千葉みなとエリアの海辺の魅力を体験できる夏の祭典「千葉港まつり」の恒例コンテンツ「港湾施設見学会」が7月27日に開催された。

港湾施設の見学を通じて、子どもたちに海の大切さや港の重要性について理解を深めてもらうために企画されている本イベント。抽選で選ばれた一般参加者らとともに、RORO船と千葉港信号所を見学した。

■40名の定員に250人以上が応募、港湾施設の見学ツアー

千葉港は、2万4800ヘクタールという日本一広域な港湾区域を持つ港。北は市川市から南は袖ケ浦市まで6市にまたがり海岸線延長約133キロメートルに及び、全国に18港ある国際拠点港湾のひとつに指定されている。1954年に開港して以来、京葉工業地帯の重要な物流拠点として成長を続け、その取り扱い貨物量も名古屋に次いで全国第2位となっている。

貸切バスで港湾施設を巡る見学ツアーは、近隣の自治体の小中学生と保護者を対象に開催され、例年、公式サイトのほか近隣の自治体の広報誌などで一般参加者を募集する。 船や港での仕事に触れてもらうことが目的で、過去には冷凍倉庫の施設見学なども行われていたが、今年は出洲ふ頭B岸壁に着岸中のRORO船「第六はる丸」に乗船し、その船内や荷役作業を見学。その後、千葉港信号所で港の管制業務を見学した。RORO船と信号所の見学は昨年に続き2回目となり、今年は40名の定員に250人以上の応募があったという。

RORO船はローリングオン・ローリングオフ型船舶の略称で、貨物を積んだシャーシや完成車といった貨物を自走で積み下ろしする方式が特徴の船。一般の船のようにクレーンで貨物を積み下ろしする必要がなく、効率的な荷役作業を行うことができる。

長距離を大量輸送するため大型船が多いこともRORO船の特徴で、2021年9月に就航した「第六はる丸」は、全長179.90メートル。トレーラーシャーシ約160台、乗用車約250台を乗せられる国内最大級のRORO船だ。 大王海運では「第六はる丸」を含めて3隻のRORO船で、千葉港、堺泉北港(大阪府)、宇野港(岡山県)、三島川之江港(愛媛県)の4港を週2往復で結ぶ航路を運行している。

■車両の積み込み作業のデモも実施

陸上輸送と海上輸送を利用して目的地へ貨物を届けるシャーシリレー方式によって、集荷から配送までの一貫輸送が可能なRORO船。 長距離ドライバーの省力化のほか、災害時に道路や鉄道といった交通網が寸断されてしまった際のBCP(事業継続計画)対策としても注目されている。また、陸上トラック輸送と比較し、CO2排出量を約5分の1以下に削減できることもRORO船による海上輸送のメリットだという。

RORO船について説明を受けた後、参加者たちは2つの班に分かれて船内を見学した。「第六はる丸」の貨物倉は4層構造で、それぞれの層が立体駐車場のようにスロープでつながっている。最下層の第1層は自動車専用倉、その上の3層はシャーシ/自動車兼用倉で、それぞれ天井の高さが3メートル、4.3メートルと異なっている。

海上での大きな揺れに備え、車両を船に連結させる固定作業にもルールがあり、限られたスペースでなるべく多くの貨物を積むため、スロープ部分にもトレーラーシャーシや乗用車を積み込まれるという。

船の世界には明確な役割分担が存在し、積み下ろし作業は港湾運送事業者が担っている。この日は車両の積め込み作業や固定作業のデモンストレーションも行われた。 積み下ろし作業は通常6時間ほどで行われ、実際にはひっきりなしに車が入ってくるようなスピード感で作業が進むようだ。上甲板には換気のためのファンがあり、そこから貨物倉へ外気を送り込んでいるが、熱の籠りやすい船内空間での作業となる。

続いて見学者は船員やドライバーの部屋がある居住区を通過し、船を操縦する船橋・ブリッジへ。レーダーや電子海図「ECDIS」(エクディス)、船舶自動識別装置「AIS」について説明があった。

AISはすべての旅客船と国際航海に従事する300トン以上の船舶、国際航海に従事しない500トン以上の船舶に搭載が義務付けられている装置。船の大きさ、進行方向や速度といった情報を発信し、無線などを使わずとも相手船が自船の詳細な情報を把握しやすくする。 一般的な船は時速12ノット(1ノット=約1.8キロ)ほどだが、「第六はる丸」は外洋などでは時速20ノット以上のスピードで走ることができる。三浦半島と房総半島に挟まれた東京湾の「浦賀水道航路」は12ノット以下など、標識のない海上にも速度制限はあるようだ。

■24時間365日稼働する港の管制室へ

一行は再びバスに乗車し、国際条約「SOLAS条約」(海上人命安全条約)で一般の立ち入りの制限がされた千葉中央ふ頭コンテナターミナル付近の区域を移動。中央ふ頭H岸壁にある千葉港信号所へと向かった。 東洋信号通信社は、船舶の航行の安全と港の効率的な活用のために設置されているポートラジオの運営事業を行っている会社。同事業を全国的に展開する日本唯一の会社として、港湾関係者の中では広く知られた存在だ。

1964年に初めて東京湾で開設され、現在は全国に広がったポートラジオは、関係各所から船の入出港の情報を収集し、その情報をもとに港の効率的な活用と船の安全な入港・出港をサポートすることが主な役割。 同社は全国の港湾管理者からその運営業務を受託し、1969年に千葉県が免許人となって開設された千葉ポートラジオも設置当初から同社が運営している。現在は12名の社員が2交代のシフト制で24時間365日の体制で働いているという。

船のスケジュールは海況や気象などさまざまな条件で差異が生じ、港での荷役の手配や準備などにも変更が生じる場合がある。 千葉ポートラジオでは双眼鏡やレーダー、AISなどさまざまな機器も使いながらリアルタイムで状況を確認し、関係各所へ正確な情報を共有。トラブルが起きやすい船の離着岸時の詳細な状況や、荷役作業の進捗を確認することなどもあり、英語力が必要な業務のようだ。

また、千葉港目前の千葉航路には管制信号があり、千葉港へ入出港する船は基本的に自由信号・入港信号・出港信号という3種類の管制信号に従うが、小さな船は信号に関係なく自由に入出港ができる。そのため港の状況を的確に把握して、船の安全な入出港を支援することが大切なのだそうだ。 無線通信の特性として、通信距離内でチャンネルを合わせれば誰でも聞けるというメリットがあり、地震などの災害時でも一斉に近隣の船へ情報を伝えられることが無線の強みだという。

管制室から港の状況や実際の仕事の様子を見学した参加者たちは、最後に出発地の千葉ポートタワーへ移動。アクアラインやスカイツリーも一望できる4階ビュープロムナードで解散となった。

千葉中央地区では、船舶の大型化や貨物の置き場であるヤード不足などに対応するため、平成30年11月に港湾計画の改訂を行い、2030年前半を目標に土地造成を含む埠頭の再編成が計画されている。千葉中央ふ頭と出洲ふ頭の間の水域を埋め立て、大型化する船舶に対応できるように岸壁増深・延伸を実施し、荷役作業のさらなる効率化を図るという。