夏休みの思い出は色褪せない。特に子ども時代の記憶ならなおさらだ。

海事産業の未来を紡ぐべく、「小中学生のための大島丸体験航海」が8月10日に実施された(主催:海洋立国懇話会、山口県内航海運組合、共催:大島商船高等専門学校、日本内航海運組合総連合会)。

山口県下関市から周防大島町を目指す一泊二日の船旅で、全国から12組24名の親子が参加。船は大島商船高等専門学校が所有する練習船「大島丸」を使用した。当然、一般の人が高専の練習船に乗る機会などそうそうない。

ということで、今回はワクワク感と特別感に満ちた超貴重な航海の一部始終を公開!

▼最新型の練習船「大島丸」に乗り込んで出港〜!

昨年からスタートした「小中学生のための大島丸体験航海」。応募資格は小学4年生から中学3年生(子供1人、保護者1人のペア)で、イベント自体は「人手不足が深刻な内航・外航船員の確保」に向けた施策の一環として企画された。まずは船員という素敵な仕事が存在することを子どもたちに知ってもらおう、というワケである。

さっそくタイムスケジュールに沿ってその内容を見ていこう。

【12:45〜】下関港に集合!

8月10日12時45分、参加者たちは下関港の岬之町ふ頭に集合。時間ピッタリに到着したのに、どこにも人影がない。「まさか場所を間違えたか」と肝を冷やしたが、なんとほぼ全員が予定よりかなり早く大島丸に乗り込み、受付を済ませていたらしい。このイベントに対する期待値の高さがうかがえる。

出港前に大島丸と関門海峡のランドマーク「海峡ゆめタワー」をバックに集合写真をパチリ!

【13:00〜】開会式〜居室整理!

船内に戻り、まずは学生ホールで開会式。主催者を代表して海洋立懇話会の森隆行理事が登壇した。

森理事は「日本の貿易の99%以上が船で行われている」と重要性を説明したうえで、「聞いただけだと忘れやすく、見ただけだとちょっとしか覚えられない。でも、体験したことはなかなか忘れないものです。この一泊二日でぜひ海や船のことを知っていただき、楽しい思い出を作ってください。そして、みなさんが大きくなったときに、船や海に携わる仕事に就いていただけるととても嬉しく思います」と期待を口にした。

続いては各々、居室整理とボンクメイク(ベッドメイク)に取り掛かる。居室はこんな感じでめちゃくちゃ綺麗〜! 普段は学生居室として使われているようだが、今回は2家族4人でルームシェアして使用することにいなっている。

【14:00〜】いよいよ出港!

さぁ、いよいよ出港〜! 最初は緊張気味だった参加者のテンションも一気に跳ね上がる。ここで何より驚いたのは、大島丸の静粛性である。

一般的な船だと、波以外にもエンジン音やそれに伴う振動を感じるが、昨年デビューしたばかりの四代目・大島丸はディーゼル発電機を用いた最新の電気推進船なので、雑音や振動はゼロ。まさにEV車さながらの静けさである。いや〜、感動!

しばらくすると関門海峡を跨ぐ関門橋が見えてきた! そしてそのまま……

関門橋の下を……

スイ〜ッと通過! ヤバい、早くも“ダイナミックな体験してる感”がハンパじゃない!

せっかくなので関門橋をバックに記念撮影。逆光も気にせずパチリ!

【15:00〜】非常時を想定した「総員退船部署操練」!

海上にいる以上、ひたすらハシャいでいるわけにもいかない。ということで、非常時に備えて「総員退船部署操練」、すなわち避難訓練を実施。大島商船高専で教鞭を執る一等機関士の山口伸弥さん、一等航海士の浦田数馬さんから直々にライフジャケットの付け方などを学ぶ。

「暑いしキツイ!」「苦しい〜!」と感想を口々にする子どもたち。いざというときは船から海に飛び込まなければならないが、このライフジャケットの分厚さが鞭打ち防止の役割も果たすようだ。

学生ホールに戻ったらおやつタイム! みんなに配られたのは救難食料の固形ビスケットと救命水のセットだ。

「美味しい!」という声は残念ながら最後まで上がらず。「ちんすこうに似てる。口の中のすべての水分が持っていかれる」という感想が的を射ていた。実際に救難した際は、これが1日4回、1回につき1枚配布されるという。味はさておき、すごく貴重な経験である。

【15:30〜】船内見学!

