PassCodeが新章突入 レーベル移籍、海外ツアー、成長と葛藤を南菜生が語る

PassCodeがレーベル移籍を果たした。新しい所属レコード会社はBandai Namco Music Live内に新設されたレーベルMoooD Records。通常の移籍と異なるのは、ここがバンダイナムコエンターテインメントの系列会社で、アニメ系のタイアップにめっぽう強いということ。実際、移籍後1stシングルとなる「WILLSHINE」はTVアニメ「SHY」の第2期オープニング主題歌に選ばれ、すでにオンエアがスタートしている。

 

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現在のPassCodeはライブ面においてもトピックが多い。つい先日行われた主催イベント「VERSUS PASSCODE」では、人気と実力を兼ね揃えた青春パンクバンド・ハルカミライを迎えて一騎打ち。そこで彼女たちは過去一番ではないかと思うほどの爆発力を発揮し、結成10年を越えてもなお成長を続けるグループの勢いを見せつけた。8月からは「PassCode Undo→Step TOUR 2024」を開催するが、これは急遽会場を押さえて行うことになった全国14箇所15本に及ぶイレギュラーなツアー。元々、同時期に複数のバンドとともに全米22都市を回るツアーが計画されていたのだが、主催側の都合によってリスケとなり、それに対応する形で国内ツアーを組むことになったという経緯がある。ツアーの延期は非常に残念だが、現地のプロモーターから声がかかったという事実は大きい。これは昨年9月に彼女たちが敢行したアメリカツアーの副産物と言える。さらに、国内ツアーのあとには6年ぶりとなるアジアツアーが決定。にわかにPassCodeの海外活動が活発化しつつあるのは、ファンにとっても夢のある、非常にうれしい展開だ。

 

こういったポジティブな状況を迎えているのは決して偶然ではない。これは、これまでの活動に甘んじることなく、さらに一歩も二歩も前へと踏み出すことを決断したグループの意志が生み出したものだ。ではここ数年、PassCodeは一体どんな時間を過ごし、何を考えていたのだろうか。

今回、グループのスポークスパーソンでもある南菜生に話を聞くことになったのだが、今のPassCodeを語る上でいつまで時を遡る必要があるのか考えた結果、2022年2月、コロナ禍まっただ中に行われた日本武道館公演から振り返ることにした。あの公演が彼女たちに残したものはなんだったのか南に尋ねたところ、実はポジティブなことばかりではなかったという回答が返ってきた。

 

「あの日はファンの人たちもすごく喜んでくれて、ライブも最高でめちゃくちゃいい日だったし、やってよかったと思ってるんですけど、アイドルが武道館に立つと目標がひとつ達成された感が出ちゃうんですよ。だから、もしあのタイミングで武道館をやってなかったとしたら、今もファンの人たちと一緒にシーンを駆け上がる感じを出せてたんかなって。あのライブがあったのはちょうど緊急事態宣言が出たりした時期で、当日は親さえも観に来ることができなかったけど、それでも会場まで駆けつけてくれた人や、『行けないけど応援してるよ』って言ってくれた人たちがいて、そのことにはすごく感謝してるんです。でも、PassCodeの活動を応援するのは一旦ここで完結、みたいな感じの人も多かったように見えていて。当然、私たちの人生の物語はPassCodeとして今もずっと続いているから、そういう意味での違和感はずっとありました」

 

たしかに、PassCodeは武道館をグループのゴールとして認識していなかったし、この先も当然のように活動を続けるつもりだったが、SNSでは武道館を機にPassCodeは解散するのではないかという噂が流れていたことを覚えている。彼女は続ける。

 

「PassCodeをここまで応援してきてよかったってたくさんの人に思ってもらえたことはすごくうれしかったけど、ライブに関して私が感じてることってちっちゃいライブハウスでもZeppでもあんまり変わんないんです。ライブができることはいつだって楽しいし嬉しい。だから、武道館に関してもライブを観に来てくれる人が多いバージョン、みたいな感覚が強くて。日本武道館って多くのアーティストが目指す場所だと昔から言われているからこういうことはずっと言いづらかったけど、私たちにとっては武道館だけが特別だったわけじゃないから、そこがゴールっぽく見られることがしっくりこなくて。実際、武道館以降のライブはグループの”余生”としてやってるように見られることが今も多いんです」

南 菜生

武道館後の「変化」とは

しかし、その後のライブパフォーマンスは武道館までのものから微妙に変化していた。武道館公演から約3カ月後、大阪城音楽堂で行われたワンマンライブ後、長年にわたって彼女たちのライブを支えているPAスタッフから言われたひと言に彼女はハッとした。

