さて、改めて『虎に翼』のデータを見てみると「男性若年層(13~24歳)」「企業管理職/会社経営者」の注目度の高さが目立つ。これは、憲法14条「法の下の平等」をテーマに様々な社会問題に切り込んでいく「朝ドラらしからぬ」骨太の展開が大きく影響しているだろう。ヒロインの成長を基軸に描かれている点はこれまでと変わらないが、女性蔑視、同性愛、朝鮮人差別、戦争責任、原爆裁判といったシリアスな内容が扱われ、朝ドラというより社会派ドラマのような印象だった。これまで朝ドラの視聴習慣がなかった層も数多く惹きつけたと思われる。
朝ドラの放映時間(本分析は8:00~8:15の放送回のみが集計の対象)を考えると、男性若年層(13~24歳)の中でリアルタイムに番組を見ることができたのは、主に大学生~社会人になりたての20代前半だろう。寅子(伊藤沙莉)が必死に社会で認められようともがき苦しむ姿に自分を重ね合わせた視聴者も多かったはずだ。登場人物が抱える悩みや直面する困難は、女性に限らず社会人なら誰もが共感できるものが多く、結果、男性若年層においては2位の『カムカムエヴリバディ』に8ポイントもの差をつけて断トツの注目度を獲得するに至ったのではないだろうか。
また、企業管理職/会社経営者の層においては、社会における女性活躍を推進していく立場としての視点で物語を見ていたのかもしれない。寅子の上司は桂場(松山ケンイチ)、久藤(沢村一樹)、多岐川(滝藤賢一)など寅子にとって心強い存在ではあったが、番組の最終週で改めて桂場が「私は今でもご婦人が法律を学ぶことも職にすることも反対だ」と話すなど、手放しで寅子を応援するだけの存在ではなかった。桂場のポジション(最高裁長官)ならではの苦悩も様々描かれており、管理職や経営者といったいわゆる「エグゼクティブ層」にもドラマの展開を自分事化させる演出だったと思われる。
いずれにしても、「朝ドラ=女性向け」といったイメージを覆すドラマであったことがデータからも証明される結果となった。放送時間帯を考えても、これまで朝ドラは女性ウケを狙って制作することが定石かと思われていたが、テーマ選定によっては男性視聴者も取り込めるということが視聴データから明らかになった。
『おむすび』初回視聴率で『虎に翼』を上回る
『虎に翼』終了後、余韻に浸る間もなくスタートしたのは、橋本環奈主演の『おむすび』。制作統括の宇佐川隆史氏は”朝ドラファン”を公言。初回で主人公・米田結が海に飛び込み「うちは朝ドラヒロインか!」と自身にツッコむなど、早速「朝ドラらしさ全開」のストーリーだ。『虎に翼』とのギャップが大きいかと思われるが、SNSでは「初回で水落ちキター!」「いきなり朝ドラあるあるw」と朝ドラファンから歓喜の声(?)も。
舞台は自然豊かな福岡県糸島。平成生まれの主人公が、ギャル軍団や野球青年など周囲の個性的な面々に翻ろうされながら管理栄養士を目指すというストーリーは、やはり朝ドラらしい女性の成長物語のように見える。しかし第1週では結(橋本)たち家族が阪神・淡路大震災で被災したらしき様子が描かれるなど、今後の展開はまだまだ予測できない。本作の脚本家・根本ノンジ氏は、過去にフジテレビで放送されたドラマ『監察医 朝顔』でも東日本大震災を描いている。今作でも震災と向き合っていく社会や人々をどう描くのか、注目だ。
『おむすび』の初回放送注目度は64.3%。『虎に翼』の67.9%は下回ったものの、世帯視聴率においては『虎に翼』を0.9ポイント上回った。ちなみに、最も注目度が高かったのは8時11分で、前述の「ヒロインの水落ち」だった。朝ドラファンの心をつかむ要素を多数盛り込んで、今後の注目度も上昇していくのか。