ラーメンチェーン社長が京都産メンマ製造で竹林問題に挑む
2024年7月8日、京都市に本拠地を置くラーメンチェーン「キラメキノトリ」4店舗で、「京都産メンマプロジェクト」で作られたメンマの提供が始まった。店によると、初日に来店したお客さんのほとんどが、京都産メンマのラーメンを注文したとのこと。「今まで食べていたメンマよりシャキシャキした食感でおいしい」といった感想も聞かれ、評判は上々のようだ。
この京都産メンマは、関西でラーメンチェーン店を運営する「キラメキノ未来株式会社」が製造したもの。京都府内で収穫された幼竹を、伏見(ふしみ)区の本社に併設されたセントラルキッチンで加工した。
同社は、2013年4月に京都市上京区にキラメキノトリの1号店をオープンしたのを皮切りに、現在20店舗まで拡大。京都を中心に大阪、奈良、滋賀にも進出している人気ラーメンチェーンである。看板メニューは「鶏白湯(とりぱいたん)らーめん」と「台湾まぜそば」だ。
それまで同店で使っていたメンマは外国産だったが、それをすべて京都産に切り替えるために社長の久保田雅彦(くぼた・まさひこ)さんが「京都産メンマプロジェクト」を立ち上げ、実現にこぎつけた。
久保田さんが、国産メンマづくりに取り組むきっかけはなんだったのだろうか。
「2023年の8月に知人を通じて、京都府向日(むこう)市の放置竹林問題に取り組んでいる市民団体『籔の傍(やぶのそば)』の代表の方をたまたま紹介されました。その方に放置竹林が問題になっていると聞いたんです。そのとき、代表が家で作って持ってきてくれたメンマを食べさせてもらったところ、シャキシャキした食感で、とてもおいしくて感動しました」(久保田さん)
この出会いにより、久保田さんは幼竹でメンマを作ることが竹林整備に役立つことも知った。そこで、まず一歩を踏み出さないと何も始まらないと考え、すぐさま行動に移すことにした。
さっそく久保田さんは、そのメンマの材料となる竹を見ようと、向日市の竹林を訪れた。そこで籔の傍の代表に会った時に聞いていた放置竹林問題の深刻さを目の当たりにし、ラーメン屋としてこの問題を解決するにはどうすべきか考えたという。そこで思いついたのが、現在主流となっている外国産メンマを国産メンマにいち早く切り変えること。それが京都の竹林を守ることにもつながるはずだと考えた。
久保田さんは、すぐさま国産メンマづくりを決意し、2024年2月に籔の傍と共に「京都産メンマプロジェクト」を立ち上げる。メンバーには籔の傍の代表の知り合いで竹林管理をしている人やタケノコ農家、京都の八百屋など、約20人が集まった。その後、京都各地のボランティアで竹林整備をしている人ともつながり、ネットワークが広がった。
「純国産メンマプロジェクト」に出会い、製法を学ぶ
しかしこの時点で久保田さんはまだ幼竹を見たことがなかったという。
「幼竹が収穫できる2024年の4月からメンマづくりをスタートしようと計画したのですが、材料となる幼竹がない冬場では、メンマづくりを練習することができません。作り方を学ぼうと探していたときに、フェイスブックで福岡の糸島市で国産メンマづくりの農家向けの説明会があるのを見つけて参加しました」(久保田さん)
久保田さんが糸島市で参加した説明会を主催していたのは、荒廃竹林対策の一環で幼竹を利用したメンマづくりに着目し、活動の輪を全国に広げている「純国産メンマプロジェクト」代表の日高榮治(ひだか・えいじ)さんと、同プロジェクトのメンバーで、糸島市で放置竹林問題に取り組み、飲食店を経営する傍ら国産メンマを製造している古賀貴大(こが・たかひろ)さんである。
「京都から来たということで、お二人は喜んで迎えてくれました。お二人は私のメンマづくりの師匠です」(久保田さん)
そして幼竹が収穫できるようになった2024年4月から、久保田さんは京都産メンマプロジェクトのメンバーと共に京都産メンマづくりを開始した。場所は、キラメキノトリで使うスープや自家製の麵を加工するセントラルキッチンだ。そうした設備が整っていたことも京都産メンマづくりのスタートを後押しした。
幼竹を高く買うことで、竹林整備を農家の収益に
地上に1メートル以上伸びあがった幼竹も節を切れば軟らかく、おいしいメンマになる。その幼竹を久保田さんは竹林整備をする人やタケノコ農家から買い取ることにした。久保田さんによれば「キラメキノトリ20店舗のメンマをすべて国産に切り替えるだけでも年間約4000本の幼竹を買い取ることができる」そう。2024年の買い取り価格はサイズによって1本700円から1000円だ。
「メンマづくりを継続していくためにはタケノコ農家の収入が増えることが大事だと思っているので、幼竹はできるかぎり高く購入したいんです。今年は最高で1本1000円でしたが、今後は1500円とか2000円で買えるようにしたいと考えています」(久保田さん)
幼竹は蹴飛ばせば折れるほど軟らかいので、収穫は比較的楽だ。竹林の所有者にとっても買い取ってくれるところがあれば収益にもなり、放置竹林問題の解決につながる。久保田さんは京都府南西部にある精華町に幼竹の集約場所を設け、納品希望者に持ってきてもらうようにした。その集約場所で、精華町の農家に皮むきとカットの1次加工をしてもらった後、セントラルキッチンに運んでもらう。この1次加工の代金も高く設定したいと久保田さんは言う。
八幡市で80代の同級生が5人集まって竹林整備のボランティアをしているという男性は、この春プロジェクトに参加して幼竹を納品した。「僕らの生きがいができました。来年は、今年の2倍は幼竹を納めることができるようにしたい」と、はりきっているという。他にも竹林を持っている人たちから納品希望があり、問い合わせも多数寄せられているそうだ。
メンマは外国から買うものではなく、国内で作るものに!
1次加工を終えた幼竹は、セントラルキッチンでラーメン用のメンマのサイズにカットし、塩漬けして真空包装する。真空なのでカビの生える心配もない。2カ月後、メンマの塩抜きをし、キラメキノトリオリジナルの味付けをして完成である。
プロジェクトの初年度となった2024年、作れたメンマは700キロほど。久保田さんは来年以降、さらにメンマの生産量を増やしていく意向だ。
「7月8日から店舗で京都産メンマの提供を始めたのですが、このままいくと、1、2カ月でなくなりそうです。来年は倍の1500キロを作るために収穫期間中に幼竹の買い取りセンターを設置して、買い取りをしようと考えています。そこで皮むきなどの1次加工をしてもらい、うちのセントラルキッチンに納入してもらうシステムにする予定です」
さらに久保田さんは、京都産メンマプロジェクトの社会的意義についても認知を広げようとしている。
「ラーメンを食べに来てくれるお客さんにも京都産メンマの良さを実感してもらって、食べて社会貢献できるということを広めていきたいです。他のラーメン店にも京都産メンマを広げていければと思っています。ラーメンに入れるメンマだけでなく、メンマだけの加工品も作っていく予定です」(久保田さん)
実際、京都のラーメン店や京都の企業からの問い合わせも多いそうだ。京都中のラーメン店が京都産メンマを使う日が来れば、ますます需要が高まる。そうなれば、メンマの原料となる幼竹の商品価値が上がり、タケノコ農家の利益も増える。メンマづくりが放置竹林問題を解決する日も近いのではないだろうか。