“市販薬”による「オーバードーズ」経験のある若者が急増…その共通点とは?専門家が解決
杉浦太陽と村上佳菜子がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「杉浦太陽・村上佳菜子 日曜まなびより」(毎週日曜 7:30~7:55)。「学びと成長」をコンセプトに、毎回さまざまなゲスト講師をお招きして、明日の暮らしがもっと豊かになる情報や気になるトピックをひも解いて、今よりもちょっと成長することを目指す番組です。

9月15日(日)の放送テーマは、「その気持ちに飲み込まれないで! オーバードーズの危険性」。厚生労働省 医薬局 医薬安全対策課 課長の野村由美子さんをゲストにお迎えして、オーバードーズによる健康被害、オーバードーズの相談窓口について伺いました。


(左から)杉浦太陽、野村由美子さん、村上佳菜子



◆若者たちによる市販薬の乱用が急増

“薬物乱用”と聞くと、覚醒剤や大麻といった違法薬物をイメージしますが、最近は薬局やドラッグストアなどに売っている市販薬を乱用する若者が急増しています。医薬品は決められた量や回数を守って飲むのが基本ですが、その量や回数を超えて飲むことは乱用にあたります。特に、市販薬を一度にたくさん飲むことを「オーバードーズ (Overdose)」略して「OD」と言います。

全国にある精神科医療施設で薬物依存症の治療を受けた10代の患者を対象に、原因となった薬物を調べたところ、10年前の2014年にもっとも多かったのは“危険ドラッグ”の48%で、市販薬は0%でした。ところが、2020年ではこの割合が逆転して、危険ドラッグが0%、市販薬が56%と最も多くなっています。

また、国立精神・神経医療研究センターが2021年に実施した「薬物使用と生活に関する全国高校生調査」によると、「過去1年間に市販薬を乱用した経験がある」と答えた生徒が、約60人に1人の割合でいることがわかりました。このように、若者たちのオーバードーズ被害が深刻化しています。

若者のあいだで市販薬の乱用が広がった背景には、SNSなどによる“ネット情報の拡散”が理由の1つとして挙げられます。「乱用の対象となる薬の製品名や、“どれくらい飲めば、どのようになる”といった体験談などが拡散され、10代の若者がオーバードーズの情報に接しやすくなったことも要因の1つではないかと言われています」と野村さん。

市販薬は大麻や覚醒剤のように違法な薬物ではなく、入手も容易なため、軽い気持ちでやってしまう若者も少なくありません。しかしながら“市販薬だから少々多めに飲んでも大丈夫”という認識を持つことは非常に危険です。たとえ市販薬であっても、たくさん飲んでしまうと、吐き気や嘔吐、頭痛、不整脈など、体に大きなダメージを与えてしまいます。

さらに、オーバードーズには成分によって“依存性”もあります。例えば、かぜ薬でオーバードーズを繰り返すと、徐々に肝臓が壊れて死に至る恐れもあります。また、市販薬にはいろいろな成分が含まれているため、オーバードーズの中毒になると、作用が影響し合って原因が特定しづらくなる可能性があり、それで治療が難しくなってしまうリスクもあります。

◆オーバードーズ経験のある若者の共通点

オーバードーズをしている若者のなかには、こうしたリスクを理解していない人もいますが、なかには“知っているけれどやめられない”“やらずにはいられない”といった若者がいるのも事実です。

オーバードーズを繰り返してしまう要因の1つには“孤立・孤独”があるとも言われています。「オーバードーズの経験のある高校生の特徴」という調査結果の一部を以下に記載します。

・性別は男性より女性の割合が多い
・睡眠時間が短い
・朝食を食べない頻度が高い
・インターネットの使用時間が長い
・学校が楽しくない
・学校で親しく遊べる友人や相談できる友人がいない
・親に相談できない
・大人不在で過ごす時間が長い
・家族との夕食頻度が少ない
・コロナ禍による自粛生活に対するストレスが高い

