納車まで“2年待ち”とも言われる大人気のトヨタ自動車「ランドクルーザー70」。レトロブームも相まって、令和のクルマ好きからも熱い視線を集めていそうだが、ちょっと待った! このクルマ、最近のクルマのように親切な乗り物とはちょっとキャラが違う。ファッション感覚で買っても問題ないのか、昭和のクルマ好きが実際に乗って確かめてきた。
クセが強い! 問題は乗る人の感じ方
ランクル70のデビューは1984年。2023年末に日本で発売となった再再販モデルは、40年前とほぼ変わらぬ姿で登場した。徹底的にヘビーデューティーにこだわった悪路走破性と耐久性、整備のしやすさは昔のまま。昭和の時代から、その道のプロやクロカン愛好者たちから圧倒的な支持を集めてきた1台だ。
ランクル70の構造は、4WDにすると前後のタイヤが1本の軸でつながるパートタイム式四駆システムだったり、強靭なラダーフレームに取り付けた前後リジッドアクスル、前コイル、後リーフサスペンションの足回りだったり、リサーキュレーティングボール式&油圧パワステのステアリングシステムだったりと見どころ盛りだくさん。昭和の時代にすでに完成していたこのシステムだが、実際に走ってみると、最新設計のSUV群とは異なる部分が見えてくるのは当然だ。それをネガと感じるか、レトロで楽しいと感じるかはドライバー次第ということになる。
ただ、そんなランクル70に憧れたとしても、なかなか試乗してみる機会ははいはず。見た目に憧れて、欲しいという思いを募らせている若い人たちが、やっとの思いで手に入れたランクル70に乗った時に「思っていたのと違う……」と感じてしまうのも悲しい。なので今回は、昭和のクルマ好きが実際に試乗し、ランクル70の普通なところと普通じゃないところをお伝えしようと考えた次第だ。
これは意外! まっすぐ走るランクル70
ドアを開け、Aピラーのグリップ(手すり)に手をかけながら高い位置にある運転席によじ登るのは、ランクル70だけでなく、メルセデス・ベンツ「Gクラス」やランドローバー「ディフェンダー」などヘビーデューティー系SUVならお約束。ただ、エンジンをスタートさせるため、キーシリンダーにカギを差し込んでひねるという行為は、昭和のクルマであるランクル70ならではの儀式だ。これにより、カラカラと響く最高出力208PS/最大トルク500Nmの「1GD-FTV」型2.8L直列4気筒DOHCディーゼルターボエンジンが目を覚ます。
ここまでの数行の説明だけで、すでに普通のクルマとは違うランクル70のエンターテインメント性が感じられたらコッチのものである。
駐車場から道路に出るために直角に曲がるには、ロックtoロックが4回転以上というスローで大径なステアリングをグルグルグルと水車のように回し、またグルグルグルと戻す必要がある。慣れないと、最初は戻しが遅れて曲がり過ぎてしまう。最小回転半径はなんと6.3mだ。ただ、リサーキュレーティングボール式&油圧パワステのゆったりとしたステアリングをエンタメのひとつと考えられれば苦でもないし、だんだんと慣れてくる。
直進状態に入って、ちょっとした凹凸や段差がある部分を通過すると、大きめにボディが揺すられることがある。これは、ラダーフレームとリジットアクスルのクルマ特有のクセ。昭和のSUVを知る私たちは、このあたりで「あぁ、コレコレ」とニヤリとしてしまう。若い方たちには、大勢で乗り込んでキャアキャア言いながら楽しんでいただければと思う(もちろん、ジェットコースターのように揺れるわけではないのだが)。
相模原の河川敷を目指して首都高に上がると、意外や意外(失礼)、直進性がとても良好なことに気がつく。先述のステアリングシステムにラダーフレーム、リーフリジッドを組み合わせたSUVは「ユラリ、フワリ」とした乗り心地であり、常に当て舵を与えておかなければいけないと思っていたら大間違い。ランクル70は、ステアリングに手を軽く乗せておくだけでまっすぐ走ってくれる(最新モデルでは当たり前だけれど)。すばらしい。
乗り心地の良さも印象的。リアのリーフスプリングの枚数を10年前の6枚から2枚に減らした日本仕様ならではの効果であり、狙い通りの性能が発揮できているのがわかる。ちなみに、枚数が減っても耐久性は落ちていないのでご心配なく。
先進の運転支援システムについて、最新のクルマと比較するのは少しかわいそうだ。とはいえ、ランクル70にも、前のクルマに追従するアダプティブ方式(ACC)ではないけれど、一定速度で走ることができるクルーズコントロールは付いている。交通量の少ない高速道路を使った長距離移動であれば、思いのほか楽チンにこなせるはずだ。
しかし、安心していてはいけない。相模川の河川敷に降りるため、狭い坂道を下りつつ急なコーナーを曲がろうとすると、ボディの上側と下側がねじられるような、そして2t超えの重い車体が外に引っ張られるような強いGが。それにあらがってステアリングを必死に回してやる必要があり、少しヒヤリとした。
本格オフローダーに日本で乗る贅沢
河川敷に降りてトランスファーレバーを4WDに入れると、アナログ式メーターには緑色で控えめな表示が小さく点灯。大きな液晶画面で「これでもか!」とモード表示をアピールする最近のクルマとは違うが、これも質実剛健な昭和のエンタメである。
悪路走破性については言うことなしだ。ステアリングコラム脇のデフロックスイッチだけでなく、レバーの上側には2速スタート、パワーホールド、ダウンヒルアシスト、アクティブトラクションコントロールのオン/オフといった電制スイッチがそろっている。
といっても、オフロードでボンネットを透かして路面状況を見るような最新のデバイスは付いていないので、過酷な道に挑む際はボンネット先端の「ガッツミラー」と呼ばれる2面式の補助ミラーで前方直下と助手席下を確認するか、降りて目視で確かめるか、とにかく肉体を使って状況を乗り切っていく必要がある。一方、後方についてはバックモニターを装着していて、ギアを「R」に入れるとバックミラーに映像が映し出される。
砂利と石の河原は思いのほか平らだったので、その能力を十分に体験することはできなかったのだが、本格SUVに乗っているという安心感は絶大なものがある。ちょっとした岩場を通過するときにステアリングに伝わってくる路面からのキックバックだったり、リーフリジッドサスとラダーフレームに乗るボディが上下左右に大きく揺すられたりするのは、クルマが路面状況を正確にドライバーに伝えている証拠。それに対応できる操作をドライバーに要求していると考えればいい。これがあるから、ランクル70は世界中のハードな環境で生き残ってきたし、今でもそれが求め続けられているのだろう。
空気抵抗が大きそうな四角いボディ、汚れが気にならない質素な樹脂内装、手袋をはめていても調節できる空調レバー、引き出し式のロッドアンテナ、床面は高くてもたくさんの荷物が積み込める四角いラゲッジなど、変わる必要のないところは全く変わっていない。
昭和レトロでプリミティブだけど、走行性能は世界で折り紙つきのランクル70。490万円でこれだけ楽しめるクルマはそうそうない。今から2年待っても、その価値が古臭くなることはないのだ。