西山朋佳女流三冠が受験する棋士編入試験五番勝負は、第1局が9月10日(火)に東京・将棋会館で行われました。対局の結果、試験官の高橋佑二郎四段を132手で下した西山女流三冠が編入に向け好スタートを切りました。

開幕戦は後手番で

本編入試験は新四段5名と対局を行い、3勝を挙げればフリークラス編入での四段になる資格を得るもの。西山女流三冠は2021年4月に三段で奨励会を退会して以降も女流棋士としてのキャリアを充実させてきました。本局で試験官を務める高橋四段は今年4月にプロ入りした25歳。居飛車党で、受けを主体とした棋風に定評があります。

振り駒が行われた本局、後手となった西山女流三冠が三間飛車を採用したのは予想された戦型のひとつで、石田流の攻撃陣を作ることで居飛車側が穴熊に組み替える展開をけん制しています。ともに飛車が構える右辺での小競り合いから局面が動き始めました。

豪腕炸裂の角打ち

双方の大駒が飛び交う激しい攻防が続いたのち、盤上は形勢不明の終盤戦へ。先に玉側の端に手をつけたのは高橋四段でしたが、西山女流三冠はここから力強い指し回しで攻守を逆転させてみせます。自玉に詰めろをかけられた局面は誰もが受けを考えそうなところ、西山女流三冠の視線は先手陣に注がれていました。

タダのところに角を放り込んで王手をかけたのが西山女流三冠渾身の勝負手。これを取ると先手の攻めの要である香を外す手が控えており、この角を取りづらいのは織り込み済みです。高橋四段はやむを得ず玉を逃げますが、このやりとりの中で西山玉への詰めろは見事に外れていました。この応酬にファンも「すごい手が出た」「その見切りしびれる」と興奮を隠せません。

抜群の見切りで先勝

優位を築いた西山女流三冠は圧巻の読みきりで勝利への道を進んでいきます。秒読みのなか迫る高橋四段からの王手ラッシュにも動じずに玉を中央に逃げたのが読み切りの手順。西山玉は危ないようでも打ち歩詰めの筋ではっきりと寄りがない形です。終局時刻は17時44分、最後は攻めが途切れたのを認めた高橋四段が投了。

勝って幸先のよいスタートを切った西山女流三冠は「ずっと気が抜けない難しい将棋だった。(第2局に向けて)また一局一局準備したい」と振り返りました。敗れた高橋四段も「自分が持っているものをすべて出し切った」と胸を張ります。10月2日(水)に行われる第2局では山川泰熙四段が試験官を務めます。

水留啓(将棋情報局)

  • 西山女流三冠は局後SNSに「難解な中終盤戦でしたが、最後は幸運だったかと思います」との感想を残した(撮影:編集部)

    西山女流三冠は局後SNSに「難解な中終盤戦でしたが、最後は幸運だったかと思います」との感想を残した(撮影:編集部)