第10期叡王戦(主催:株式会社不二家)は段位別予選が進行中。8月21日(水)には九段戦の屋敷伸之九段—佐藤天彦九段の一戦が行われました。対局の結果、得意の四間飛車を用いて94手で勝利した佐藤九段が本戦進出に向け好スタートを切りました。

半年前のリベンジなるか

今期の九段戦予選は各10名からなる山を勝ち抜いた計3名が本戦に進むもの。本局の対局者には枠抜けまであと3連勝が必要です。振り駒が行われた本局は後手の佐藤九段がオーソドックスな四間飛車を披露。振り飛車はすっかり板についた様子で、四間飛車は数日前に行われた竜王戦昇級者決定戦の糸谷哲郎八段戦に続いて連採となっています。

対して素早く右銀を繰り出したのは速攻を好む屋敷九段らしい急戦策。両者の間で今年1月に戦われた対局(棋聖戦予選)でも類似の進行となっており、本局ではその対局で敗れた屋敷九段が修正策を打ち出しました。3筋の歩を取り込む手を保留したのは後手の飛車をさばかせないための工夫です。

天彦流粘りの振り飛車

ともに敵陣に馬を作る長い中盤戦が続くなか、屋敷九段は機敏な攻めでペースをつかみます。持ち駒の桂を生かして玉側の端攻めに出たのが教科書通りの基本手筋。手順に急所の香に狙いをつけて美濃崩しの足掛かりを得ました。屋敷九段のリベンジ成功は目前と思われた終盤、ここから佐藤九段の粘りの指し回しが始まります。

香を取られる直前、開き直って戦場から最も遠い2筋に歩を垂らしたのが佐藤九段渾身の一手。将来的な王手飛車の狙いを防ぎつつ「相手に攻めてもらってそのほころびを突く」というつかみどころのない勝負術が百戦錬磨の屋敷九段を焦らせました。もう一押しが足りない屋敷九段は、攻め駒を補充すべく金のタダ捨てで局面打開を図りますがこれは危険な一手。この手を境に形勢の針は佐藤九段に傾きました。

終局時刻は16時4分(持ち時間各1時間、対局開始14時)、最後は自玉の詰みを認めた屋敷九段が投了。中盤で苦戦に陥った佐藤九段ですが決め手を与えない辛抱が奏功した一局となりました。

水留啓(将棋情報局)

  • 佐藤九段の次の相手は谷川浩司十七世名人—豊島将之九段戦の勝者となる

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