 

「『武道館が終わって目標がなくなったから、それがライブにも出ちゃってる』って。自分たちとしては観に来てくれた人たちに楽しんでほしい、ライブができて嬉しいっていう気持ちで臨んでいたけど、確かに武道館にたどり着くまでの雰囲気と違うというか、ピリピリ感がないというか……ファンに喜んでもらいたいっていう気持ちのほうが強くなっちゃってたんですよね。そのことに気づいて、『ライブに対するスタンスがちょっと変わっちゃったのかな、これはよくないな』って」

 

そこで南は自分自身を見つめ直し、これまでよしとしていた環境に変化を加えることにした。具体的にいうと、イヤモニの設定を変えたのである。PassCodeのボーカルはオートチューンがメインなのだが、南はこれまでイヤモニには自分の生声を返していた。しかし、バンドマンの仲間に相談した結果、イヤモニにもオートチューンの声を返すことにし、そのおかげでやりやすさが増し、自身のパフォーマンスが大きく向上した。頻繁にライブを観ている観客にでさえ伝わりづらい変化ではあるが、彼女にとっては非常に大きな出来事だった。さらに、世の中的にコロナ禍による規制が徐々に緩和されていったこともあり、南はスランプから脱却することになる。

 

しかし、PassCodeに対する世間の目は依然として変わらなかった。武道館まで到達して”アガリ”を迎えたグループ――PassCodeの成功を”最後まで”見届けたというアイドルファンは多かった。その認識をひっくり返して再び注目を集めることは容易ではない。そんなときにPassCodeに届いたのが、自身初となるアメリカツアーの話だった。しかし当初、彼女はあまり乗り気ではなかった。

 

「PassCodeの曲は、すごく重たい音楽が好きな海外の人にとっても耳馴染みがいいっていう自負はあったけど、PassCodeはライブ中に自分たちの思いを言葉で伝えるということを2016年にメジャーデビューする前からずっと続けてきたグループやったし、ほとんどのメンバーがそんなに英語が上手じゃないっていうこともあって不安で。でも、グループって挑戦し続けないと衰退していくだけじゃないですか。だから、今までやってなかったことをやろうということでアメリカに行く決断をしたんです」

 

彼女たちの不安は杞憂に終わった。ダラス、ニューヨーク、ロサンゼルスの各会場には現地の熱心なファンが大勢集まり、ライブ後には盛大なPassCodeコールが起こった。3都市3公演という短いツアーではあったが、チーム全体が欧米での活動に大きな手応えを感じるには十分すぎる結果だった。

 

「ステージをしっかり観て、音楽を聴いて、体を揺らして、こっちが手を振ったらお客さんも同じように手を振ってくれて、っていうことがアメリカのライブでは起こらないと思ってたんですよ。しかもみんな、日本人のアーティストが来たからなんとなく観に来てるんじゃなくて、ちゃんとPassCodeの曲を聴き込んでくれてたし、私たちがライブしに行くことを楽しみに待っていてくれていたのが伝わってきたんです。それって日本でのライブと変わらないじゃないですか。このツアーを通じて、海外ツアーに対する考え方とかやり方が自分の中で大きく変わりました」

 

4人がレーベル移籍の話を聞いたのは渡米前、SUMMER SONICの会場でのことだった。意外なことに、彼女たちは悩むことなくあっさり移籍にOKを出したという。「交わした言葉はふた言ぐらい。『北田さんも行くの? それやったらOK』って」「北田さん」とは前所属レーベルで長年にわたってPassCodeのディレクターを担当してきた北田大氏のこと。以前から北田氏とメンバーの間ではこんな会話が交わされていたという。「北田さんが別のレコード会社に移籍するんやったらPassCodeも連れて行ってくださいよ、逆に私たちが移籍したいって言ったら一緒についてきてくれるんですか? お願いしますよ? みたいな話は前から軽くしてたんです」

 

ちなみに、北田氏だけでなく、PassCodeとチームの結びつきは強い。「結局、どこでやるかじゃなくて、誰とやるかなんですよ」と南は言う。バンドメンバーとの団結力も日に日に増している。PassCodeのバンドメンバーは固定ではない。スケジュールによってメンバーの顔ぶれが変わることも多いが、今のPassCodeにとってそれは大きな障害にはならない。

 

「以前は、バンドメンバーが1人違ったらその日のセットリストの曲をリハで全部確認しないと不安だったけど、今はライブ当日にバンドメンバーがいつもと違うことを知ったとしてもリハで何曲か合わせれば十分だし、急にセットリストが変わったとしても対応できる。PassCodeがつくり上げていきたいと考えてるものがバンドメンバー間でもしっかり共有されてるから、ブレが少ないんですよ。すごくやりやすいです」