この調査結果に、野村さんは「オーバードーズ経験のある高校生は、客観的にみて“家族や地域社会との交流が著しく乏しい状態”という共通項があることがわかります」と解説します。

一部のかぜ薬や咳止め薬、解熱鎮痛薬は、決められた量を超えて摂取すると覚醒作用が生じて、“気持ちが良くなる”“パフォーマンスが上がる”“気分が変わる”といった精神状態をもたらすことがあります。オーバードーズをする若者は、そうした効果を求めて乱用を繰り返すのですが、その背景には、“ひどい精神状態から解放されたい”“死にたい”“どれほど絶望的だったかを示したい”“誰かに本当に愛されているのかを知りたい”などといった理由もあるようです。

◆相談支援につながることが問題解決の第一歩

オーバードーズをやめられずに苦しむ人のなかには、医療機関にかかり、自助グループ(※)にも通って状況が好転したケースもあります。
※自助グループ……同じ問題を抱える人同士が自発的に集まり、問題をわかちあい、支え合うグループのこと。

周りに信頼できる大人や友人がいたとしても、身近な人だからこそ話しづらいこともあります。そんなときは、まず専門家に話を聞いてもらいましょう。野村さんは「『相談しても問題が解決するわけじゃない』『オーバードーズをやめろと言われるだけ』と思われるかもしれませんが、相談窓口の役割はオーバードーズをやめさせることではありません。話を聞き、助けになることです」と声を大にします。

もし、家族や友達がオーバードーズをしていることに気付いたら、周りの人は「何か悩んでる?」「良かったら話を聞かせて」などと声をかけ、話に耳を傾けることが重要です。そのうえで、何をしてあげたらいいか分からないときは、相談窓口に連絡しましょう。相談窓口では、オーバードーズを繰り返す我が子に悩む家族からの相談にも対応しています。家族が相談支援につながることが、問題解決の第一歩になります。

そして、悩みに応じたさまざまな相談窓口が設置されています。例えば、つらい気持ち、オーバードーズをやめたくてもやめられないときは「全国の精神保健福祉センター」、“つらい”“死んでしまいたい”などと思い悩んでいたら、電話やSNSで話を聞いてくれる「まもろうよ こころ」、孤独・孤立で悩まれている方は、孤独・孤立対策支援「あなたはひとりじゃない」などがあります。

なお、これらの一覧は厚生労働省のホームページ内にあるオーバードーズのページに載っています。

最後に野村さんは、「薬局やドラッグストアでは、若者が一部の医薬品を購入する際、氏名や年齢を確認したり、数量を制限するなどの措置を講じていますが、それだけではオーバードーズという危険な行為を防ぐことはできません。もし、オーバードーズをしている人がいたら声をかけて話を聞き、必要な場合は専門の窓口につないでください。そして、いま生きづらい思いをしている方は、その気持ちに飲み込まれず、信頼できる人に頼ってください。身近な人に話すのが難しければ、専門の相談窓口に相談してください。あなたが話してくれるのを待っています」と呼びかけました。

番組のエンディングでは、杉浦と村上が今回学んだ「オーバードーズ」について復習、2人が特に注目したポイントをピックアップして発表します。まず村上は“1人で抱え込まず相談してね”とポイントを挙げ、「相談することは難しいかもしれないけど、たくさんの方がサポートしてくれるので、思い切って相談してほしいなと思います」と語ります。

続いて、杉浦は“オーバードーズ 相談窓口 いろいろあります”とし、「状況によって相談するところも変わってくると思うので“そういうところもあるよ”ということを知ってもらいたいです」とコメントしました。


(左から)杉浦太陽、村上佳菜子



<番組概要>
番組名:杉浦太陽・村上佳菜子 日曜まなびより
放送日時:毎週日曜 7:30~7:55
パーソナリティ:杉浦太陽、村上佳菜子
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/manabiyori/