ではホンダの電動ビジネススクーター「BENLY e:」と競合しそうだが、ホンダは「巨人」なので「同じ土俵」で戦おうとは思っていないと山岸さん。ただ、ホンダの車両導入に何かしらの課題を持っているユーザーを取り込むことができれば「共存といいますか、正当な競争になるのでは」と考えているそうだ。
荷物用のカゴを外せば一般ユーザーが日常の足として使えそうなVC-1なのだが、一般向けの販売を行うには「どれだけアフターサポート体制が充実させられるか」が最も重要なポイントだと山岸さんは話す。価格を押さえてEC販売を行えばそれなりに売れるかもしれないが、それだとどこでVC-1が使われるかがコントロールできない。何か不具合が発生したときに部品を供給したりメンテナンスを行ったりするのが大変だ。ベクトリクスとしては数を売るというよりも、アフターサポート体制をしっかり整えて1台1台売っていきたいという方針だそうだ。