 

話を戻す。レーベル移籍を果たしたものの、制作陣の顔ぶれは一切変わらず、シンプルに新たな仲間が増えた。「新しいレーベルのオフィスに何回か行かせてもらう中でいろんなスタッフの方々と挨拶させてもらったんですけど、そのときに『来てくれてありがとう! がんばろうね!』って声をかけてくれたりして、すっごいあたたかい雰囲気だったんですよ。だから、これからもっと関わりが深くなっていくのが楽しみですね。すごくうれしいです」

高嶋 楓

移籍第一弾シングル「WILLSHINE」への想い

移籍第一弾シングルとなる「WILLSHINE」は、これまでと同様にPassCodeのサウンドプロデューサー平地孝次が作編曲を手掛けている。疾走感があり、爽やかでメロディアスなナンバーだが、ここまでストレートに展開する楽曲は久しぶりだ。とはいえ、そこはPassCode。現在「SHY」でオンエアされているパート以降は、有馬えみりの咆哮がこれでもかと唸りをあげているだけでなく、キュートなラップやPassCodeとしては珍しいセリフパートも挿入され、正統派に見せかけながらも豊富な仕掛けが待ち受けている。

 

「今年に入ってからけっこうレコーディングをしていて、どれもいい曲なんですよ。平地さんとも『最近、めっちゃ調子よさそうですね』『そうやろ?』みたいな話をしてたぐらい。けど、『WILLSHINE』はその中でも一番最近つくった曲で、それまでに録った曲とは違った雰囲気のものにしないといけないからさすがに大変だろうと思ってたらわりとスムーズに出来上がって、『やっぱ、平地さんって天才なんちゃう?』って平地さんにLINEしたら『せやろ? 最高やろ?』みたいな(笑)。正直、アニメのタイアップとなるといつものPassCode節は出されへんのかなってちょっと不安に思うところもあったんですよ。けど、この曲はアニメサイズではPassCodeの光の部分がフィーチャーされていて、私が『SHY』を観てそこだけを聴いたらカラオケで歌いたいって思うぐらいいいメロディなんですけど、一曲とおして聴いたらあまりの展開に驚愕してマイク投げ捨てちゃうと思う(笑)。そういう意味ではPassCodeファンの方に安心してもらえる曲になったと思います。新しいことはやってるけど、それでも『変わらんな』って」

 

活動環境が変わった今、彼女たちが目指しているものはなんなのだろうか。

 

「PassCodeを好きな人たちだけで埋め尽くされている大きな会場でライブがしたいです。PassCodeはライブハウスをメインに活動しているグループやけど、ホールみたいな大きなステージにも立てる存在でありたい。ひとつ、武道館に関して悔しかったことがあって、武道館の半年前ぐらいに私の父が大動脈解離になって一時は命の危険があるような状況だったんです。だから、コロナが流行ってる中では絶対にライブなんて観に来れなくて。それと同じように、あの頃はみんなそれぞれ背負うものがあって、特に医療関係の仕事をしてるファンの子からは『どうしても行きたかったけどまた新株が出ちゃったから行けなくなった』っていうDMをもらったりもしてたんです。だからそういう人たちのためにも、PassCodeは関西のグループやし、次は大阪城ホールでやりたいっていう話はしてます。でも、やりたいって言うのは簡単やから、現実的にどうやったらそこに立てるのか考えないといけない。PassCodeと同じように激しめな音楽をやってるバンドの話を聞くと、やっぱりコロナ禍以降、どこもライブの動員がめっちゃ落ちてるらしいんですよ。PassCodeも停滞していて、それはある意味安定しているということでもあるんですけど、今の状態で城ホールを目指すというのは難しいんですよね。ずっと私たちについてきてくれる人たちはもちろんいるけど、途中でリタイアしちゃう人もいるわけじゃないですか。それを上回るぐらいたくさんの人にPassCodeのことを知ってもらわないと結果としてマイナスになっちゃう。でも、PassCodeってなかなか入っていきづらいグループやと思うんです。音楽性もそうやし、グループのカラーもすでに確立されてるし。それに、新しいグループに比べて、10年以上続いてるグループを応援するのは面白味がないっていうこともわかってるんですよ。それでもPassCodeと一緒にどこまでも行きたいっていう人を増やしていかないとなって……私、アイドル側が言う『推しは推せるときに推せ』っていう言葉がすごく苦手で、『私たちはいつでもライブハウスにいるから気が向いたときに来てね』っていうスタンスでいるんですけど、それだけじゃダメなんですよね。難しいなと思う。悩み中です」

