“ながら聴き”生活の必需品、ワイヤレスイヤホン

この2年あまり、さまざまなメーカーの製品をいちばん試用する機会があったもの。それはワイヤレスイヤホンだ。ラジオ、ポッドキャスト、YouTubeを視聴しながら仕事や家事をする“ながらライター&編集者”である筆者にとって、ワイヤレスイヤホンはスマートフォン同様に、使っている時間の長さを考えればスマートフォン以上の必需品。そして、いちばん使いやすいのはやっぱり“耳の穴をふさがない=周囲の音が違和感なくダイレクトに聞こえる”オープンイヤー型だ。

  • 骨伝導ワイヤレスイヤホン「Shokz OPENRUN PRO 2(ショックス オープンランプロ ツー)」

一方で、耳栓のように耳の穴に差し込む、耳の穴を完全にふさぐインイヤー型は、地下鉄など電車での移動中は本当にありがたい。最近のモデルはノイズキャンセリング(ノイキャン)機能が素晴らしいので、周囲の雑音をほぼ完璧に消してくれる。地下鉄に乗っているとき耳に入ってくる「ゴーッ」という走行音もきれいさっぱり見事に消音して、音楽やオーディオブックやポッドキャストといったコンテンツの音に没入できる。どこに居るのか忘れてしまうくらい見事に消してくれるので、乗換駅を忘れて乗り越してしまったりするくらいだ。

最近は飛行機でも、座席のエンタテイメントシステムにBluetooth接続機能が付いて、日常で使っているノイキャン機能付きのインイヤー型ワイヤレスイヤホンを接続できるようになった。これは本当にありがたい。筆者の乗るエコノミークラスに備え付けのヘッドホンや搭乗時に配られる使い捨てのイヤホンは正直、使えたものじゃない。

でも、自分のノイキャン機能付き、インイヤー型のワイヤレスイヤホンなら大丈夫。コードがないから自由に動けるし、音も良く装着感も快適。そのうえ、飛行中の機内にずっと響き続けるジェットエンジンの「ゴーッ」という音も消してくれるから、機内で視聴する映画の台詞もハッキリ聞き取れるのはうれしい。

  • チケットが安い海外の航空会社ばかり使うので、日本語吹き替えでない映画も多い。ノイキャン機能付きインイヤー型ワイヤレスイヤホンを使えば、英語の台詞もしっかり聞き取れる

ところで、ノイキャン機能付きのオーディオデバイスといえば、昔は有線ヘッドホンだった。筆者は1990年代後半、毎年スイスの時計フェア取材のためにソニーのノイズキャンセリングヘッドホンを購入した。その後は荷物を減らすために使うのをやめたのだが、国際線の長距離フライトが苦手な人は必ず持っていたものだ。そういえば、今ではビジネスクラスの座席に備え付けのヘッドホンにはノイキャン機能が付いているし、ノイキャン付きの密閉型ヘッドホンを機内に持ち込む人も相変わらず多い。

ノイキャン機能は素晴らしい、が……

ただ、外歩きにはこのインイヤータイプは周囲の音が聞き取りにくく、身の回りの状況がわかりにくくて「危険」なので、使わないようにしている。もちろんノイキャン機能をキャンセルして、イヤホンの外側に付いているマイクが拾う周囲の音も聞こえるモードにできるから、外の音がまったく聞こえないわけではない。でもあくまで電子回路を経由した音なので、音のする方向がわからないし、直接音のような空気感もない。メーカーのエンジニアはいろいろ努力してくれているけれど、たぶん原理的に限界がある。音のする方向が明確でないのは、街歩きでは本当に怖い。

だから外出するときはいつも、耳の穴にすっぽりハマるインイヤー型と、耳の穴をふさがないオープンイヤー型の2種類を持ち歩いて、電車の中はインイヤー型、外を歩くときはオープンイヤー型と使い分けている。そして家で仕事をしているときは、オープンイヤー型をメインで使っている。

コンテンツとしては、音楽やラジオやポッドキャストなどが多い。小さな音で再生していれば他人との会話も自然に普通にできるし、宅配便配達のインターホンの音を聞き逃すこともない。装着感も軽いから、コンテンツを聴かないときにそのまま装着し続けても違和感がないので、着けたままで居ることが多くなっている。

オープンイヤー型もいろいろ

ところで、“耳の穴をふさがない”オープンイヤー型といっても、非骨伝導タイプと骨伝導タイプのふたつがある。その違いは、音の聴覚神経(耳の中の蝸牛と呼ばれる部分)にどのように音が届くかだ。

