フィットネス業界にすい星のごとく現れ、瞬く間に注目を集めた「chocoZAP(チョコザップ)」。事業開始からわずか1年で1000店舗展開を達成し、今では会員数127万人、店舗数1597店(ともに2024年8月時点)を誇る「日本一のジム」にまで急成長した。

  • "会員数日本一のジム"になった「チョコザップ」が仕掛ける新たな戦略とは

今年7月にはSOMPOホールディングスとの資本業務提携も発表。300億円という巨額の出資も得て、さらなるサービスの展開・拡充を目指すということだが、この快進撃は一体どこまで続くのか。RIZAP(ライザップ)グループの代表取締役社長の瀬戸健氏のもとを訪問し、今後の目標や事業戦略について話をうかがった。

RIZAPとSOMPOが資本業務提携するに至ったワケ

――SOMPOとの資本業務提携を発表して話題になりましたが、これにはどのような背景があったのでしょうか?

実は、SOMPOホールディングスさんとは2018年頃からライザップとして業務提携を行っていました。ライザップのボディメイクや健康増進のノウハウを、高齢者の認知機能低下防止に役立てようという狙いですね。「SOMPOケア」(SOMPOの介護サービス)の方に導入する予定だったのですが、コロナ禍で中断せざるを得なくなってしまったという経緯がありました。

  • RIZAPグループ 代表取締役社長の瀬戸健氏

――当時は医療施設や介護施設の出入りは特に制限されていましたからね。

そうなんです。だけど、SOMPOさんにはやっぱり生命保険のかたち、損害保険のかたち、そして介護のかたちを再定義したいという思いがあって――。例えば契約者に何か問題が起きて初めて保証したり、ケアしたりするのでなく、元気なうちから健康を維持できるようなサービスを提供したいと考えていたんです。

そこでSOMPOの契約者のみなさんにチョコザップのサービスを提供し、フィットネスやカラオケを楽しんでもらうことで、健康的で前向きな生活を送っていただきたい。そのような思いが一致して今回の資本業務提携に至りました。

チョコザップは「体組成計」や「ヘルスウォッチ」を通して利用者の行動を見える化し、体の情報もデータ化できるので、物理的な制約を超えたデジタル的つながりも提供できると考えています。

サービス拡充によって「ジムの概念も変えていきたい」

――チョコザップでは、フィットネス以外にどんなサービスを展開しているんですか?

私たちはすべてのフィットネス初心者のみなさんにサービスを提供したいと考えています。それと同時に、フィットネスだけでなく、もっと広い意味で「健康」に関わるさまざまなサービスの展開を目指しています。

インフレ時代に突入したことで、多くのみなさんが生活必需品以外のところを削って、どうにか生活費をねん出していると思います。それこそ自己投資や自分磨きにかける予算は真っ先に削る対象になっています。

――たしかに。ジムなどは経済的に余裕がなければ通えないですね……。

だけど実際、人生には自己投資や自分磨きによる精神的な幸福も必要ですし、それによって日常に価値が生まれ、前向きに生きることができたり、自分に自信を持てたりするわけです。

だからチョコザップは「月額2,980円」という低価格にこだわりながら、カラオケやホワイトニング、エステ、MRI・CT検査(※)など、健康にまつわるサービスを「追加料金なし」で提供しています。

普通にカラオケで遊べば2,000円くらいはかかりますし、人間ドックなら一度の受診で5万円くらいはしますよね。ホワイトニングやエステも決して安くありません。何をするにもお金はかかりますが、自己投資や自分磨きを犠牲にしてほしくない。そういう思いでチョコザップは幅広いサービスを提供しながら、ジムの概念も変えていきたいと考えています。

※検査は医療機関で行われ、chocoZAPでは一切の医療行為を行っていない

――これからもサービスを追加していくのでしょうか?

もちろん追加も検討していますが、まずは今あるサービスをより使いやすいと感じてもらえるよう、環境整備を優先したいと思っています。

まだまだ改善すべきところはたくさんありますし、初心者の方でもフィットネスマシンやエステマシン、脱毛マシンなどを直感的に、そして簡単に使えるよう、ひとつひとつのサービスや品質を向上させていきたいですね。

すでに細かな環境改善には力を入れていて、例えばマシンが故障した場合の復旧作業もより速やかに行えるよう、新たなテストなども行っています。清掃回数の平均も今年の1月時点では1店舗あたり週10回程度だったところ、7月時点では週17回にまで増やすなど、衛生面の向上も強化しています。

――現時点での反響などはいかがでしょうか?

おかげさまで、海外も含めて多くの反響があります。使い方も多様化していて、例えば街中をジョギングしている途中で給水所代わりに寄っていくユーザーさんもいますし、トイレだけ利用していくユーザーさんや、カラオケでプレゼンの練習をしているユーザーさんもいるようです。

世界展開を見据えつつ、地方展開にも注力

――最後に、今後の中長期戦略についてもお聞きかせいただけますか?

今は海外展開にも力を入れています。現在は中国や台湾、香港、アメリカなど世界6都市、計11店舗を展開しています。とはいえ、まだテスト段階ではありますから、今は各都市に合ったノウハウを身につけることが重要。しかるべきタイミングがきたら本格出店を進めたいと考えています。

――国内の目標についてはいかがでしょうか?

まずは地方への進出にさらに注力したいと考えています。「場所はあるけど人がいない」「最寄りのコンビニまで車で20~30分かかる」「店を開いても売上にならない」「コト消費や自分磨きを楽しめる場所が存在しない」といった地域は全国に多々あります。そういう場所では、何をするにも採算が合わないんですよね。

――そういった土地にもチョコザップは進出できるんですか?

われわれは地方自治体と連携することで、当初計画していた必要最低限の商圏人数を大幅に下回るような人口密度の自治体でも店舗を展開できています。

例えば、チョコザップが展開している三重県の木曽岬町は1㎢あたりの人口密度が382人、兵庫県の養父市は1㎢あたり52人。ちなみに、東京の中野区は1㎢あたり22,121人です。

一般的なジムの場合、大体1坪あたりの会員数が大体2.2人と言われているのですが、養父市のチョコザップは1坪あたり24人。街の人口密度はすごく低いのに、この店舗の利用者数はものすごく多い状態を作り出せています。地方でも十分に集客できるし、ビジネスも成立するということですね。

――なぜそんなことが実現できているんですか?

やはり地方在住だと近場に娯楽施設がないんですよね。例えば高齢者のみなさんがチョコザップでカラオケなんかすると、めちゃくちゃ盛り上がると思います。地方にこうやって楽しめる環境を用意することで、高齢者のみなさんも活動的になるし、前向きに生きられるようになります。

地方にはまだまだ使われていない土地、使われていない施設があります。そういう空きスペースを活用しながら、今後も地方を含めて出店数を増やし、健康の社会インフラ化に貢献していきたいですね。

写真:曳野 若菜