キャッシュレス決済の浸透が順調に進んでいる。6月22日~23日に開催された神奈川県立 横須賀高等学校の学園祭では、支払いにキャッシュレス決済サービスの「PayPay」を導入。約95%の支払いにPayPayが利用されたという。

  • 「PayPay」のスキャン支払いで料金を支払う生徒

総来場者の約95%がPayPayを利用して支払い

神奈川県立 横須賀高等学校(以下、横須賀高校)は、6月22~23日の学園祭「菖蒲祭」にPayPayを導入し、支払いを原則PayPayのみとする完全キャッシュレス支払いで運営した。

  • 6月22~23日に開催された横須賀高校の学園祭「菖蒲祭」

2日間で総来場者数・約5,900名のうち、PayPayでの決済比率は約95%に達した。残る約5%は、高齢者や子どもなどのスマートフォンを所持しておらずコード決済に対応できない人に向けて発行された「金券」だ。

  • 「PayPay」が利用できない人向けの「金券」を使ったのはわずか5%程度

生徒も来場者もキャッシュレス決済の利便性を高く評価

校門付近には「お支払いはPayPayでお願いします」というメッセージとともにPayPayの"のぼり"が掲げられ、現金決済に対応しない周知を徹底。PayPay決済が初めてという人に向け、生徒達がアプリのダウンロードやチャージの仕方、レジでの支払い方をレクチャーしていた。

  • 入り口にはPayPayによる支払いを促す大きなメッセージ

  • 受付でPayPayの使い方のレクチャーを受けられる

屋台や模擬店での支払い方法は、ユーザーがスマホでQRコードを読み取り、会計金額を入力して画面を見せ、確認が取れたら支払うボタンを押す、いわゆる「スキャン支払い」。決済端末が不要で手軽に導入できるため、小規模店舗や移動型店舗などでもよく導入されている。

支払い側の生徒らは慣れた手つきでPayPayを利用して決済を行っていく。多くの生徒がコード決済を利用しているそうで、普段はコンビニや銀行でチャージを行うか、保護者から入金を受けているという。開場当初、販売側の生徒らはぎこちない面も見えたが、来場者への対応を続ける中で使い方に慣れ、あっという間に順応していた。

  • 開場と同時に大きな賑わいを見せていた食販エリア

  • 来場者は手慣れた様子でPayPayの決済を行っていく

2年生の中村友哉さんは「現金で決済をすると小銭が増えてお釣りの管理が面倒になりますが、PayPayだと事前入金は必要になるもののその手間がなくなるので、すごいと思います。ただ高校生は普段から普段から使い慣れていますが、小さい子どもやご年配の方は『バーコード支払い』をすることはあってもスキャン支払いをする機会はあまりなく、慣れていない方が多いと感じました」と、接客時の感想を話した。

  • インタビューに答えてくれた、2年生の中村友哉さん

  • 校内展示での支払いも、もちろんPayPay

PayPay支払いは、来場者からも概ね好評だ。生徒の親世代もまた、コード決済を普段から活用してるという。

お話を伺った保護者は「いま中学3年生と高校1年生の子どもがいて、自身の買い物だけでなく、子どものお小遣いをPayPayで送ったりしています。コンビニでチャージするときもあるみたいですけど、今日は現金500円を渡されて『チャージして』と言われました」と話す。

また、「離れているときにお金が必要になっても、LINEで『PayPayにチャージして』と連絡があれば自宅でも仕事先からでもすぐに入金できるので、すごく便利だと思います」とキャッシュレス決済ならではの利点についても言及していた。

  • 1年6組「米国式喫茶店」を訪れていた保護者も普段からキャッシュレス決済を利用しているという

金融リテラシーの向上効果にも期待

学園祭でのPayPay導入の主体となったのは生徒たちだという。学園祭実行委員の角井奏介さんは「現金と比べて集金がしやすく、良い点が多いと感じました」と話す。一方で、今回は原則キャッシュレス決済のみ対応という形にしたため、チャージの手間が生じるという不便さもあったそうだ。

これを受け、同実行委員の高田菜未さんは「学校でそのまま入金できるシステムがあればもっと便利だと思います」と述べる。また、支払時の金額入力ミスによる過剰支払い、それに伴うキャンセル処理という課題もあるという。こういった問題が生じた際は、教師を通してPC側の操作が必要になってしまうためだ。

  • 学園祭実行委員の角井奏介さん(左)と高田菜未さん(右)

教員として学園祭を担当した保健体育教諭の伊藤唯一朗氏は、生徒達のキャッシュレスへの理解と教員側の負担減をメリットとして上げる。スムーズな会計を実現するために、各クラスのPayPay担当生徒がクラスの子や保護者に事前説明をし、PayPay支払いのシミュレーションも行っていたという。

現在、横須賀高校の生徒は「家庭基礎」の授業で金融リテラシーを学んでいる。その内容は家計管理から資産形成、金融トラブルなどさまざまだが、伊藤氏は保健体育教諭として一人暮らしや結婚生活、マイホーム購入、NISAなどを絡めた授業を展開しているそうだ。

  • 学園祭を担当した保健体育教諭の伊藤唯一朗氏

現金の集金袋からキャッシュレス決済サービスへ

PayPayは以前から大学や私立学校にPayPayの導入を進めており、2023年からはサービス提供の対象を公立学校にも拡げている。

学校に向けてPayPayの導入を推進している目的は大きく2つあるという。1つ目は、若年層へのキャッシュレス決済の普及。2つ目は2022年から義務化された金融教育への貢献だ。最終的には現金の集金袋をPayPayのようなキャッシュレス決済サービスに置き換えることを目指している。

現在は学園祭のほか、部活動費、給食費などの購買費に対するPayPayの導入が可能となっており、2024年度には昨年の2倍近くの学校や大学でPayPayを利用できるよう取り組みを進めているそうだ。

経済産業省は、キャッシュレス決済比率を2025年までに4割程度にするという政府目標の達成に向けて取り組みを進めている。3月29日の経産省のニュースリリースで、2023年の比率は39.3%まで上昇したことが報告された。このうち、PayPayのようなコード決済は8.6%を占める。このまま行けば2024年度中に目標は達成されるだろう。

今後ますますキャッシュレス決済が普及していく中で、子どもたちへの金融リテラシー教育もこれまでとは異なる考え方が求められることになる。例えば、意識しない支出の増大、不正使用や詐欺のリスク、災害時の対応などが考えられるだろう。学校行事での活用を通じて、子どもたちがキャッシュレス決済との付き合い方を学ぶことは、こういったトラブルを減らすことにも繋がるのかもしれない。