非骨伝導タイプは、ヘッドフォンやインイヤー型のイヤホンと「聴覚神経への音の届け方」は変わらない。ドライバー(=スピーカー)ユニットで空気を震わせ、その振動で鼓膜を震わせることで、音を伝えている。そしておもに2種類のデザインがある。

ひとつは、耳の穴はふさがないが、耳のくぼみに本体をセットするタイプ。普通なら耳の穴の中に差し込む部分が、差し込むのではなく耳の穴の上にセットされる。その部分の真ん中に穴が空いていて、周囲の音がこの穴を通って直接鼓膜に届くようになっている。

もうひとつは、耳の外側に掛けるタイプ。着けると耳の穴の近くに音を出すドライバーが来るが、耳の穴は半分以上も開放された状態だ。だから圧迫感はほぼゼロ。耳の穴の真上で超小型のスピーカーが鳴っている、という感じ。

一方で骨伝導タイプは、骨を通じて音の振動を聴覚神経に伝える。途中に空気が関与しないので、周囲の音は普通に鼓膜を通して、イヤホンの音は骨を通じて聴覚神経にそれぞれ伝わる。だからイヤホンの音は外部の音の干渉を受けない。再生音がクリアに聞こえる。

  • Shokzの骨伝導イヤホンは、左右がつながっていて、首の後ろを回して両耳にかける。耳の前側にあるのが、音を振動に変えるドライバー。耳の後ろにあるのがバッテリーや回路部分

骨伝導タイプは、音を振動に変えるドライバーを耳の横に密着させるタイプが一般的だが、一部の非骨伝導タイプのように、外耳の一部をはさむタイプもある。

なおオープンイヤー型の場合、非骨伝導、骨伝導のどちらのタイプも、ノイズキャンセリング機能は搭載されていない。ノイズキャンセルは電子回路で行うものだからこれは当然だ。ただ、周囲への音漏れを減らすために、逆位相の音を耳の外側で再生する“音漏れキャンセル”機能を搭載したモデルもある。

音が自然な非骨伝導タイプ、騒音に強い骨伝導タイプ

非骨伝導タイプ、骨伝導タイプでは、何がどう違うのか?
オープンイヤー型を購入するなら、どう考えて選べばいいのか?
もし使い分けるとしたら、どう使い分けるのがオススメなのか?

いつも愛用しているのがオープンイヤー型だということもあり、筆者はこの半年だけでも5~6種類くらい、これまで10数種類の非骨伝導タイプ、骨伝導タイプのワイヤレスイヤホンをテストしてきた。今回は自分のチョイス、使い分けをお伝えする。

まず、日々普通に使うなら、非骨伝導タイプがオススメだ。理由はとにかく、骨伝導タイプより「音がナチュラル」だから。特に耳掛け式の非骨伝導タイプは“耳の穴の近くでスピーカーが鳴っている”ようなものだから、とにかくクセがなくて聞きやすい。それに、ほぼすべてのモデルが「完全ワイヤレス」つまり、左右のユニットそれぞれが独立しているので、着け心地が軽快なのも、非骨伝導タイプの優れているところ。

ただしノイズキャンセリング機能はないので、周囲が騒がしいと、聞きたい音が雑音にかき消されてしまう。これはオープンイヤー型の宿命でもある。こんなときに威力を発揮するのが骨伝導タイプだ。

骨伝導タイプは空気を介さず音を機械的な振動として、皮膚と側頭骨を通して聴覚神経に伝えてくれるので、周囲が騒がしい環境のときは、再生している音に周囲の音が混ざらないので、非骨伝導タイプよりも音がクリアに聞こえる。これはそんな騒がしい場所で実際に聞いて比較してみないとわからないかも。

さらに、左右のユニットが独立していない骨伝導タイプの魅力が「確実な装着感」。ウォーキングやジョギング、ランニングなどスポーツ中でも安心して着けていられる。そして「着けていることが意外に目立たない」ことも、このタイプのもうひとつの魅力。横や後ろから見ればすぐに着けていることはわかるのだが、真正面からだと着けていると気づかれないことが多い。

ひとつ、骨伝導タイプの気になる点として指摘しておきたいのは、非骨伝導タイプと比較すして“音質にちょっと癖がある”ところ。メーカーやモデルによってけっこう違うのだが、再生音の伝わり方が違う分、同じ音源を再生しても、非骨伝導タイプとは音の印象が違う。あくまで筆者個人の感想だと、具体的には「低音のレベルが低い」感じがする。ただしこれは音楽を聴いているときだけ、ちょっと気になることなのだけれど。

