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大谷翔平選手の記録として、ホームランの数字ばかりに注目が集まるが、首位打者も狙える位置にある。これは数年前では考えられなかった進歩の1つだ。今回は、大谷選手の打率の向上の秘訣を探るとともに、首位打者を争うライバルとの相違についても着目していく。(文:島倉孝之)
大谷翔平のこれまでの打率推移
以下が現地時間2024年8月10日時点でのナショナルリーグの打率ランキング。驚きの目を向ける人も少なからずいるのではないか。
1.ルイス・アラエス(サンディエゴ・パドレス):.302
1.大谷翔平(ロサンゼルス・ドジャース):.302
3.ジュリクソン・プロファー(サンディエゴ・パドレス):.300
2年連続で首位打者を獲得、昨季はMLB全選手最高の打率.354を記録し一時「4割達成なるか」と騒がれた巧打者のルイス・アラエス選手にひってくする打率、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手が1位に立っているのだ。
大谷選手に対してホームランのイメージを持つ人は多いが、打率のイメージはあまりないと思う。そのイメージがいい方に覆されつつある。
今回は、首位打者を争うまでになった大谷選手の打率向上の秘訣について焦点を当てるとともに、首位打者を争うアラエス選手との違いについても分析していく。
MLBデビュー以降、大谷選手の打率は以下に推移した。
2018年:.285 2019年:.286 2020年:.190
2021年:.257 2022年:.273 2023年:.304
2024年:.302(8月10日終了時点)
初めてシーズンMVPを獲った2021年の打率は2割6分にも満たない。当時は「三振かホームランか」というイメージもあった。その大谷選手は、年々打率を上げ2023年に初めて3割を超え、現在に至っている。
もう“引っ張り警戒“シフトでは抑えられない…
以下、米分析サイト『Baseball Savant』のデータをもとに、2021年と2024年の大谷選手の安打の打球方向を比較した。図の下段は、米分析サイト『Baseball Reference』による3方向別の打球の構成比や打率である。
両年の経過試合数の差を差し引いてもなお、2021年と比べて2024年の方がレフト方向の安打(赤)や、バックスクリーン付近の本塁打(緑)が多くなっている。
また、この2時点でライト線の安打が減少した代わりに、右中間の安打(黄)は増加している。『Baseball Reference』での数字上は、センター方向の打率は1割近く、レフト方向の打率は3分近くそれぞれ上昇している。
ライト方向の打率は、全体では低打率だった2021年の方がむしろ高い。なお、上記の方向別の打率には三振は含まれない。2021年は全体の打率に比べ方向別の打率が高く見えるのはそのためである。
2021年、2024年のコース別打率の変化をみると、ど真ん中、真ん中低めのストライクの打率が1割以上向上しているほか、内角低めは5分以上、外角高めや外角真ん中は5分近く向上している。甘いコースを確実に安打にできるようになったほか、安打にできるコースが全体に広がっている。
以上からは、安打の方向性がセンターから逆方向に広がるとともに、安打にできる投球コースが広くなり、真ん中付近を確実に安打にするようになったことが、大谷選手の打率の向上に直結している可能性が高い。
2年連続首位打者は“さすがの技術”
以降は、アラエス選手の打球に関して、大谷選手と同様に分析していく。
アラエス選手は、現地時間8月4日終了時点で、平均バットスピードがMLB最低の62.9mph(約101.2キロ)でありながら、スクエア・アップ率(バットスピードと球速からの理論上の最大打球速度に近い打球を打てた割合)がMLB最高の43.9%であるという特殊なスイング特性を持つ。スイングの遅さを芯に当てる技術でカバーしているイメージだ。
そのアラエス選手の2023年、2024年の安打の打球方向は以下のようになった。
あらゆる方向に安打を打っていることには変わりないが、2023年に比べ打率を落している2024年は、打球の飛距離が低下して短い距離の安打が目立つ感はある。2時点間の数字を比較すると、割合の増加したライト方向の打球の打率の低下幅が最も大きくなっており、2024年はどの方向も大谷選手の打率より低くなっている。
コース別の打率をみると、2024年は前年に比べ、ムラがある。真ん中の高低は数字を伸ばしたが、その他のストライクゾーンは軒並み数字が低下した。
ストライクゾーン内に関しては、ど真ん中、外角真ん中、外角高めといった、大谷選手が得意としているコースをむしろ苦手にしているように見える。一方、外角高め、内角低めのボール球で4割を超える打率を残している。
大谷、アラエス両選手の打撃内容を比較すると、打率の数字は似通っていても打撃内容は大きく異なっている。その元をたどれば、アラエス選手のスイングの特殊性に起因するのかもしれない。
一方、今年2024年は、アラエス選手の打撃に首位打者を獲得した前年ほどの安定性はなく、大谷選手の方がむしろ安定しているように見える。
そして、今年のナショナルリーグは全般に打率が低く、8月4日終了時点ではいわゆる3割打者が5人だけだ(※)。この中で、毎年打撃を進化させ、今季は全般に波の少ない打撃を続けている大谷選手にとって、2024年は格好の首位打者獲得のチャンスでもある。
(※:小数点第4位を四捨五入で切り上げた結果ちょうど3割になる1人を含む)
歴代の日本人メジャーリーガーの中で、シーズン終了時に規定打席に達して年間3割を超える打率を残したのは、2023年の大谷選手以外には、イチロー氏、松井秀喜氏だけだ。
まして、両氏が活躍していた時代に比べ、現在は投手のレベルの向上や守備シフトの進化もあって平均打率は低下している。この環境下で高打率を残す点にも大谷選手の価値の高さがあることは忘れてはならない。
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【了】