第103回全国高校サッカー選手権大会・決勝が13日に行われ、前橋育英(群馬)が流通経済大柏(千葉)をPK戦の末に下した。同試合で前橋育英の同点ゴールを奪い、PK戦では“勝てば優勝”という状況下で迎えた10番目のキッカーとして見事にゴールネットを揺らしたMF柴野快仁は「緊張もしましたけど、6万人近く入っているスタジアムでサッカーができていることにワクワクもしました」と、大舞台を終えての素直な思いを口にした。
歴代最多5万8347人が『国立競技場』に詰め掛けた“名門対決”において、先手を取ったのは流通経済大柏だった。序盤の12分、前橋育英のDF竹ノ谷優駕からの斜めのパスが柴野に入ったところを奪われると、ここから流通経済大柏が一気にショートカウンターへ。カターレ富山加入が内定している技巧派ドリブラーのMF亀田歩夢にドリブル突破からゴールを許した。
「もう1つ奥を狙ったパスかなと思っていて、準備が不足していました」。こう振り返った柴野は、「自分のところで取られて失点に絡んでしまい、責任も感じていました」と明かす。このゴールで前橋育英はやや劣勢に立たされたが、そんな状況を打破したのが柴野だった。
31分、敵陣右サイド深い位置でゴールから背を向けた状態ながら、MF黒沢佑晟は巧みなターンで相手をかわし、マイナスの方向へクロスボールを送る。待っていた柴野がヘッドでゴールネットを揺らした。
「黒沢佑晟はドリブルがうまくて、テクニックがある選手です。彼を信じて中に入ったときに、佐藤耕太がニアでCBを2枚引きつけてくれたので、このプレーで空いたスペースをうまく利用する意識で入りました。良いボールが来て、しっかりと決め切ることができてよかったです」
本人曰く「あまりヘディングは得意ではない」が、大舞台できっちり決めるあたり、勝負強さを備えている。その勝負強さは、1-1のまま突入したPK戦でも発揮される。両チーム9人目までのキッカーを終えて9-9とまったく五分の状況のなか、先攻・流通経済大柏の10人目キッカーを務めたFW安藤晃希のキックを、GK藤原優希が完全にコースを読み切ってセーブ。決めれば優勝という状況で、自身の順番が回ってきた。
もっとも、本音は「久しぶりのフル出場で、足も限界でしたし、10番目なので(自分の順番は)回ってこないと思っていた」のだという。大きなプレッシャーのかかる場面だが、ペナルティスポットに向かう前には、守護神の藤原から「もう終わらせてくれ」と声をかけられた。この一言で「少し笑顔になれた」という柴野は、GKの逆を突く一撃でゴールネットを揺らした。
「自分は10番目で、普通はあまり回ってこない。後攻で、相手が外して、自分が決めたら勝ちという状況でキッカーが回ってきて、『今日は持ってるな』と思いました。緊張もしましたが、平常心で蹴ることができたかなと思います」
自身のゴールとPK成功で、前橋育英を7年ぶり2度目の全国制覇へ導いた柴野。だが、ここまでの今大会は不完全燃焼だった。昨年12月29日に行われた1回戦の米子北(鳥取)戦ではスターティングメンバーに名を連ねていたが、以降は体調不良に見舞われ、2試合連続でメンバー外となり、4日の準々決勝・堀越(東京A)戦でようやくメンバーに復帰。同試合では出番がなかったが、11日の準決勝・東福岡(福岡)戦でハーフタイム明けから出場を果たすと、決勝の舞台では1回戦以来となるスターティングメンバーに復帰した。
そんな柴野が口にしたのは、共に切磋琢磨を続けてきたチームメイトへの感謝。「チームがここまで勝ってくれたから、チームのみんながいたからこそ、このようなピッチに立つことができました」と語ると、「何かしらの形でチームの役に立ちたいと思っていたので、結果的に助けられたなら良かったです」と笑顔をのぞかせた。
【ハイライト動画】前橋育英が選手権の頂点に立つ!