選んだのは、Shokz(ショックス)の「OPENRUN PRO 2」

最後に、“ながら聴き”が日常の筆者が現時点でたどり着いた、いまのところ自分にとっての最適解、日々いちばん愛用しているモデルは何か。それは骨伝導タイプでいま、いちばんメジャーなShohz(ショックス)の「OPENRUN PRO 2(オープンラン プロ ツー)」だ。

実は同じShokzの、完全防水で水泳にも使えるモデル「OPENSWIM PRO(オープンスイム プロ)」も使っている。こちらはMP3プレーヤーモード、つまりスマートフォンと接続していなくてもMP3形式の音楽や音声データを聴ける機能も備えている。だからこちらも愛用してきた。残念なのは低音がいまひとつ物足りないことで、イコライザーで補正したいところだが、音源に合わせて2種類のモードが選べるだけだ。

  • Shokzの完全防水型骨伝導イヤホン、OPENSWIM PRO(オーブンスイム プロ)

  • 防水性を確保するため、充電用の端子は専用設計でむき出しタイプ

  • 耳栓が付属していて、水泳後も持ち歩くことを考えて付属のケースもウエットスーツのような素材。水抜きのための穴が開けてある

一方で最新の「OPENRUN PRO 2」は、再生している音を振動に変えるドライバー部分が改良されている。中音域と高音域を再生する骨伝導スピーカーと、低音域を再生する空気伝導スピーカーの両方が搭載されているので、課題だった低音域が充実している。モード選択も5種類になった。

また、OPENSWIM PROでは防水性確保のためだろうか、USB充電は付属の専用コードを使うタイプだったが、OPENRUN PRO 2は一般的なUSB-Cタイプのコネクターを差し込んで充電できるようになっている。わざわざ専用コードを持ち歩かなくても、ノートPC充電用と同じコードで充電できるから便利だ。

  • 毎日愛用している「OPENRUN PRO 2(オーブンラン プロ ツー)」

  • メッシュの部分が、骨伝導スピーカーに加えて、OPENRUN PRO 2から低音再生用として新たに搭載された空気伝導スピーカー。低音はここから耳の鼓膜に届けられる仕組み

  • ケースは大きめの楕円型で、コードを収納するスペースもある

超ソフトシリコン素材とニッケル−チタン形状記憶合金を使った本体の装着感も、慣れると快適。完全ワイヤレスタイプのように、片方のユニットだけ落としてなくしてしまう心配もない。いつも着けたままで使うなら、これほど快適なイヤホンはないと思っている。気になってはいたけれど、まだ骨伝導タイプを使ったことがない――という方々は、このOPENRUN PRO 2を家電量販店などで試着してみてはどうだろう。

なお、通販サイトで購入する場合は「本当に骨伝導タイプなのか?」「音質は大丈夫なのか?」をしっかりチェックしたい。筆者も引っかかったことがあるが、無名ブランドの製品の中にはお粗末なものが多いからだ。今回ご紹介しているShokzなら安心だ。

■Shokz OPENRUN PRO 2

2万7,880円(税込)
メーカー直販サイト価格(2025年1月時点)

オープンイヤー型イヤホンのトップブランド「Shokz(ショックス)」の、骨伝導タイプの最高峰モデル。マラソンの大迫傑選手とエリウド・キプチョゲ選手がアンバサダーを務める。クリアな高音域とふくよかで自然な中音域の再生を実現する極薄のオールメタル製骨伝導ドライバーに加えて、豊かな低音域の再生を実現するドーム型の空気伝導ドライバーという2つのドライバーを搭載。

IP55クラスの防塵・防水性能を備えているので、雨の中のランニングにも対応できる。1時間のフル充電で約12時間の使用、10分間の充電でも約2.5時間の使用が可能。対応プロファイルは2DP、AVRCP。HFP。サイズは標準サイズとミニサイズの2種類で、標準モデルの本体重量は30.3グラム。モデルバリエーションは大迫モデル、キプチョゲモデル、ブラックモデル、オレンジモデルの4種類で、大迫モデルとキプチョゲモデルは標準サイズのみ。

  • 2016年のリオデジャネイロオリンピック、2020年の東京オリンピック(開催は2021年)のマラソンで金メダルを獲得した“マラソン界の絶対王者”エリウド・キプチョゲとのコラボモデル