 

たしかに、PassCodeの活動は安定している。だからつい忘れてしまいがちだが、アイドルグループが10年以上にわたってシーンの最前線に立ち続けるというのは非常に稀なことだ。しかも、PassCodeが所属するのは大阪・堺に居を構える、何の後ろ盾もない小さな事務所。ほぼライブの力のみで今の活動をキープしている。南は今、今後の活動について悩んでいる最中だと言うが、活動を長く続けるというのはそれだけで素晴らしいことだと思う。今では珍しくないが、MCで自分の胸の内を熱く語るというスタイルは数年前のアイドルシーンにおいて南の専売特許だった。かつては過剰に強い言葉を使ったりもしていたが、今はより自然体になっている。そんな筆者の感想を受けて、彼女は振り返った。

 

「昔は本当にギリギリの状態でステージに立ってたから、みんなに向かって思いを伝えながら、自分に対しても頑張れ頑張れって言ってるような感覚でした。でも今は、純粋に誰かを幸せにしたいという気持ちをストレートに伝えることができてると思う」

 

それはやはり、年齢を重ねたことが大きいという。

 

「年齢を重ねるたびに話せることが増えてすごく楽しいんですよね。だから、今は歳をとることに抵抗がない。歳を重ねるとアイドルを続けることが難しいっていう話はよく聞きます。でも私は、もちろん自分のことをアイドルだと思ってはいるけど、30歳になっても、35歳になっても、40歳になっても、今以上に話せること、表現できることが増えるのかなって思うとすっごいワクワクする。これって幸せなことだなって思う。昔は『もっとロックしてないと』みたいに思うこともあったけど、今は人として柔らかくなった気がします。ステージに自分という人間がそのまま立ってる感じ」

 

そう、今のPassCodeはオンステージとオフステージの差が限りなくゼロ。楽屋でのテンションのままステージに向かっている。気持ちのスイッチの切り替えが見えないのだ。そういう意味でPassCodeは、もはや偶像(アイドル)ではなく、生身の人間として己を舞台でさらけ出していると言える。これは長年活動を続けてきたからこそ辿り着いた境地だ。

大上 陽奈子

 

自分たちの力で状況を変えてきたという自負

しかし、前述のとおり、PassCodeの悩みは尽きない。いまだに偏見の目で見られることが多い。アイドルはオトナにやらされているもの――。だから、恒例の対バン企画「VERSUS PASSCODE」を組むのもひと苦労だという。まず、どういう気持ちでPassCodeをやっているのか、どういう想いをもってステージに立っているのかを対バンを希望するバンドのメンバーに南が説明し、いざ対バンが決まれば、日時や会場についてまずは彼女からバンドへ直接確認の連絡をする。初手の段階ではできるだけ事務所を挟まず、ストレートに己のアティチュードを示し自分たちに対する偏見を払拭することでイベントが成立し、毎回とんでもない化学変化を起こすのだ。こういった行動も、回を重ねるごとに南自身が必要だと感じて動いた結果だ。

 

だからこそ、南はPassCodeのことだけでなく、現在のアイドルシーンについても気に掛けることが多い。

 

「アイドルと呼ばれる形態のグループって、いまだに自分の意見が言いづらかったり、オトナから言われたことをやったりすることが多いけど、自分の納得いく形でグループを進めることができれば、人生はより豊かになると思うんです。そういうグループが増えてほしいなって思う。PassCodeはアイドルだ、アイドルじゃないみたいな話は今でもあるけど、少なくともアイドルとしての可能性を広げてるグループではあると思うから、PassCodeは別だとは思ってほしくないし、ああいうやり方をすればそうなれるんだ、みたいな目標にしてもらえたらなって。実際、『それができるのは菜生さんだからですよ』って言われることも多いけど、私だって最初からこんなことができたわけじゃないんですよ。何年もかけてスタッフやチームの人間との関係を構築したからこそ話を聞いてもらえるようになったし、自分たちのやりたいことを諦めなかったからこそ、今、こうなれてるんだと思う」

 

さらに踏み込んで南は語る。

 

