【医師が解説】鹿肉や猪肉などのジビエ肉の生食には、危険が伴います。なぜ十分な加熱が必要なのか、わかりやすく解説します。

◆Q. ジビエ肉の生食はなぜ危険なのですか? 鹿肉の刺身も食べてみたいです

Q. 「ジビエ肉の生食は、実際に危険ですか? SNSなどで『鹿肉の刺身』『ジビエの生食』などの投稿を見かけたことがあり、食べられる場所があるなら行ってみたいと思っています。

自然の中で元気に生きてきた生き物の肉なら、かえって健康にもよさそうな気がします。近くのレストランも秋はジビエ肉の料理を出すのですが、生食は提供していないと言われました。新鮮な生肉が食べられるお店に行けばいいのでしょうか?」

◆A. 生食は危険です! ウイルス・細菌・寄生虫などの感染リスクがあります

野生の鳥獣の肉を指す「ジビエ」ですが、日本では原則、毎年11月15日から2月15日まで(北海道は10月1日~1月31日)が狩猟期間として認められています。

これは、まず、鳥獣保護管理法に定められた狩猟期間として、農林業作業の実施時期や山野での見通しのきく落葉の時期等から、毎年10月15日(北海道にあっては、毎年9月15日)から翌年4月15日までとされ、鳥類の繁殖や渡りの時期等を考慮し、鳥獣保護管理法施行規則により原則毎年11月15日から2月15日まで(北海道は10月1日~1月31日)となっています。

これからが「鹿肉」や「猪肉」などの「ジビエシーズン」になります。鹿や猪だけでなく、山鳩や野ウサギ、キジ、カラスなどのほかの鳥獣も、ジビエ肉の一種です。いずれも脂肪が少なく、独特の肉質が特徴で、このシーズンを楽しみにしている人もいらっしゃるでしょう。

一方で、人間の飼育によって管理されているわけではないため、さまざまな細菌やウイルス、寄生虫などのリスクがあります。感染症予防の点では、ジビエの調理法は十分に注意が必要なもので、生食は避けるべきです。

いくつか例を挙げると、過去には、鹿肉を食べた4名がE型肝炎ウイルスによる肝炎になっています。E型肝炎は自然治癒することも多いですが、急速に肝機能が低下する「劇症肝炎」になるケースも報告されており、危険です。

生食を避け、中心部まで十分に加熱すれば、予防することができます。特に妊婦では減少肝炎になりやすいと言われています。

また、危険なのはウイルスだけではありません。野生の猪・鹿の糞便の調査では、食中毒を起こすサルモネラ菌やカンピロバクター、エルシニアなどの細菌、危険な「ベロ毒素」をもつ大腸菌が発見された例も報告されています。

糞便の半分には、鞭虫・回虫・鉤虫などの寄生虫の卵が含まれていた、という別の調査報告もあります。食中毒を起こす寄生虫である「住肉胞子虫」(じゅうにくほうしちゅう)は、イノシシの筋肉の70.7%、鹿の筋肉の88.2%で保有が確認されたことが2017年に報告されています。

摂取後数時間程度(4~8時間)で一過性の下痢、嘔吐等の食中毒症状が起こります。

ウイルスだけでなく、細菌や寄生虫の感染リスクもあるのです。そして、これらを避けるためには十分な加熱が必要で、予防としてとても有効であることは言うまでもありません。

しっかりと衛生的な環境で調理することはもちろん、肉の「内部温度」が75度に達する状態で1分以上、またはそれに準じた調理による殺菌消毒されていることが重要です。なお、住肉胞子虫の場合は、中心温度が-20度になる状態で48時間以上冷凍する「凍結処理」が有効です。

味への好奇心もあるかと思いますが、体へのリスクを十分に考え、安全な範囲で食を楽しむのがよいのではと思います。

◇清益 功浩プロフィール

小児科医・アレルギー専門医。京都大学医学部卒業後、日本赤十字社和歌山医療センター、京都医療センターなどを経て、大阪府済生会中津病院にて小児科診療に従事。論文発表・学会報告多数。診察室に留まらず多くの方に正確な医療情報を届けたいと、インターネットやテレビ、書籍などでも数多くの情報発信を行っている。

文=清益 功浩(医師)