「ただいまー」と呼びかけながら廊下を進むと、「おかえりー」と奥から顔を覗かせる母。これから家族に起きる“ある出来事”を回避するために与えられた「印鑑と通帳のある場所を探せ」というミッション――疑似家族との団らんを通じて謎解きをする、渋谷の一軒家を舞台にしたイマーシブ体験イベント『ただいまタイムループ』が、11月13日から17日までの期間限定で開催されます。前日に行われたメディア向け発表会で、気になる介護×イマーシブ体験の様子を覗いてきました。

  • 渋谷の一軒家を舞台にしたイマーシブ体験イベント『ただいまタイムループ』が開催される

渋谷の一軒家を借り切って開催する、介護×イマーシブ体験

実はこのイベント、経済産業省が2023年3月に発足した介護プロジェクト「OPEN CARE PROJECT」の一環で開催されるもの。久しぶりに帰省した実家という設定の一軒家で、父、母、姉の3人に迎えられ、ヒントを手がかりに、疑似家族と対話しながら謎解きする。そんな没入体験を通して、介護を自分ごととしてとらえ、家庭と介護について会話するきっかけを提供すべく企画されました。

  • 実家感あふれる和室で、体験者は疑似家族と団らんする

  • 子供部屋で謎の女性にミッションとヒントを与えられる

母は少しずつ物忘れが始まっている様子。実は遠くない将来に認知症を発症し、その介護にあたって家族は、母が管理していたお金を引き出せないという問題に直面しするそう。そんな悲しい未来を変えるため、体験者は母だけが把握している口座の暗証番号と、印鑑と通帳の保管場所を疑似家族との対話を通じて探し出す……というのがミッション。なのですが、お金のことは家族間でもデリケートな話題だけに、体験者は会話の流れで気まず~い雰囲気になったり、ミスリードにひっかかったり、さらに“タイムリープ”もしながら、手がかりを少しずつ得て答えを導き出します。

  • しっかり者の“疑似お姉ちゃん”、隠し場所に心当たりは……?

  • 体験者はミッションカードのヒントに従い会話を進めていく

  • 「介護のことを一緒に考えよう」と、疑似家族に無事伝えることができた

超⾼齢社会では、「育児」以上に「介護」に直面する

経産省がこのイベントを企画した背景にあるのが、歴史上類を⾒ない“超⾼齢社会”。来る2025年、第一次ベビーブーム(1947年から1949年)に生まれた団塊の世代・約800万人が、後期高齢者になります。さらに共働き世帯や生涯シングル世帯が増加している社会トレンドをふまえると、家族の介護は決して他人事ではありません。実際、家族の介護のために仕事を辞める、いわゆる“介護離職者”の数は、毎年約10万人。家族介護者の数がピークを迎える2030年には、家族介護者のうち約4割にあたる約318万人が、仕事と介護の両立が必要となり、それによる経済損失は9兆円を超えるという調査結果もあるそう。

  • 会場の一軒家前でのフォトセッション。脚本を担当した小御門優一郎さん(左から2人目)らが参加した

仕事と介護の両⽴に際しての課題のひとつに、社会の介護リテラシーの低さが挙げられます。たとえばテレビや新聞において「仕事と介護」に関する報道量は、「仕事と育児」に関する報道の約1/3という状況。介護は育児以上に、誰しもの身に起きるであろうライフイベントにも関わらず、実際に介護に自分が直面するまで、その情報に触れる機会があまりないのが実情なのです。

  • イマーシブ体験も佳境に入り、疑似家族みんなで記念撮影するシーンに

また、家族同士で「介護の話をしにくい」という課題もあります。必要な情報が共有されていなかったり、将来の介護をどうするかについての話し合いがないまま、準備不⾜の状態で介護が始まってしまう。そうした“話しづらい環境”や“話し合えていない実情”は、例えば今回のイベント体験の中でも描かれていた「お金の保管場所がわからない」といったように、のちのち多くの問題を引き起こすでしょう。

予約不要で見学できる、3つの展示コンテンツ

上でご紹介したイマーシブ体験型コンテンツは、本日時点で満員御礼で応募は締め切られているのですが、会場には他に3つの展示コンテンツが用意されています。

  • 介護の会話を擬似体験する『家族会話練習所』

後回しにしがちな家庭内での介護の会話を、疑似父や疑似母と練習する『家族会話練習所』、実際に集めた“家族についたウソ”と“本音”を書いたパネル展示で、家族という関係が特殊であることを知る『家族ウソ辞典』、そして家族についてどれだけ知っているかがわかる30の質問に答える『家族検定』は、予約不要で見学可能。

  • 家族という関係が特殊であることを知る『家族ウソ辞典』

  • 家族のことを意外とわかっていないことを知る『家族検定』

よく知っていると思っていたのは思い込みで、家族って実は謎だらけかもしれない。そんな発見を通して、後回しにしがちな介護について家族と話をするきっかけになる……かもしれないイベント『ただいまタイムループ』は、11月17日の「家族の日」に合わせ、11月13日から17日までの5日間、渋谷の特設会場「並木橋オールドハウス」で開催、入場は無料です。

■information
家族謎解き体験「ただいまタイムループ」
会場:並木橋オールドハウス (東京都渋谷区東1-26-32)
期間:11月13日~11月17日/入場無料
対象:18歳以上推奨