おやつで小腹を満たしたあとは船内見学へ。まずは航海士の職場である「ブリッジ」(操船を指示する操舵室)へ。おお〜、すごい。ドラマや映画でしか見たことない……。

「ブリッジは窓が一番多い部屋で、航海士はここで望遠鏡やレーダーを使って周りの状況を見ることが仕事です。自動運転だから設定した方向にまっすぐ進むようになっていますが、ここで指示を出して舵を動かしたり、プロペラスクリューを回して前進させたり、逆回転にして後進させたりしています」(浦田一等航海士)

レーダーには周囲の船の位置情報が映し出されている。どの船がどこの国の船で何を運んでいるのか、といった詳細情報まで一覧できるようになっているらしい。スゴい……。

船員たちの居住区も拝見。ランクに応じて部屋の大小にも差が設けられているそうだが、それも法律で厳密に明記されているのだという。

船内には洗面室やシャワールーム、ウォシュレット付きのトイレまで完備! さすが完成して間もない船。すべてが新しく、清潔感に溢れている。

【16:00〜】お勉強タイム&船内中枢を見学!

今度はお勉強タイムに突入。山口一等機関士が「船がすすむひみつ」と題した授業を行ったうえで……

実際に機関室や制御室、電気工作室、空調室、ポンプ室など、普段は絶対に立ち入れない船の中枢を隅々まで見学! 船が進むのメカニズムを肌で学んでいく。

その後は山口県内航海運組合理事長の重枝浩二さんが「内航海運について」の講義を行い、トラック100台分の荷物をコンテナ船ならわずか1隻(5人の船員)で運べることなどを紹介。いかに船が物流に重要で、しかもエコな乗り物であるかを力説した。

【18:00〜】夕食タイム!

日没前に投錨。この日は瀬戸内海西部、大分県の国東半島沖に錨を下ろして一泊することに。

その後は学生ホールにてお楽しみの夕食タイムに突入!

とても美味しい和食弁当だったが、普段は専属のシェフが船員たちの胃袋を支えているらしい。制度上、我々が食べるわけにはいかないのだが、そっちもかなり気になる……!

食後はそれぞれ甲板に出て、太陽が沈んでいく様子をゆっくり堪能。海上から落日の様子を見守るなんて人生初めての経験である。本当に綺麗……。

【19:30〜】クイズ大会〜夜の船内見学!

日没後はクイズ大会にチャレンジ! 勉強の一環でもあったが、正解者にはクリアファイルがプレゼントされるなど、ゲーム性に富んだ楽しい時間であった。

クイズのあとは夜の船内見学。不測の事態にも即対応できるよう、24時間必ず誰かが起きて見張りをしているのだとか。昼間とは随分、雰囲気が違う。なんかミステリアス……。

船上から望む夜景は息を呑むほど美しく、夜空には満天の星が広がっていた。なんという絶景だろうか。都会では絶対に見られないだろうな〜。

夜景見学を終えたあとはシャワーを浴びたり、ストラップ作成に興じたりしながら23時に消灯。電気推進船だから本当に静かで揺れもゼロ。これならみんなもグッスリ眠れるだろう。おやすみなさい〜!

▼あっという間の2日目

【翌7:00〜】起床〜朝食

起床。朝食は菓子パンとフルーツジュースが配られ、学生ホールでは点呼も行われた。

その後は抜錨の様子を見学。錨を抜き、周防大島町に向けて船は再び動き出す。

昨晩使用した寝具を回収。中学生の参加者は力仕事のヘルプに回った。いや〜、頼もしい。

【9:00〜】船&海に関する勉強タイム!

再び勉強タイムへ。船員に勉強は欠かせない! 海洋立懇話会の森理事は「マイクロプラスチックによる海洋汚染問題」、大阪商業大学の松尾俊彦教授は「船と商いの歴史」、そして東京海洋大学の清水悦郎教授は「自動運航船の基礎知識とAI技術の現状」などについてそれぞれ語った。

【10:30】船内で自由時間〜大島商船高専に入港!

いよいよ最終目的地である周防大島町の港を視界が捉える。「ああ〜、もう終わっちゃうのか〜」と名残惜しむ参加者もチラホラ。本当にあっという間だったなぁ……。

中学2年生の参加者に体験航海の感想を訪ねてみた。

「お父さんがもともと船乗りの仕事をしていたので、自然と僕もこの仕事に就きたいと思っていました。(この日の体験航海は)すごく楽しかったし、船のことがもっと好きになりました。将来は大きな外航船にも乗ってみたいですね」

すでに大島商船高専などのオープンキャンパスにも参加済みだそうだが、受験に向けてさらに気合が入ったようだ。

12時頃、船はついに大島商船高専の港に到着。約24時間にわたる船旅もこれにて終了。

ラストは大島丸と記念撮影! この中にはもしかしたら、いつか生徒として再びこの船に乗り込むことになる子どももいるかもしれない。そんな日がきたら、山口先生や浦田先生は嬉しさのあまり泣いてしまうのでは……。

将来、船員になる子もいれば、そうでない子もいるだろう。しかし、大島丸で過ごした2日間は誰にとっても長く色褪せない特別な時間になったはずだ。