7月22日から28日の肝臓週間に合わせて、アストラゼネカがメディアセミナー「肝がんの今 ~生活習慣を見直せば、肝がんは防げる!?~」を7月17日に開催した。

2020年における肝がんでの死亡者数はおよそ2万5000人で、がん部位別の死亡者数として6番目に多いがんとなっている肝がん(肝細胞がんと肝内胆管がん)。

最近の肝がんの潮流である生活習慣に紐づく肝がんの実情、今後の課題や対策について講演やパネルディスカッションが行われた。

■非ウイルス性の肝がんの割合と人数が増加

本セミナーでは、「肝がんを知る ~患者調査結果からみる最新動向と予防・治療の現状~」と題し、国立がん研究センター中央病院肝胆膵内科長・奥坂拓志氏による講演が行われた。

「肝がんは原発性と別の臓器にできたがんが肝臓に転移して発生する転移性に大きく分けられ、原発性肝がんの中で約9割を占めるのが、本セミナーの主なテーマである肝細胞がんは原発性肝がんです。脂肪肝や肝硬変といった慢性肝疾患を持つ方に多く、これまで脂肪肝や肝硬変の多くは、肝炎ウイルスが原因でした。非常に治療が難しく、根治治療を行っても再発を繰り返す可能性が高い病気です」

多くのがんは5年経つと、部位別5年相対生存率(2009年-2011年診断例)の数値が安定していく一方、肝がんは4~5年経っても再発することも多く、「一生付き合わなければいけない病気」と言われているという。

「肝がんの5年相対生存率は35.8%で、膵臓がんは8.5%とさらに低いんですが、肝臓がんは5年目以降もまだまだ下がっていき、10年になると膵臓がんにかなり近い数字になります。ただ、最近の数字で死亡率は男性・女性ともに下がってきています。他のがんも緩やかに減少傾向にあるんですが、肝がんの下がり方は顕著です。これまで肝臓がんの原因として最も多いのがC型肝炎、次いでB型肝炎が多かったんですが、とくに最近はC型肝炎が減ってきているため、全体が引き下げられています」

また、生活習慣が原因となる非ウイルス性の肝がんの割合と人数が増えていることが、最近大きな問題になっていると紹介。アストラゼネカがこの7月に発表した「肝細胞がん患者調査レポート」のアンケート結果を示した。

「診断時期が昔の方ほどC型・B型肝炎のウイルスに罹患した方の割合が高いんですが、最近はそれが逆転し、B型・C型肝炎罹患歴のない方の割合のほうが高くなっています。C型肝炎が大きく減ってウイルス性肝炎ではない患者さんが増えているという、世界的な傾向を反映しています。抗ウイルス治療の普及など医療が発達し、ウイルスコントロールが進化してきたことで、C型だけでなく現状では横ばいのB型肝炎も今後は徐々に減ってくると予想されています」

■ALT値が 30を超えたら精密検査を

非B型・C型肝炎の代表的な背景疾患となっているというのがアルコール性の肝疾患と、非アルコール性の脂肪性肝疾患だ。

「脂肪肝の患者数は日本で3000万人、三人に一人が罹患しているとの報告もあり、健康診断を受けた人の2~3割に脂肪肝があるとも言われています。とくに肥満の方や糖尿病の方は注意が必要です。肝機能の数値が基準内でも肝炎が進行しているかもしれません。血液中のALT値の高さは肝障害を反映します。ALT値が30を超えたら、まずはかかりつけ医を受診して精密検査を受けましょう」

治療の難しい肝臓がんだが、ステージが若いうちに早期に発見できれば、その後の治療でも良い結果が期待できるという。

「肝臓がんになってしまった場合の治療方法は肝臓のはたらきと、ステージで治療方法がほぼ決まります。肝細胞がんの治療は手術による切除、ラジオ波焼灼療法やエタノール注入療法といった穿刺局所療法といった治療法しかありませんでした。しかし2010年以降は技術の進化で、分子標的治療薬や放射線治療といった治療法が可能になってきました」

分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬など、この10年間で肝臓がんに効く新薬が次々と日本でも薬が使えるようになり、その副作用のマネジメントも重要になってきている。

先のアンケートでは薬物治療を行った患者の6割が肝細胞がんの治療期間中、自宅などの病院外にいる際に体調の変化や症状を経験した何らかの症状を経験。薬物治療経験者にそうした症状を「治療中の症状の経験とその症状を医療従事者に伝えたか」との質問には、72%が「次の診察日を待って通院した際に伝えた」と回答したことが明らかになった。

講演後には、国立がん研究センター中央病院薬剤部の寺田公介氏も加わり、「変わってきた肝がんにどう立ち向かうか」をテーマにしたパネルディスカッションを実施。寺田氏は「短い診察の時間で日々の些細な体調までお話しするのは難しい面もあると思いますので、そういう時には薬剤師、看護師、事務の人にでもまずはお話してほしいです。とくに薬剤師は服薬指導で長く患者さんと関わることもありますので、些細なことでも気軽にお話しいただければと思います」と語っていた。