「今、アイドルって簡単に始められるし、お金もある程度稼げるようになっているけど、たとえば、18歳でアイドルになった子が28歳になったときのことまで想像してその子の人生考えてる?ってオトナに対して疑問に思うことがすごく多い。私はもちろん運営側の人間ではないけど、PassCodeのメンバーに対してもそういうことは常に意識してて。もし、いつかPassCodeの活動が終わる日が来てメンバーが第二の人生をはじめるとして、どこかのレーベルとか会社から『この十数年、あなたは何をやっていたんですか?』って聞かれたときに、『PassCodeというグループをやってて……』ってそれまでの活動の長さに見合った充実した人生を送ってきたって胸を張って言えるようなグループ活動をしたいんです。それが自分の中にあるPassCodeとしての目標のひとつ。だから、そういう意味でもまだまだ終われないんですよ。もちろん、自分ひとりの力ではどうにもできへんけど、アイドルグループにもメンバーが主軸になって仕事を進められる形があるっていうことをたくさんの子に知ってもらいたい。そうすれば、『操り人形』っていう言い方をされないグループが増えるんじゃないかと思うし、そうなってほしいなってずっと思ってます」

 

彼女がここまで言うのは、少なくともPassCodeは自分たちの力で状況を変えてきたという自負があるからだ。

 

「やっぱり、表に出て発言をしてファンの人に信頼してもらうことができるのってメンバーじゃないですか。そのメンバー自身が納得していない仕事をしてしまうと、いざというときに自分たちが本当に伝えたかったことが伝わらなくなっちゃうんですよ。PassCodeの場合、細かいことの積み重ねによって『あの人たちがそう言ってるってことはきっと何か考えがあるんだろう』ってファンの人から信頼してもらえるようになってると思っていて。だから、PassCodeで『こんな話があるんですけど……』っていうオファーを受けたとき、場合によっては『PassCodeとしての見え方的にも、ファンの人たちの捉え方的にも私は絶対やらないほうがいいと思う』みたいなことをちゃんと言います。でも、それはチーム内でしっかりとした関係性が築けてるから話を聞いてもらえるんであって、何もない中でそれをやっちゃうとただの面倒くさいメンバーになっちゃうから、そこは難しいところではあるんですけどね」

 

正直、圧倒された。長年、筆者はPassCodeの活動を見てきてはいるが、まさか彼女がここまでのことを考えているとは思わなかった。それは彼女のことをナメていたということではなく、こんなことを考えているアイドルに生まれて初めて出会ったからだ。しかも、これはあくまでも南の視点。当然、高島楓、大上陽奈子、有馬えみりにもそれぞれの想いがあり、そういった想いのすべてを支えるチームがいることでPassCodeというグループは成り立っているのだ。

 

PassCodeはアイドルなのか、バンドなのか――彼女たちがバンド編成でライブをするようになった2016年以降、10年近くにわたって延々と議論されてきたことだ。その答えはいまだ出ていない。しかし、PassCodeはアイドルでありバンドでもあるが、今回南の話を聞きながら思ったのは、もはやPassCodeはアイドルでもバンドでもないのではないか、ということ。つまり、彼女たちはただ”PassCode”であり続けようとしているのだ。アイドルとしての方法論もバンドとしての方法論も彼女たちに100%フィットすることはない。だから、自分たちなりの正解を常に導き出さないといけない。それはイバラの道で、彼女たちはこれまでずっとそれを続けてきた。だからこそ、今のPassCodeがあるのだ。

 

リスケになってしまったアメリカツアーにPassCodeを誘ったアメリカのプロモーターと対面したときに彼が残した言葉が今も心に残っている。彼はこう言った。「PassCodeにはバックバンドがいて4人がフロントで歌って踊っているけど、たとえバックバンドがいなくても、PassCodeはこの4人だけですでにバンドだ」。彼の中にあるであろうネガティブなアイドル像を考慮して解釈するなら、PassCodeは決して誰かの操り人形ではないということだろう。その認識は正しいし、彼女たちのアティチュードが言語の壁を越えて伝わっていることに感動した。

 

南の話をすべて聞き終えたあと、妙に興奮している自分がいた。それはPassCodeの新章がはじまる予感が確信に変わったからだ。新たに始まる国内ツアーとアジアツアーで4人がどんな景色を見せてくれるのか。そして、新たな環境でどんな活動をみせてくれるのか。期待しかない。

有馬 えみり

『PassCode Asia Tour 2024』

10/10(Thu)[Beijing]To Be Announced

10/12(Sat) [Guangzhou] To Be Announced

10/13(Sun) [Shanghai] To Be Announced

10/27 (Sun) [Taipei] CORNER MAX

11/9(Sat) [Seoul]West Bridge Live Hall

11/10 (Sun) [Seoul]West Bridge Live Hall

12/17(Tue) [Tokyo] Zepp DiverCity

12/19(Thu) [Aichi] Zepp Nagoya

12/21 (Sat) [Osaka] Zepp Osaka Bayside