演じる礒田湖龍斎についてはオファーを受けるまで知らなかったそうで、描いた絵などを見てどんな人なのかイメージを膨らませていったという。
「女性の方の浮世絵を描いていて、初期の方なので、誰かが描いた絵を真似したということではなく、本当にオリジナルでこの方が描いたんだろうなと思います。湖龍斎さんが描いた女性の絵を、当時の女性はファッション誌のように見ていたらしくて、本当にこの人が最先端だったのかなって。妖艶な目の雰囲気とかがすごくうまい人だなと思いました」
普段はボールペンやマジックペンで絵を描いている鉄拳。筆で描くのは今回が初めてで、細く描かなければいけないという浮世絵ならではの描き方に苦労したという。
最初に描いた絵と、練習して細く描けるようになった絵を見せながら、「うまく描けているかなと思って自分で練習していたんですけど、浮世絵師の先生と一緒に練習した時に、自分の下手くそさにびっくりして、急いで家に帰って細く書く練習をしました。練習して徐々に細くしていって、最終的にこれぐらい細く書けるようになりました」と成長を語る。
自宅で約1カ月、1日4時間程度、浮世絵を猛特訓。劇中に登場する完成した作品は浮世絵師が手掛けたものだが、描いているシーンは、手元の寄りも含めてすべて鉄拳が演じている。
「僕は演技も下手くそだし、滑舌も悪いので。絵が描ける人ということで指名がかかったと思うので、絵が描けなかったら呼ばれた意味がないと思い、必死で練習しました」
出演が発表された際にも「演技は自信がない」とコメントしていた鉄拳。今回の撮影でやはり苦手だと感じたそうで、「セリフが短かったので助かりました。セリフが長かったらパニックで言えなかったでしょうね」と吐露するも、また俳優として出演したいという思いはあるようで、「一言だけだったら何でも受けます(笑)」と乗り気だった。
撮影では、とにかく湖龍斎として絵をしっかり描くことに全力を注いだ。
「演じることは考えてなかったです。僕に与えられた仕事は、うまく浮世絵を描くことだと思ったので、演技は見てもらわなくてもいいと。僕の使命は浮世絵を描くことだとずっと思っていました」
これまでの活動において最も忙しかったのは、2013年度前期の連続テレビ小説『あまちゃん』で劇中アニメを手掛けていた頃。「1日20時間ぐらいパラパラ漫画を描いていて、寝ている時間がないぐらいやっていました」と振り返り、今パラパラ漫画を描いている時間は「8時間に抑えている。集中できるのが5~6時間なので」と説明した。
ピーク時に1日20時間描いていた経験は、今回の『べらぼう』にも生きていると鉄拳は語る。
「集中力や忍耐力はついたと思います。浮世絵を細かく描くのは、1時間ぐらい練習したらすごく疲れるんですよ。それでも集中して描いていられたのは、ずっとパラパラ漫画を長い時間描いているからだなと思いました」